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炎の大運動会(1)食堂にて
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立場の違い、職務の違いで対立してしまうという事はままある事だ。例えば警察と厚生労働省の通称麻取りもそうだし、警察と消防署もそういう事がある。
「消防の野郎。危うく証拠が消えちまうところだったじゃねえか」
食堂で、刑事のグループがグチを言いながら昼食を食べていた。
「死体が出てるんだから、捜査が何よりでしょうに」
「だよな!あいつらは、ったくよぉ」
近くの児童養護施設で火事があり、焼け跡から遺体が数体見付かったのだ。そしてそれが放火らしいという事で警察は放火殺人として捜査を開始したのだが、消防では出火原因やら火元の特定やらが先で、それを特定する前に警察が現場検証として踏み込んで現場を荒らすと言って嫌い、この手の事件では、必ずと言っていいほど衝突する事になる。
そんなグチを言い合う彼らのとなりのテーブルで、僕と直、兄、徳川さん、が食事を摂っていた。
「もうすぐ幼稚園の運動会だな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「早いもんだよね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「敬も応援に行くって楽しみにしてたけど、今年は合同でやるんだって?」
兄に訊かれて、僕は頷いた。
「うん、そうなんだ。たんぽぽ幼稚園の運動場が工事でちょっと狭くなってるだろ?それで、隣のぶどう幼稚園も園舎の耐震工事で運動場が使えないらしいから、合同で市のグラウンドを借りてやる事になったんだって」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「だから今年は、組対抗でやる父兄の競技も、園対抗でやるらしいねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「へえ。向こうは確か、消防署に近いからか、消防官の子が多いとか聞くね」
「ああ、俺も聞きましたよ。
当日、天気が良くて、事件が入らない事を祈るよ」
兄がそう言ってにっこりと笑っておしまい。
になるはずだったのだが、隣のテーブルの団体がガタリと立ち上がってこちらを覗き込んだ。
「何ですって!?」
「今の話は本当ですか!?」
「大変だ!」
「意地でもぶどう園の連中に負けるわけにはいきませんよ!」
勝手に盛り上がって行くのに、僕達は困った。
「え?何?」
「怜、怜、最近起きた児童養護施設の放火事件ってあったよねえ。あれでまた」
「ああ。ぶつかったのか」
直とこそこそと話している間にも、彼らはやる気を出して、
「打倒、ぶどう園!!」
「うおおお!!」
と叫んでいた。
それを見て事情を知った警察官が、何人かシュプレヒコールの輪に入って増えて行く。
「ああ。何か、面倒臭い予感がする」
「そういう予感は、必ず当たるんだよねえ」
僕と直は溜め息をついた。
「というわけで、運動会に負けるわけに行かなくなったんだよ」
言うと、美里と冴子姉は目を丸くしてから、呆れたように笑い出した。
「警察も消防も、そういう体質は似てるわよね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「同族嫌悪?」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「こっちの意思とは関係なく、盛り上がっちゃって。子供の競技はともかく、PTAの対抗戦は負けるなと」
僕は嘆息して言う。僕は元はインドア派だったのに。体育祭とか水泳大会とか球技大会とか、そんなに好きでも無かった。
内心だけで、雨にならないかな、と思う。
しかし、敬を前にして、一生懸命に運動会で踊るダンスの練習をしている凜を見ると、晴れて欲しいと思い直した。
「はい!」
「上手だね、凜!絶対に見に行くからね!」
「ん!」
凜は嬉しそうに敬にくっつき、それから僕を見た。
「お父さんも行くぞ。頑張ろうな」
「ん!お弁当も!」
「ん。張り切って作るぞ!」
凜も敬もにこにことして両手でハイタッチをしている。
そうだな。ここはがんばって、負けないようにしよう。
「消防の野郎。危うく証拠が消えちまうところだったじゃねえか」
食堂で、刑事のグループがグチを言いながら昼食を食べていた。
「死体が出てるんだから、捜査が何よりでしょうに」
「だよな!あいつらは、ったくよぉ」
近くの児童養護施設で火事があり、焼け跡から遺体が数体見付かったのだ。そしてそれが放火らしいという事で警察は放火殺人として捜査を開始したのだが、消防では出火原因やら火元の特定やらが先で、それを特定する前に警察が現場検証として踏み込んで現場を荒らすと言って嫌い、この手の事件では、必ずと言っていいほど衝突する事になる。
そんなグチを言い合う彼らのとなりのテーブルで、僕と直、兄、徳川さん、が食事を摂っていた。
「もうすぐ幼稚園の運動会だな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「早いもんだよね」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「敬も応援に行くって楽しみにしてたけど、今年は合同でやるんだって?」
兄に訊かれて、僕は頷いた。
「うん、そうなんだ。たんぽぽ幼稚園の運動場が工事でちょっと狭くなってるだろ?それで、隣のぶどう幼稚園も園舎の耐震工事で運動場が使えないらしいから、合同で市のグラウンドを借りてやる事になったんだって」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「だから今年は、組対抗でやる父兄の競技も、園対抗でやるらしいねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「へえ。向こうは確か、消防署に近いからか、消防官の子が多いとか聞くね」
「ああ、俺も聞きましたよ。
当日、天気が良くて、事件が入らない事を祈るよ」
兄がそう言ってにっこりと笑っておしまい。
になるはずだったのだが、隣のテーブルの団体がガタリと立ち上がってこちらを覗き込んだ。
「何ですって!?」
「今の話は本当ですか!?」
「大変だ!」
「意地でもぶどう園の連中に負けるわけにはいきませんよ!」
勝手に盛り上がって行くのに、僕達は困った。
「え?何?」
「怜、怜、最近起きた児童養護施設の放火事件ってあったよねえ。あれでまた」
「ああ。ぶつかったのか」
直とこそこそと話している間にも、彼らはやる気を出して、
「打倒、ぶどう園!!」
「うおおお!!」
と叫んでいた。
それを見て事情を知った警察官が、何人かシュプレヒコールの輪に入って増えて行く。
「ああ。何か、面倒臭い予感がする」
「そういう予感は、必ず当たるんだよねえ」
僕と直は溜め息をついた。
「というわけで、運動会に負けるわけに行かなくなったんだよ」
言うと、美里と冴子姉は目を丸くしてから、呆れたように笑い出した。
「警察も消防も、そういう体質は似てるわよね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「同族嫌悪?」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「こっちの意思とは関係なく、盛り上がっちゃって。子供の競技はともかく、PTAの対抗戦は負けるなと」
僕は嘆息して言う。僕は元はインドア派だったのに。体育祭とか水泳大会とか球技大会とか、そんなに好きでも無かった。
内心だけで、雨にならないかな、と思う。
しかし、敬を前にして、一生懸命に運動会で踊るダンスの練習をしている凜を見ると、晴れて欲しいと思い直した。
「はい!」
「上手だね、凜!絶対に見に行くからね!」
「ん!」
凜は嬉しそうに敬にくっつき、それから僕を見た。
「お父さんも行くぞ。頑張ろうな」
「ん!お弁当も!」
「ん。張り切って作るぞ!」
凜も敬もにこにことして両手でハイタッチをしている。
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