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炎の大運動会(3)対立と絆
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声援が物凄い。園児は元より、父兄席の激が強かった。
「気合入れて走れこらぁ!」
「チンタラ走りやがったらどうなるかわかってるだろうな、おいぃ!」
どこの暴力団だ。
「怜……」
「直。まあ、とにかく走ろう。凜達の応援には応えたい」
言っていると、
「どうせ選手のうちの2人は、お勉強しかしてないキャリアのもやしだ!どうってことねえ!」
という声が聞こえたので、言い直した。
「直、勝ちに行くぞ」
「意外と怜、負けず嫌いなところがあるよねえ」
と、嫌な気配が満ちて来た。
「ん?」
周囲を見回す。
「あ、あそこか」
グラウンドの隣に立入禁止のテープの張られた半分焼け落ちた建物が建っているのだが、そこが気配の中心地だった。つい最近火事になって遺体が見つかったばかりの、児童養護施設だ。
熱気と焦げ臭い臭いが漂って来る。
「何だ?」
それに、ほかの一般人の皆も気付いた。
と、その建物がいきなり炎に包まれた。
「出火したのか!?」
「消火するぞ!」
悲鳴と怒号の上がる中、消防官は動こうとしたが、それを僕が止める。
「待った!!聞いてくれ!あれは幻だ!霊の見せる幻覚で、実際には火事は起こってない!こっちの指示に従ってくれ!」
そう言うと、これでまたも、警察と消防が睨み合う。
入谷さんが僕の胸を掴みかからんばかりにして言った。
「ふざけるな!あそこに救助を待っている人がいるんだぞ!」
公民館の2階の窓には、グラウンドを見下ろしながらおたおたとする子供達が見えた。
「落ち着け!僕達は陰陽部、霊の専門家だ。指示に従え。
いいか、この炎もあの子供達も幻覚だ。本物と思わない限り、何の影響もない。だから、僕と町田で霊に対処するから、こっちの指示に従って手を貸してくれ」
消防官達は戸惑うようにしていたが、警察官側はすぐに命令を聞く体勢になった。
「我々は何を」
「徳川部長に説明を頼みたい。それから、手分けしてグラウンド内の皆を落ち着かせるように言ってくれ」
「は!了解しました!」
警察官はサッと敬礼し、片方が走って行った。
入谷はそれを見てから、ほかの消防官に言った。
「俺達はこいつらの指揮下に入る!あれは幻覚らしい。忘れるな、幻覚だ!」
「はい!」
「じゃあ、直。逝こうか」
「はいよ」
僕達は偽物の炎に包まれる建物に近付いて行った。
入り口付近では、炎の塊のようなものが踊るように蠢いていた。
「あなたは、どなたですか。何か言いたい事があるんですか」
訊くと、炎の塊は僕と直の方を見た。
あああ…… ここが燃えたら きっと戻って来る
俺の子なのに どうして引き離すんだよ
ここで待機していた警察官がその炎に包まれた人物を見て囁いた。
「あ。あれはうちの交番の管轄内に住む男性で、名前は八田耕助。アルコール依存症で、妻は先月自殺。子供に虐待の通報があり、子供はここに保護されていました」
「いました?現在は?」
「は!火事で見付かった遺体の中にありました。
ん?あの2階にいる子供の中に、いる?」
「なるほど。あの子供達は、火事で死んだ子供達ってわけだねえ」
「ふうん。こいつは火を点けた犯人で、ここが燃えれば子供が戻って来ると思ったのか。
2階の子供達は、焼け死んでしまった子供達だな。
勝手な事をする」
それで僕は、小声で入谷さんに頼みごとをした。
「わかった」
入谷さん達が走って行き、僕は八田に向き直った。
「児童養護施設に放火したのは、あなたですね」
そうだ!
ここが燃えれば 子供は家に戻って来るだろう?
もう2度と飲まない 暴力も振るわない
反省しているんだ だから 頼むよぉ
八田はそう言い、炎を大きくしながら踊り狂った。
なのに 自分に火が燃え移って
助けてもらおうと 中に入ったのに
「言いたい事はありますが、とにかくあなたはもう死んでいます。大人しく逝きましょうか」
お父さんが悪かったから
な 帰ろう な
「子供はあんたの八つ当たりのおもちゃじゃない!子供と暮らしたかったら、まずアルコールを断つ事からするべきでしたね」
子供を返せ!
カエセ カエセエェ!!
八田は実体化し、炎はますます大きくなった。
僕は刀を出すと、近付いて行って、八田を斬った。
イッショニ くらしたい
昔は 楽しかった
ああ 帰りたい 昔へ
八田はさらさらと崩れて、消えて行った。
しかしまだ、児童養護施設の炎は消えない。
そこに入谷さん達が走って来た。飾ってあった展示用の張りぼての消防車を担いでいる。
「放水!」
言うと、入谷さんは、アルミホイルを巻いたホースを建物へ向ける。
直が札を切りながら、
「これでもう大丈夫だからねえ!火は消えるよ!」
と言うと、札はホースの筒先に付き、幻覚の水を放水し始めた。
子供達はそれを見て、落ち着いて行く。
「救出を!」
「はい!」
それで消防官達は今度は中に走り込んで行き、しばらくすると、子供達を抱えて走り出て来る。
「怖かったねえ」
直が言うと、子供達は笑いながら言った。
「良かった!」
「ありがとう!」
「これで来週の運動会、出られるね!」
そう言いながら笑って手を取り合ってクルクル回り、そのまま光る粒子になって立ち昇って行った。
「気合入れて走れこらぁ!」
「チンタラ走りやがったらどうなるかわかってるだろうな、おいぃ!」
どこの暴力団だ。
「怜……」
「直。まあ、とにかく走ろう。凜達の応援には応えたい」
言っていると、
「どうせ選手のうちの2人は、お勉強しかしてないキャリアのもやしだ!どうってことねえ!」
という声が聞こえたので、言い直した。
「直、勝ちに行くぞ」
「意外と怜、負けず嫌いなところがあるよねえ」
と、嫌な気配が満ちて来た。
「ん?」
周囲を見回す。
「あ、あそこか」
グラウンドの隣に立入禁止のテープの張られた半分焼け落ちた建物が建っているのだが、そこが気配の中心地だった。つい最近火事になって遺体が見つかったばかりの、児童養護施設だ。
熱気と焦げ臭い臭いが漂って来る。
「何だ?」
それに、ほかの一般人の皆も気付いた。
と、その建物がいきなり炎に包まれた。
「出火したのか!?」
「消火するぞ!」
悲鳴と怒号の上がる中、消防官は動こうとしたが、それを僕が止める。
「待った!!聞いてくれ!あれは幻だ!霊の見せる幻覚で、実際には火事は起こってない!こっちの指示に従ってくれ!」
そう言うと、これでまたも、警察と消防が睨み合う。
入谷さんが僕の胸を掴みかからんばかりにして言った。
「ふざけるな!あそこに救助を待っている人がいるんだぞ!」
公民館の2階の窓には、グラウンドを見下ろしながらおたおたとする子供達が見えた。
「落ち着け!僕達は陰陽部、霊の専門家だ。指示に従え。
いいか、この炎もあの子供達も幻覚だ。本物と思わない限り、何の影響もない。だから、僕と町田で霊に対処するから、こっちの指示に従って手を貸してくれ」
消防官達は戸惑うようにしていたが、警察官側はすぐに命令を聞く体勢になった。
「我々は何を」
「徳川部長に説明を頼みたい。それから、手分けしてグラウンド内の皆を落ち着かせるように言ってくれ」
「は!了解しました!」
警察官はサッと敬礼し、片方が走って行った。
入谷はそれを見てから、ほかの消防官に言った。
「俺達はこいつらの指揮下に入る!あれは幻覚らしい。忘れるな、幻覚だ!」
「はい!」
「じゃあ、直。逝こうか」
「はいよ」
僕達は偽物の炎に包まれる建物に近付いて行った。
入り口付近では、炎の塊のようなものが踊るように蠢いていた。
「あなたは、どなたですか。何か言いたい事があるんですか」
訊くと、炎の塊は僕と直の方を見た。
あああ…… ここが燃えたら きっと戻って来る
俺の子なのに どうして引き離すんだよ
ここで待機していた警察官がその炎に包まれた人物を見て囁いた。
「あ。あれはうちの交番の管轄内に住む男性で、名前は八田耕助。アルコール依存症で、妻は先月自殺。子供に虐待の通報があり、子供はここに保護されていました」
「いました?現在は?」
「は!火事で見付かった遺体の中にありました。
ん?あの2階にいる子供の中に、いる?」
「なるほど。あの子供達は、火事で死んだ子供達ってわけだねえ」
「ふうん。こいつは火を点けた犯人で、ここが燃えれば子供が戻って来ると思ったのか。
2階の子供達は、焼け死んでしまった子供達だな。
勝手な事をする」
それで僕は、小声で入谷さんに頼みごとをした。
「わかった」
入谷さん達が走って行き、僕は八田に向き直った。
「児童養護施設に放火したのは、あなたですね」
そうだ!
ここが燃えれば 子供は家に戻って来るだろう?
もう2度と飲まない 暴力も振るわない
反省しているんだ だから 頼むよぉ
八田はそう言い、炎を大きくしながら踊り狂った。
なのに 自分に火が燃え移って
助けてもらおうと 中に入ったのに
「言いたい事はありますが、とにかくあなたはもう死んでいます。大人しく逝きましょうか」
お父さんが悪かったから
な 帰ろう な
「子供はあんたの八つ当たりのおもちゃじゃない!子供と暮らしたかったら、まずアルコールを断つ事からするべきでしたね」
子供を返せ!
カエセ カエセエェ!!
八田は実体化し、炎はますます大きくなった。
僕は刀を出すと、近付いて行って、八田を斬った。
イッショニ くらしたい
昔は 楽しかった
ああ 帰りたい 昔へ
八田はさらさらと崩れて、消えて行った。
しかしまだ、児童養護施設の炎は消えない。
そこに入谷さん達が走って来た。飾ってあった展示用の張りぼての消防車を担いでいる。
「放水!」
言うと、入谷さんは、アルミホイルを巻いたホースを建物へ向ける。
直が札を切りながら、
「これでもう大丈夫だからねえ!火は消えるよ!」
と言うと、札はホースの筒先に付き、幻覚の水を放水し始めた。
子供達はそれを見て、落ち着いて行く。
「救出を!」
「はい!」
それで消防官達は今度は中に走り込んで行き、しばらくすると、子供達を抱えて走り出て来る。
「怖かったねえ」
直が言うと、子供達は笑いながら言った。
「良かった!」
「ありがとう!」
「これで来週の運動会、出られるね!」
そう言いながら笑って手を取り合ってクルクル回り、そのまま光る粒子になって立ち昇って行った。
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