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連鎖(3)怒る霊
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「おい、幸恵」
入って来たのは、軽そうな感じの男だった。
「あ、お客さん?」
窺うようにしながら上がって来るのに、僕は精一杯愛想よく言った。
「お邪魔しています」
直も笑顔で、
「どうも」
と言った。
男はにこにこしながら、幸恵さんを促してダイニングキッチン横のドアの向こうへ行った。開いた時に、そこがバスルームだとわかった。
そこで、声を殺して男が言う。
「ちょっと、金を頼む」
「また?もうないわよ。給料日前なのよ」
「大丈夫。必ず当てるから。な?」
「競馬より、堅実に稼いでよ。それか、自分のお金でやって」
「なんだよ、ええ?いつからそんなに偉そうなことを言うようになったんだ、ええ?あんな暗くてかわいげのないガキに使う金があるなら俺に寄こせよ。な?」
「明人にはがまんさせてるじゃない」
「俺だってこんな老け込んだババアの相手するより、若い美人の方がいいんだぜ、なあ」
「やめて、ねえ、やめてよ」
男が幸恵さんの髪を掴んでいるのを、確認した。
そこで僕は立ち上がって大股で2人に近寄った。
「はい、そこまで」
バッジを出そうとした時、幸恵さんの背後にいた女の霊は気配を強くし、カッと目を見開いて男を睨みつけた。
やめろ!!
洗面器が飛んで、男の顔の横をかすめ、壁に当たって落ちた。
「え?」
男と幸恵さんが、呆然と転がった洗面器を見る。男はまだ幸恵さんの髪を鷲掴みにしたままだが、2人共それにも気付いていないような様子だった。
男が何か言いかけたが、ふわりとシャンプーのボトルやせっけんが浮き上がり、次々と男に向かって飛んで行く。
まあ、多少はいい薬かと放っておいたが、カミソリが飛んで行ったので、そろそろ潮時かと刀でそれを払い落とした。
「はい、その辺で」
男も幸恵さんも怯えており、女の霊はそれを睨みつけている。
「な、何なんだよ!?ポルターガイスト!?お前がやったのか!?」
男が僕に指を突きつけるので、僕はその鼻先にバッジを突きつけてやった。
「警視庁陰陽部の御崎と申します」
男が怯んだような顔をする。
「さきほど、あなたが彼女に暴行を働いていたのを目撃しました」
それで男はへらっと笑うと、
「あんなの、ちょっとした、なあ?
ああ、じゃあ、俺、行くから」
と引き攣った笑みを浮かべて踵を返した。
が、バスルームの入り口に直がいた。
「警視庁陰陽部の町田と申しますぅ。ちょっと詳しくお話をお伺いしたいんですけどねえ」
男は観念したように、肩から力を抜いた。
取り敢えずバスルームを出ると、幸恵さんは明人君のそばに素早く寄って、明人君を抱えるようにして皆から距離を取った。
明人君は目を見開いて、女の霊を凝視している。
「あなたは?」
訊くと、男は上目遣いになってぼそぼそと喋った。
「く、草野要太、同居人です」
「お仕事は?あと、今みたいにいつも金をせびって暴力を?明人君には?」
男はびくつき、幸恵さんはハッとしたような顔を草野に向け、次いで明人君に向けた。
「まさか!暴力だなんて大げさな!だって、ねえ?」
草野が媚びるように笑うと、女の霊が怒りの気配を強くした。
このろくでなしの ヒモが!
「ひええええ!?」
草野が腰を抜かして座り込み、幸恵さんは明人君を抱いて身を固くし、明人君は叫んだ。
「この人だよ、お巡りさん!お母さんが怒った時に出る幽霊!」
どうも全員の目にこの霊は見えるようになったらしい。
「あなたは?」
念のために、僕は刀を、直は札を出して訊く。
こいつは競馬に 幸恵の金をつぎ込んで
明人も邪険にしてた
憎々し気に草野を睨んで霊の女が言う。
「お母さん?」
幸恵さんが、呆然としたようにそう女に向かって言う。
なるほど。
「あなたは幸恵さんのお母さんで、お嬢さんとお孫さんを見守っていたんですか」
女は視線を揺らし、幸恵は叫んだ。
「嘘よ!そんなはずないじゃない!だって私はいつも、叩かれたり、邪魔だって夜中に外に出されたり、うるさいって風呂場に閉じ込められたりしてたじゃない!ご飯だっておにぎり1個とかで、給食の無い日はご飯が無い日もあった!」
女は幸恵さんの言葉に俯き、それから、キッと顔を上げて男を睨んだ。
私が親からそういう扱いしか受けなかったからね
どうしていいかなんて わかるもんか
だからせめて このダニみたいなやつは
生かしちゃおかないよ
ごうっと、力が部屋の中で渦を巻いた。
入って来たのは、軽そうな感じの男だった。
「あ、お客さん?」
窺うようにしながら上がって来るのに、僕は精一杯愛想よく言った。
「お邪魔しています」
直も笑顔で、
「どうも」
と言った。
男はにこにこしながら、幸恵さんを促してダイニングキッチン横のドアの向こうへ行った。開いた時に、そこがバスルームだとわかった。
そこで、声を殺して男が言う。
「ちょっと、金を頼む」
「また?もうないわよ。給料日前なのよ」
「大丈夫。必ず当てるから。な?」
「競馬より、堅実に稼いでよ。それか、自分のお金でやって」
「なんだよ、ええ?いつからそんなに偉そうなことを言うようになったんだ、ええ?あんな暗くてかわいげのないガキに使う金があるなら俺に寄こせよ。な?」
「明人にはがまんさせてるじゃない」
「俺だってこんな老け込んだババアの相手するより、若い美人の方がいいんだぜ、なあ」
「やめて、ねえ、やめてよ」
男が幸恵さんの髪を掴んでいるのを、確認した。
そこで僕は立ち上がって大股で2人に近寄った。
「はい、そこまで」
バッジを出そうとした時、幸恵さんの背後にいた女の霊は気配を強くし、カッと目を見開いて男を睨みつけた。
やめろ!!
洗面器が飛んで、男の顔の横をかすめ、壁に当たって落ちた。
「え?」
男と幸恵さんが、呆然と転がった洗面器を見る。男はまだ幸恵さんの髪を鷲掴みにしたままだが、2人共それにも気付いていないような様子だった。
男が何か言いかけたが、ふわりとシャンプーのボトルやせっけんが浮き上がり、次々と男に向かって飛んで行く。
まあ、多少はいい薬かと放っておいたが、カミソリが飛んで行ったので、そろそろ潮時かと刀でそれを払い落とした。
「はい、その辺で」
男も幸恵さんも怯えており、女の霊はそれを睨みつけている。
「な、何なんだよ!?ポルターガイスト!?お前がやったのか!?」
男が僕に指を突きつけるので、僕はその鼻先にバッジを突きつけてやった。
「警視庁陰陽部の御崎と申します」
男が怯んだような顔をする。
「さきほど、あなたが彼女に暴行を働いていたのを目撃しました」
それで男はへらっと笑うと、
「あんなの、ちょっとした、なあ?
ああ、じゃあ、俺、行くから」
と引き攣った笑みを浮かべて踵を返した。
が、バスルームの入り口に直がいた。
「警視庁陰陽部の町田と申しますぅ。ちょっと詳しくお話をお伺いしたいんですけどねえ」
男は観念したように、肩から力を抜いた。
取り敢えずバスルームを出ると、幸恵さんは明人君のそばに素早く寄って、明人君を抱えるようにして皆から距離を取った。
明人君は目を見開いて、女の霊を凝視している。
「あなたは?」
訊くと、男は上目遣いになってぼそぼそと喋った。
「く、草野要太、同居人です」
「お仕事は?あと、今みたいにいつも金をせびって暴力を?明人君には?」
男はびくつき、幸恵さんはハッとしたような顔を草野に向け、次いで明人君に向けた。
「まさか!暴力だなんて大げさな!だって、ねえ?」
草野が媚びるように笑うと、女の霊が怒りの気配を強くした。
このろくでなしの ヒモが!
「ひええええ!?」
草野が腰を抜かして座り込み、幸恵さんは明人君を抱いて身を固くし、明人君は叫んだ。
「この人だよ、お巡りさん!お母さんが怒った時に出る幽霊!」
どうも全員の目にこの霊は見えるようになったらしい。
「あなたは?」
念のために、僕は刀を、直は札を出して訊く。
こいつは競馬に 幸恵の金をつぎ込んで
明人も邪険にしてた
憎々し気に草野を睨んで霊の女が言う。
「お母さん?」
幸恵さんが、呆然としたようにそう女に向かって言う。
なるほど。
「あなたは幸恵さんのお母さんで、お嬢さんとお孫さんを見守っていたんですか」
女は視線を揺らし、幸恵は叫んだ。
「嘘よ!そんなはずないじゃない!だって私はいつも、叩かれたり、邪魔だって夜中に外に出されたり、うるさいって風呂場に閉じ込められたりしてたじゃない!ご飯だっておにぎり1個とかで、給食の無い日はご飯が無い日もあった!」
女は幸恵さんの言葉に俯き、それから、キッと顔を上げて男を睨んだ。
私が親からそういう扱いしか受けなかったからね
どうしていいかなんて わかるもんか
だからせめて このダニみたいなやつは
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ごうっと、力が部屋の中で渦を巻いた。
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