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見えない人達
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登校し、席に着くと、すぐに友人が寄って来る。
「おーっす、深海」
「おはよう、山田、加藤」
2人は前からよく話をしていたクラスメイトで、騒ぎを経ても、何ら態度が変わらなかった。
いつもならテレビの話や宿題の話などになるのだが、今日は少し、真面目な顔をしている。
「深海はあんまり、ネットとかしないんだよな」
山田が言い難そうにしながら切り出す。
「うん。ちょっと苦手かな」
「じゃあ、ファンサイトができてるのも知らないか」
「何の?」
山田と加藤は苦笑して、スマホをいじって崇範に差し出した。
「深海のファンが自然に集まって、出来たんだ。大概はどの番組のどのシーンのどの役が深海だって教え合ったり、それについて色々感想を書き込み合うだけの平和な集まりなんだけどな」
「いや、十分怖いよ、スタントマンとして」
「そこに、『深海と東風を見守る会』ってグループがあるんだよ」
崇範は、いつの間にか見守られていた事に驚き、動揺した。
「基本、素直にがんばれーっていうスタンスなんだけどな、最近出だしたのが『深海君のお父さんの会社を倒産に追い込んだ人の娘なのに厚かましい』とか、『家族は悪い事をしたと思ってないのでは。だったら幸せにはなれないと思う』という意見なんだよ」
「それで、もめかかってるんだよ」
崇範は、そんなサイトがあるのも初耳で、尚且つそんな騒ぎになっていると聞いて、まずは冷静に現状を把握しようと努めた。
「そういう人は……いや、その前に、それは東風さんも見たのかな」
山田と加藤はチラッと顔を見合わせて、言い難そうに、
「多分、見たかもな……」
と答えた。
崇範は自分の意見を書き込むべきか考えた。
が、それを見越したように、加藤が言った。
「ヘタな事を言うと炎上するから、事務所の人に相談した方がいいぞ。
それで、東風さんには深海から言う方がいいだろうな」
「そういうものなのか」
「顔が見えない相手ってのは怖いぞ。言いっぱなしでいいからな」
「ああ。普段よりもヒートアップしやすいから、気付いたらとんでもない騒ぎになる。
っていうか、深海、本当に見ないんだなあ」
ネットには嫌な記憶しかないからな、というのを押しとどめ、崇範は曖昧に笑っておいた。
ありがたい忠告を聞いて、崇範は考えた。美雪に何をどう言おうか、ネットの方はどうしようかと。
その前に、見ておくべきかと思ったが、過去の経験から怯んでしまう。それでも、確認しておくべきだと思い、深呼吸して、呼び出してみた。
(成程。田中と加藤の言う通り、ほとんどは好意的なものなんだな、恥ずかしいけど)
もうやめたいと思いながらも読み進めて行くと、あった。
美雪に崇範と付き合う資格がないやら、美雪は同じ学校の生徒にいい顔をしているとか、崇範は中学時代ファンがたくさんいただの。
(大きなお世話だ)
内心でムッとした時、美雪が登校して来た。
「おはよう、深海君!」
「おはよう、東風さん」
笑顔を向け合い、
(昼休み、だな)
と崇範は決意した。
昼休み、いつも通りに崇範と美雪はお弁当を食べようと、机をくっつけた。
崇範はドキドキしながら、午前中に考えていた通り美雪に付き合いの事を言おうと思っていた。
「お腹空いたよねえ。でも、お腹いっぱいになったら、午後に化学の授業がある時は寝ちゃいそうになるの。困るわあ」
「あの先生の話し方は、独特だからね」
言いながら、タイミングをはかり、「よし」と思ったところで口火を切る。
「あの、東風さん」
「なあに?」
美雪がにこにことしながら崇範を見た。
そこに、誰かが近くに立った気配がして、2人は揃って顔を上げた。
「あら。堂上君」
そこには、硬い表情の堂上がいた。
「東風さん、ちょっと話があるんだけど」
「え、今かしら」
「今がいい」
「そう……」
迷うような美雪に、崇範は声をかけた。
「行って来たら?待ってるから」
「そう?じゃあ」
美雪は堂上について教室を出て行き、それを崇範は大人しく見送った。
美雪と堂上は、人気の少ないところで向かい合った。
「何かしら」
「東風さん。深海のファンサイトを見た事ある?」
「……あるわよ」
「じゃあ、良く思わない人もいるのは知ってるよね」
美雪は俯いた。
「俺と付き合おう」
「は?」
「俺ならそんな事は言われない」
美雪は、
(そりゃあそうでしょうねえ)
と思った。
「ほら、俺達ベストカップルって呼ばれてたじゃないか」
「そうなの?」
「え……」
堂上は思わぬ返事に言葉に詰まったが、気を取り直した。
「言われてたんだよ。つまり、俺と東風さんはお似合いだって事だよね」
美雪は混乱していた。
「え、そう?なのかしら……?でも、そういうのは、本人の決める事よね」
「深海の家の事を、東風さんも深海も、割り切れるのか?
それに深海は芸能人になるんだろ。深海にとってまずいんじゃないのかな」
美雪の顔が強張るのを見て、堂上は内心で
(よし!)
と思った。
(今はかわいそうだけど、俺と付き合い出したらすぐにそんなのは忘れるに決まってる)
そう思って、一番気になりそうなところを突いてみたのだ。
「でも、わたしは……」
「今すぐに返事が欲しいとは言わない。でも、考えてみて」
堂上はそう言うと笑みを浮かべ、それを見ながら美雪は暗い顔で考え込んだのだった。
教室に戻っても美雪は上の空で、お弁当の味もわからないままに食べ終えた。
崇範はそんな美雪の様子に今日は話すのは無理だと諦め、明日に持ち越す事にした。
今日できる事は明日に伸ばすな。その金言が正しいというのは、翌日になって初めてわかるものである。
「おーっす、深海」
「おはよう、山田、加藤」
2人は前からよく話をしていたクラスメイトで、騒ぎを経ても、何ら態度が変わらなかった。
いつもならテレビの話や宿題の話などになるのだが、今日は少し、真面目な顔をしている。
「深海はあんまり、ネットとかしないんだよな」
山田が言い難そうにしながら切り出す。
「うん。ちょっと苦手かな」
「じゃあ、ファンサイトができてるのも知らないか」
「何の?」
山田と加藤は苦笑して、スマホをいじって崇範に差し出した。
「深海のファンが自然に集まって、出来たんだ。大概はどの番組のどのシーンのどの役が深海だって教え合ったり、それについて色々感想を書き込み合うだけの平和な集まりなんだけどな」
「いや、十分怖いよ、スタントマンとして」
「そこに、『深海と東風を見守る会』ってグループがあるんだよ」
崇範は、いつの間にか見守られていた事に驚き、動揺した。
「基本、素直にがんばれーっていうスタンスなんだけどな、最近出だしたのが『深海君のお父さんの会社を倒産に追い込んだ人の娘なのに厚かましい』とか、『家族は悪い事をしたと思ってないのでは。だったら幸せにはなれないと思う』という意見なんだよ」
「それで、もめかかってるんだよ」
崇範は、そんなサイトがあるのも初耳で、尚且つそんな騒ぎになっていると聞いて、まずは冷静に現状を把握しようと努めた。
「そういう人は……いや、その前に、それは東風さんも見たのかな」
山田と加藤はチラッと顔を見合わせて、言い難そうに、
「多分、見たかもな……」
と答えた。
崇範は自分の意見を書き込むべきか考えた。
が、それを見越したように、加藤が言った。
「ヘタな事を言うと炎上するから、事務所の人に相談した方がいいぞ。
それで、東風さんには深海から言う方がいいだろうな」
「そういうものなのか」
「顔が見えない相手ってのは怖いぞ。言いっぱなしでいいからな」
「ああ。普段よりもヒートアップしやすいから、気付いたらとんでもない騒ぎになる。
っていうか、深海、本当に見ないんだなあ」
ネットには嫌な記憶しかないからな、というのを押しとどめ、崇範は曖昧に笑っておいた。
ありがたい忠告を聞いて、崇範は考えた。美雪に何をどう言おうか、ネットの方はどうしようかと。
その前に、見ておくべきかと思ったが、過去の経験から怯んでしまう。それでも、確認しておくべきだと思い、深呼吸して、呼び出してみた。
(成程。田中と加藤の言う通り、ほとんどは好意的なものなんだな、恥ずかしいけど)
もうやめたいと思いながらも読み進めて行くと、あった。
美雪に崇範と付き合う資格がないやら、美雪は同じ学校の生徒にいい顔をしているとか、崇範は中学時代ファンがたくさんいただの。
(大きなお世話だ)
内心でムッとした時、美雪が登校して来た。
「おはよう、深海君!」
「おはよう、東風さん」
笑顔を向け合い、
(昼休み、だな)
と崇範は決意した。
昼休み、いつも通りに崇範と美雪はお弁当を食べようと、机をくっつけた。
崇範はドキドキしながら、午前中に考えていた通り美雪に付き合いの事を言おうと思っていた。
「お腹空いたよねえ。でも、お腹いっぱいになったら、午後に化学の授業がある時は寝ちゃいそうになるの。困るわあ」
「あの先生の話し方は、独特だからね」
言いながら、タイミングをはかり、「よし」と思ったところで口火を切る。
「あの、東風さん」
「なあに?」
美雪がにこにことしながら崇範を見た。
そこに、誰かが近くに立った気配がして、2人は揃って顔を上げた。
「あら。堂上君」
そこには、硬い表情の堂上がいた。
「東風さん、ちょっと話があるんだけど」
「え、今かしら」
「今がいい」
「そう……」
迷うような美雪に、崇範は声をかけた。
「行って来たら?待ってるから」
「そう?じゃあ」
美雪は堂上について教室を出て行き、それを崇範は大人しく見送った。
美雪と堂上は、人気の少ないところで向かい合った。
「何かしら」
「東風さん。深海のファンサイトを見た事ある?」
「……あるわよ」
「じゃあ、良く思わない人もいるのは知ってるよね」
美雪は俯いた。
「俺と付き合おう」
「は?」
「俺ならそんな事は言われない」
美雪は、
(そりゃあそうでしょうねえ)
と思った。
「ほら、俺達ベストカップルって呼ばれてたじゃないか」
「そうなの?」
「え……」
堂上は思わぬ返事に言葉に詰まったが、気を取り直した。
「言われてたんだよ。つまり、俺と東風さんはお似合いだって事だよね」
美雪は混乱していた。
「え、そう?なのかしら……?でも、そういうのは、本人の決める事よね」
「深海の家の事を、東風さんも深海も、割り切れるのか?
それに深海は芸能人になるんだろ。深海にとってまずいんじゃないのかな」
美雪の顔が強張るのを見て、堂上は内心で
(よし!)
と思った。
(今はかわいそうだけど、俺と付き合い出したらすぐにそんなのは忘れるに決まってる)
そう思って、一番気になりそうなところを突いてみたのだ。
「でも、わたしは……」
「今すぐに返事が欲しいとは言わない。でも、考えてみて」
堂上はそう言うと笑みを浮かべ、それを見ながら美雪は暗い顔で考え込んだのだった。
教室に戻っても美雪は上の空で、お弁当の味もわからないままに食べ終えた。
崇範はそんな美雪の様子に今日は話すのは無理だと諦め、明日に持ち越す事にした。
今日できる事は明日に伸ばすな。その金言が正しいというのは、翌日になって初めてわかるものである。
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