上 下
26 / 56
アクロ編

第25話 着せ替え人形

しおりを挟む
 お昼過ぎにウォータール公爵家の執事がウチにやってきた。
 宗主のセフェム・ウォータールからの面会要請だ。特に用事はないので何時でも良いと言ったら、それでは2日後の午前中にお願いしますと言われる。迎えの馬車を出してくれるそうだ。

 そういえばサルファ・ウォータールはどうしてるんだろ? ミカの事は諦めたのかな? 気になるから明日確認しよう。

 夕食の時間になりリビングで3人で食事を開始した。
 そういえばナギさんはどうなるんだろ? もうBランク冒険者になったからサポートはなくなるのかな?

「僕はBランク冒険者になりましたが今後ナギさんはどうなるんですか?ギルドに戻るんですか?」

「Bランク冒険者以上の方には冒険者ギルドから専属の職員を付けることになっております。今までは前倒し的に私がサポートさせていただいておりましたが、これからは正式にアキさんの専属になります」

「じゃ今まで通り変わらないんだね。嬉しいな」

「アキさんがアクロで活動している時は全力でサポートさせていただきますので今後ともよろしくお願いします」

 助かったね。ナギさんが作る料理は美味しいからいなくなられると困っちゃうとこだったよ。

「そういえば2日後にウォータール公爵家に行かれるんですよね。礼服を用意する必要がありますね」

「やっぱりそうなるよね。明日買いに行くよ」

 ミカが食い付き気味に口を開く。

「私も行きます。奴隷として主人にはちゃんとした格好をしてもらわないと困るから」

 ミカは僕を着せ替え人形にしたいんだろうな。

「ミカの服も買いに行くよ。ウォータール公爵家には一緒に行くつもりだから」

「奴隷が一緒でも問題ないですか?」

「ミカは僕の護衛でもあるから問題ないよ。先程の執事にも確認しといたからね」

 明日の予定が決まった。反対に僕がミカを着せ替え人形にしてやる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 カーテンの隙間から朝の光が漏れてる。穏やかな朝だな。予定がダンジョンでないと気持ちにも余裕ができる。当分、ダンジョンは良いかな。

 庭に出て剣術の訓練を始める。ミカも既に庭にいて素振りをしていた。
 一通りの素振りの型を終え、木剣に変えてミカと模擬戦を始める。剣術レベルの差があり過ぎて全く相手にならない。日々努力だね。

「ミカ、昇龍シリーズの装備がいっぱいあるんだけどやっぱり売っちゃダメなの?」

「だって知らない人が同じ装備をしているのってやじゃない?お金に困ってるなら売っても良いけど困ってないし…」

「そうなんだけど置き場に困ってね」

「将来的にはクランを作って、それの専用装備にしちゃえば良いのよ。沼の主人ダンジョンはアキくんしか制覇できないから他の人が【昇龍シリーズ】の装備は手に入らないじゃない!」

 ミカは一人で納得した顔をして満足していた。

 朝ごはんを食べてミカと一緒に礼服を買いにいく。お金はいっぱいあるからアクロで一番の高級店に入った。

 すぐに中年の男性店員が愛想良く近づいてきた。僕が話題のB級冒険者と気がついたようだ。
 僕の水色の髪色と年齢、いつも着ている昇龍の装備(深い青色)等が特徴的で分かったのだろう。

「いらっしゃいませ。どのような服を御入用でしょうか?」

「明日、ウォータール公爵家に行くんだけど、それに着て行く服をお願いしたいんだ」

「数点見繕ってきます。色はどのようなのがよろしいでしょうか?」

「僕は髪色が水色だから淡い服の色だとぼやけちゃうよね。やっぱり無難に黒系が良いかな」

「了解いたしました。それではこちらでお待ちください」

 そう言って豪華な応接室に連れていかれた。試着室も備え付けられている。女性の店員がお茶を入れてくれた。

 男性の店員が3着のスーツを持ってきた。その内の一つをミカが気に入りそれに決まった。あとはシャツや靴下、靴などの小物を購入した。
 僕の買い物は終了した。さぁこれからが本番だ。

「明日はこちらのミカもウォータール公爵家に連れて行くんだ。護衛も兼ねるので剣帯をしても問題無い服装で失礼のないように見繕ってくれるかな?」

「了解致しました。スラックスタイプが良いですかね」

「いや、僕の好みはスカートだね。剣帯を装備するから広がり過ぎない膝上くらいのスカートが良いかな。下にレギンスを用意してもらえればスッキリするよね」

「わかりました。上はシンプルなシャツとジャケットにしますか。騎士風にすれば良いかと思います」

 その後、僕は応接室でお茶を飲みながらミカを存分に着せ替え人形にして楽しんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 買った物は全てマジックバックに入れて定食屋でお昼ごはんを食べた。日替わり定食は焼き魚定食だったため、ミカに骨を取ってもらって食べた。

「せっかくだから前に行った武器屋でもいかない?ちょっと気になる魔法杖があるんだ」

「私は素早さを上げてくれる【昇龍シリーズ】に満足してるから装備はいらないけど、暇だから行きましょうか」

 早速、武器屋に行く。やっぱりここは品揃えが豊富だな。
 魔術杖のコーナーに行くと以前相手をしてくれた中年男性が僕に気がついた。

「お、坊主か!いや坊主じゃないな【蒼炎の魔術師】って言ったほうが良いか」

 新しいBランク冒険者の誕生と蒼炎の魔法、僕の外見なんかの噂はアクロで相当広がっているんだな。

「坊主で良いですよ。それよりこないだ買った【黒龍の杖】より魔法の威力を抑える杖は無いですか?」

「どうだろうなぁ。探せばあるかも知れないけど、今はないな。そんなに魔法の威力を抑えたいなんて、お前の蒼炎って威力があるのか?」

「そうなんですよ。それで少し困ってるんですよね。もしそんな杖が出てきたら買いますのでよろしくお願いします」

「おぉ、分かった!任せとけ!」

「あと聞きたいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「そこの奥の棚にある【鳳凰の杖】なんですけど、効果が火の魔法の威力を上げるってなっていますがこれは魔法の範囲が上がるのか、攻撃力が上がるのか、どちらなんですか?」

「この【鳳凰の杖】は通常は20セチルほどのファイアーボールの魔法を30セチルほどにするんだ。どちらかと言えば範囲を広げる感じかな。裏の魔法射撃場で試し撃ちするか?」

「魔法射撃場が焦土と化しても良いなら試し撃ちしたいですけど」

「それはさすがに困るなぁ」

「蒼炎の魔法はダンジョン以外では撃たないようにしているんです。一度お借りしてダンジョンで試し撃ちしてきて良いですか?」

「うーん。高価な杖だからなぁ」

「それなら【鳳凰の杖】を3,000万バルで購入させていただきます。それで試してみてイマイチだったら返品対応してもらえないですか?」

「おぉ!それなら問題ないかな。そうだな今日から3日間以内だったら返品対応させてもらうよ」

「それでは【鳳凰の杖】を買わせていただきます」

「あ、そういえば坊主Bランク冒険者になったんだよな。ウチは冒険者ギルドと提携しているから2割引になるぞ」

「そうなんですか。それなら2,400万バルですね。ギルドカードで払いますのでよろしくお願いします」

 大きな買い物をしてしまった。泥ゴーレムをキャリーしてた時にもう少し範囲が広がらないかと思っていたんだよね。

 ダンジョンでの蒼炎の範囲は半径3メトル、直径で6メトルだからこれから大型の魔物のドラゴンとかと戦うことを考えて蒼炎の範囲強化はあったほうが良いね。
 早速、明日の午後にでも試し撃ちしてみよう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実力を隠して勇者パーティーの荷物持ちをしていた【聖剣コレクター】の俺は貧弱勇者に【追放】されるがせっかくなので、のんびり暮らそうと思います

jester
ファンタジー
ノエル・ハーヴィン……16才、勇者パーティー所属の荷物持ちにして隠れ【聖剣コレクター】である彼は周りには隠しているものの、魔法や奇跡を使えない代わりにこの世のありとあらゆる剣の潜在能力を最大まで引き出し、また自由に扱えるといった唯一無二のスキル【ツルギノオウ】を持っていた。ある日、実力を隠しているために役立たずと勇者パーティーを追放されてしまうノエルだったが、追放という形なら国王に目を付けられずに夢だった冒険者ができると喜んで承諾する。実は聖剣の力を使い勇者達を助けていたがノエルが抜けた穴は大きく、勇者達は徐々に没落していく事となる。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...