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番外編

懐かしく癒される人(ジュニアside)

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魔王と勇者の息子のジュニアは母である魔王が人族の父だった勇者を亡くしても変わらず想い続けていたのは知っていた。

ジュニアも短い間だが、人族だった父の勇者と過ごした記憶は暖かくも心地よい記憶として残っていた。

ジュニアは父の勇者を亡くしてからも、優しかった父との思い出の城の庭に佇んで浸っていた。


「……父さんに会いたいな」

ジュニアが呟くと母魔王の最近側近となったイチが木の影から見ていた事にジュニアは気づいた。

「気遣わなくていいよ。降りて来てよ?」

ジュニアにそう言われ、イチは音もなく降りてきた。

「……イチだっけ?気配消すの上手いんだね」

ジュニアは降りて来ても何も言わずに頭を垂れるイチに声をかけた。

「俺と話すのはイヤ?母さんと接する様に気楽にして欲しいな」

ジュニアの言葉にイチは真っ直ぐ立ち頷いた。

「イチって無口なの?なぁ、……母さんが父さんを大事に思ってたのは知ってるんだ。だけど、何で……父さんは人族だったんだろうな?……父さんともっと一緒にいたかった、優しく頭撫でて笑っていて欲しかったんだ」

ジュニアの言葉にイチは悲しそうな表情を浮かべた。

「……魔王様側近の私でよければ、時間が合いましたら側にはいれます」

ジュニアはイチの優しい言葉に、胸の奥が暖かく感じていた。
他の誰に言われても、父の勇者の代わりに等なれないのに、イチには側にいて欲しいとジュニアは今にも泣きそうな表情でイチに抱きついていた。

「……では、たまにこうして会って欲しい」

イチは頷き、優しく頭を撫でた。
ジュニアは父勇者以外に撫でられて心地よく安らぎなんて感じなかったのにイチに撫でられ心が穏やかになっていた。

「……もっと撫でてもいい。俺の側にいて欲しい。…母さんに頼んで、イチを俺の側近にしたいな」

ジュニアはイチに擦り寄り心地よく頭撫でられていた。


「……申し訳ないです。私は魔王様の側近の立場もありますが……同じ側近のカゲから離れたくないのでお受けいたしかねます」

ジュニアは無理な願いと知ってはいたが、言葉にし断られた事に悲しそうな表情を浮かべた。

「カゲ……あの者の姿は余り見ないな。なぁ、たまにでいいこうして会って撫でて欲しいと望むのは駄目か?」

イチは悲しそうな表情で首を横に振った。

「いいのか?では、ジュニア呼びではなく俺をオウカと…撫でる時に呼んで欲しいんだが……」

「……オウカ桜の花。何故ですか?それは魔王様にも呼ばせていなかった………勇者に呼ばれていた愛称ですよね?」


「そうだ。父さんは名を呼んでいつも優しくて頭撫でてくれた……イチは名を呼ぶのは嫌か?」

イチは悩み葛藤していた。
こんなに切望されて、父勇者を思う息子であったジュニアのささやかな希望を叶えるか否か。

イチに縋り付き撫でられていたジュニアから離す様にイチは後ろに引かれた。


「ダメに決まってる!ジュニア様は軽々しく愛称呼びを臣下に求めないでください!!」

「……カゲか。心の狭い男だな?」

「狭くてかまいません!イチには近づかないでください!!」

イチは背後からカゲに抱きしめられて、ジュニアと言い合いをする光景にジュニアがカゲに対して先程とは違う不遜な態度にも驚いていた。


「独占欲強い男は嫌われるぞ?」

「……」

カゲは言い返さず抱きしめる手に僅かに力を込めた。




「決めるのはイチだ。俺は母さんにイチと会える時間を作って貰うように望むだけだ。異論は認めない!」


ジュニアはそう言い終えて、その場から立ち去った。



後日、カゲはイチと何故か他の四天王メンバー共に魔王と人払いをして話の場を設けられた。


「ふざけんな!魔王様の息子をどうにかしろ!!」

魔王はジュニアからの希望を聞いていたのもあり、事情は把握していた。

「ジュニアも父恋しさなのだろうな?気づいてないとは思うが、許してやって欲しい」

「ダメに決まってるだろ!イチの優しさに漬け込みやがって!!」

「仕方ないと諦めろ?イチは……勇者光一はジュニアを突き放せないのだからな。我……舞桜を突き放せずにいた理由と同じでだろう?」

魔王はイチに視線を向け尋ねた。

「……気づいてたんだな?」

イチは申し訳なさそうに魔王に告げた。

「そうだな。だが、今はカゲを選び共に歩む事を望んだんだろ?それで良いだろ?」

魔王はジュニアが父である勇者を亡くし塞ぎ込んでいたのは知っていたから、イチと短い時間でもいいからと会う時間を作って欲しいという希望は叶えてやりたくもあった。

イチはカゲの腕を引き、懇願する様に見つめた。

「……あー、くそっ!俺が任務中だけだからな?それ以外は認めねぇ!!イチは俺のだ!!」

カゲはイチには甘かった。イチはカゲの優しさに嬉しくカゲに礼を告げた。


こうして、イチはカゲの単独任務中だけジュニアと過ごす時間を設けた。
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