蒼炎の魔術師 〜冒険への飛翔〜

葉暮銀

文字の大きさ
上 下
14 / 56
アクロ編

第13話 新しい時代の風【受付嬢ナギの視点】

しおりを挟む
【第2話~第12話の受付嬢ナギの視点】

 そろそろお昼休みに入ろうとした時に、その少年は私の前に現れた。
 綺麗な水色の髪が印象的だ。ただ残念な事にこの髪色だと弱い水属性の魔法しか使えないだろう。
 貴族の可能性もあるのかしら?
 注意して応対しないと面倒なことになるかもしれない。真っ直ぐ私の受付窓口に歩いてくる。
 少年から青年に変わりかけている年齢かな? その少年が目をキラキラさせて口を開く。

「冒険者登録をしたいのですが」

「年齢はいくつですか? 15歳未満は登録できませんが」

「先日15歳になりました」

「それでは大丈夫ですね。登録いたしますのでこちらに必要事項を記載してください」

 私は規則に従って冒険者登録の用紙を渡す。
記載内容は【名前】【年齢】【特技】の3種類だ。
 冒険者登録に虚偽内容を記載すると、この後のオーブ検査に引っかかってしまう。まぁ虚偽内容を記載すると犯罪になるので、そんな人はいないけど。

 少年は記載した冒険者登録の用紙を私に渡す。その名前を見た時、私は声をあげてしまった。

「アキ・ファイアール!? ファイアール家の方ですか!」

「大きな声を出さないでください」

「あ、すいません」

「あまり目立ちたくないので内密でお願いします」

 自分より年下の少年に注意されてしまった。冒険者の情報を冒険者ギルドから漏らす事は厳禁である。これではプロとして失格だ。
 私は慌てながらも言葉を返す。

「し、失礼いたしました。それではこちらのオーブに触れてください」

 受付カウンターの左側に置いてあるオーブに少年は左手を置く。
 淡く光るオーブ。オーブと繋がっている魔道具からギルドカードが出てくる。これで冒険者登録の用紙の記述に虚偽が無い事がわかる。
 本当にファイアール家の人なんだ。でも何で赤色の髪色じゃないんだろ?
 疑問に思いながらも仕事をこなさないといけない。

「登録は以上です。こちらの冊子に冒険者ギルドでの注意が書いてありますので確認しておいてくださいね」

 私はそういうと冊子と青銅製のギルドカードを渡した。
 少年は青銅製のカードを確認して、ニコニコしている。
 その後、私は少年にギルドの冒険者の宿泊施設を教えてお昼休みに入った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 アキ・ファイアールという少年の冒険者登録をした次の日の朝、買取カウンターがどよめいた。
 アキ少年が1人でやってきてEランク魔石45個の買取を申し出たためだ。
 冒険者に成り立ての少年が持ってこれる量ではない。
 何かしらの不正を疑ったが証拠がない。また不正をする必要性がない。そのため規定に従って処理をする。
 アキ少年は冒険者登録から1日でFランクに昇格。私は何かが変わる予感がした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 次の日の早朝にはアキ少年はE級魔石は60個持ってきた。
 昨日よりも多くなっている。
 3日目が62個、4日目が59個、5日目が65個。
 そして6日目には72個を納品して、アキ少年はEランク冒険者に昇格した。

 この頃になると冒険者ギルドとしても、アキ少年を軽視できなくなる。アキ少年の出自を考えれば、何かしらの対応が必要になってくるだろう。

 そして遂に冒険者ギルドの買取カウンターに激震が走る。
 何とアキ少年がE級魔石を176個持ってきた。いったいどうやったら1人でそんなに持ってこれるのか?
 パーティを組んでいる様子はない。早朝の買い取りだから、活動は夜中なんだろうか?
 冒険者ギルド内では疑問だけが広がっていく。
 次の日からは呆れて物が言えない。
 アキ少年は毎日毎日大量のE級魔石を納品してくる。

 そして遂に最速、最年少のDランク冒険者が誕生した。

 Dランク冒険者になったアキ少年はすぐに奴隷を購入しにいった。
 出自を隠す意味でも奴隷が必要なんだろう。
 アキ少年は見目麗しい女性を購入したようだ。黒髪がとても綺麗な女性だ。間違いなく魔法を使える貴族だろう。冒険者の間でも話題になっている。

 冒険者登録で女性の名前が判明した。
 ミカ・エンジバーグ。
 これには驚いた。カンダス帝国のエンジバーグ公爵家の長女だ。最近の戦争で戦争奴隷になっていたみたい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その日、私は買取カウンターの受付をしていた。
 そこにアキ少年が奴隷のミカさんを連れてやってきた。
 いつものように大量のEランク魔石だ。
 アキ少年は何かニヤニヤしている。そして私に渡したのはオークダンジョンの制覇を示すメダルだ。
 アクロに来て1ヶ月も経たない内にオークダンジョンの制覇。やはりファイアール家の血筋が優れているのか。
 その後、アキ少年はCランクの沼の主人ダンジョンとDランクの暴風雨ダンジョンのMAPを購入していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 またまた冒険者ギルドの買い取りカウンターは色めきだった。
 アキ少年がC級魔石を46個納品しに来たからだ。目立つのを避けるためか、アキ少年は個室での納品を望む。

 冒険者ギルドとしては、アキ少年に特殊な対応をする事を決定した。
 アキ少年には個室に移動してもらい、専属担当者をつけることになる。そして専属担当者として私が指名された。これはとても光栄なことだ。

 私はアキ少年が待っている個室に向かう。私は時代の風が吹いているように感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...