君の名を呼ぶ

JUN

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少年D

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 少年Dは、今日もネットを漁っていた。それによると、仲間だった少年Eが『少年E』という名前で手記を出版しており、それが叩かれていた。『遺族に謝罪するのが先だろう』『反省している様子が全く無い』『少年ABCは被害者遺族に慰謝料を払えと脅迫して、暴行した。何を考えているのか』などという意見がほとんどだ。
 少年Dも、ABCの考え方はおかしいと流石に思うし、その意見に納得もする。
 しかし、矯正施設から出て来て、まっとうに生きようとしても、名前やバイト先をネットにあげられたり、わかるような書き方をされると、辞める事になってしまう。
 それでDも外に出るのが怖くなって、家に閉じこもる事になったのだ。
 親も、バイトでもいい。どこか地方でもいい。とにかく家を出ろ。このまま引きこもっていても、親の方が先に死ぬんだぞ、というようになった。
 ストレス発散に、暴れたり野良猫を殺したりするのがまずいのかとDは考えている。
 田舎の祖父の養子になって名前を変えてバイトでもと言われていたところに、この手記だ。
「何でこのタイミングなんだよ」
 DはEを恨めしく思った。Eのせいだと思い、記憶の中のEを睨みつけた。

 少年Eは、新品の本を前に寝転がっていた。
 テレビで取り上げられたら、それで興味を抱いた人が本を買うだろうと思い、笑いがこみ上げる。
「そのくらいはいいよな。まともに働く事もできないんだし」
 言って、仲間だった井伏達を思う。
(あいつらはバカだよなあ。いくらなんでも、あのおっさんの息子から慰謝料は取れねえだろ)
 そして、本を眺めた。
 多少は幼少期の生活を辛いものにし、出所後も世間の目がよりきつかった風に脚色しているが、大まかには現実だと思っている。
「ちょっとミスして1人死んだだけなのに。こっちは仕方なくちゃんと矯正施設に入って大人しくしてたのに、出て来た後、顔や住所をばらされてえらい迷惑だ」
 ブツブツと言い、缶ビールを傾ける。
 と、ドアチャイムが鳴った。
「ん?誰だ?」
 ドアホールから覗くと、懐かしい顔が見えた。
「お前かあ。引きこもってたんじゃなかったのか?」
 Eは躊躇なくドアを開け、Dを玄関に引き入れた。
「久しぶりだなあ。引きこもりはやめたのか?」
「ああ。今日は久しぶりに家を出たよ」
「それで俺の所に?まあ上がれよ。
 ビールでいいだろ?」
「ああ。どうしても、ね」
「ん?」
「したい事があって」
 Dは、ポケットの中で握りしめていたそれを、背中を見せるEに突き立てた。

 新しいニュースが飛び込んで来た。少年Dが少年Eをメッタ刺しにして殺し、
「お前のせいだ!お前が!こんな本を書くから!俺は!」
と叫んで刺し続けているところを近所の住人の通報で駆け付けた警察官に逮捕されたというものだった。
 崇範はそれを新見と佐原と一緒に事務所で知った。
 そして美雪は、家でパソコンを見ていて知った。
「いつになったら終わるんだろうな」
 崇範は溜め息をついてそう言った。


 

 
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