体質が変わったので

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サンタさんにお願い(4)帰って来た家族

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 恭子は、一応の手続きをして家へ帰ると、ハンドバッグを放り出した。
 病院から斎場へ遺体は運ばれ、焼くだけでいい、と言ってある。
「斎場へ運ぶ寝台車の料金と、焼却炉の使用費と骨壺代はかかるのね。まあ、保険金が入ればこのくらいは仕方がないか。
 お骨はあの人の墓に一緒に入れておけばいいし、別にお経とかもいいわね」
 言いながら鼻歌まじりに、カレンダーを見た。
 クリスマスまで1週間程だ。恋人にクリスマスプレゼントのお願いはしてあるし、楽しみで仕方がない。
「クリスマスが楽しみだわ」
 ふふふと笑った時、急に部屋の中が寒くなった気がした。
「え。故障?」
 ストーブへ目をやり、問題なく動いているのを確認する。
 しかし今度は背後から誰かの気配がして、恭子は勢いよく振り返った。
「誰──ヒッ!?」
 そこにいたのは、今しがた病院で見て来た息子、陽斗だった。
「な、なんで、陽斗」
 震えるのを押し隠そうとしながら声をあげる。
「お母さん。クリスマス、お願いがあるんだけど」
 そうおどおどと言う様子は今朝まで見た陽斗と同じで、怖いと感じたのもつかの間、カッとなった。
「お願い!?何を言ってるのよ!お母さんがどれだけ苦労してるかわかってるの!?あんたのせいで!お母さんだって幸せになりたいのに!あんたがいなければ!」
 恭子は叫んで、発作的に陽斗の首に手をかけた。
 しかし苦しむ様子もないその姿に、我に返って、震える指を首から引き剥がして後ずさった。
「あ……あんた……誰よ」
「お母さん。クリスマスの日、一緒にいて。寂しいから。一日だけでいいから。クリスマスプレゼントは、お母さんがいい」
「や、やめ……!」
 恭子は怯えて後ろに足を引き、こたつあたって尻もちをつくと、少しでも逃げようとズリズリと這って行った。それを静かに陽斗が追う。
 恭子はいつの間にか、ゲージの前まで追い詰められていた。

 ドアを開けるのももどかしく、室内に飛び込んだ。
 奥の方からか細い悲鳴が上がり、急いで向かう。
 そこは異様な部屋だった。4畳半の和室には勉強机と子供用らしいタンスがあり、子供部屋なのだろうと予測がつく。しかしその隣には大型のゲージが置かれ、その中に布団が押し込められているし、窓は目張りがされていた。
 そして今、そのケージの前で座り込んで震えているのは30台半ばの女性で、子供の霊がその前に立って、彼女を見下ろしている。
「暮林陽斗君、だね」
 それで男の子の霊はこちらを見た。
「警視庁陰陽部の、御崎です」
「ボクは、町田です」
 それで女性も僕達に気付いたのか、助けを求めるような目を向けて来た。
「僕は、暮林陽斗です」
 霊はそう名乗った。
「何をしてるのかなあ」
 直が穏やかに訊くと、陽斗君は素直に答えた。
「お願いを、してた。もうすぐクリスマスだから。プレゼントはお母さんがいいって。寂しいから、一緒にいて欲しいって」
 母親はそれを聞いて、悲鳴を上げて頭を抱えた。
「嫌あ!許して!陽斗、ごめんなさい!殺さないで!」
 陽斗君は小首を傾げ、母親を見る。
「お父さんがいた時は、いつも楽しかった。お母さんも笑ってた。お父さんが死んでから、お母さんはいつも怒ってるし、僕はここにじっとしてろって言うから寂しくて。
 だから、クリスマスだし。一緒にいてよ」
 狂気に変じて行く目をして、陽斗君は手をのばす。
「まずい。一旦しばろう」
「わかったよお」
 直の札が陽斗君を縛り、陽斗君は虚ろな目になった。
 その時、新たな霊がその場に現れた。安積のところにいた霊だ。
「陽斗君のお父さんですね」
 その男の霊は、僕達を見た。
「陽斗君への呪殺、1撃目を返したのはあなたですね」
 父親は頷き、陽斗君を見た。
「陽斗君。君は今まで、お父さんにずっと守られていたんだよ」
 直が言うと、陽斗君は虚ろな目を父親に向けた。その目が段々と明るくなる。
「お父さん?お父さん!」
 直に合図を送ると、直が札を解く。
 陽斗君は父親に飛びついて行き、父子は笑い合った。
「陽斗君はお父さんと別の所へ行かないといけない」
 陽斗君と父親は同時に僕と直を見、頷いた。
「いいよ。お父さんが一緒なら」
 父親は、複雑そうな目を母親に向けた。
「暮林恭子さん。あなたには伺いたい事があります。署までご同行願います」
 母親はビクリと顔を上げ、放心したように天井を見た。




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