体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
1,015 / 1,046

やりなおし(3)続ける

しおりを挟む
「ここもか」
「同じだねえ」
 恋人の瀬田川浩さんも一人暮らしで、2駅離れたところにあるマンションに住んでいた。
 こちらは、電話が通じない、ドアチャイムに応答がない、という事だったが、部屋の前に立ってみると、香坂さんの部屋と同じく、結界で閉じられていた。
「入りますね」
 管理人と同行して来た刑事にそう言い、刀で結界を切り裂く。それから管理人がマスターキーでカギを開けた。
 ドアを開けると、気配だけでなく、やかましい言い争いの声がした。
「お前のせいだ!お前がつまらない嘘なんてついたせいで!」
「そんなの知らないわ!死ねなんて私は言ってない!それに私を選んであの女を捨てたのはあなたでしょ!?」
「子供ができたなんて言われなければ、俺は華子と結婚してたのに!」
「私のせいにしないでよ!」
「お前がいなければ!」
 男が女の胸を文化包丁で3度刺すと、女がクタリとその場に崩れ落ちる。それを見て、男は自分の首をためらう様子もなく斬りつけ、血が噴水のように勢いよく飛ぶと、男は膝をつき、バタンと横倒しに倒れた。
 僕と直の背後で、刑事がポカンとしてそれを見ていた。
「あ、救急車!」
 動こうとする刑事を、制止する。
 と、女と男は立ち上がり、向かい合ってののしり合いを始めた。
「華子が、手首を切った!」
「ええ!?なんで!?」
「何で!?そんなもん、決まってるだろ!本当なら、ゴールデンウィークに華子の実家へ行くはずだったのに!お前が!」
「はあ!?私が何よ!」
「お前のせいだ!お前がつまらない嘘なんてついたせいで!」
 そうして、先程見た同じシーンになる。
 僕と直は、部屋へ上がって行った。
「お邪魔します。警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「あなたは香坂華子さんとお付き合いをされている、瀬田川浩さんですね」
 瀬田川さんと女は、ケンカをやめて、僕と直を見た。
「そちらは?」
「峰倉静香ですけど」
 そうして、4人で向かい合った。
「瀬田川さん。あなたは香坂さんの自殺を知った。それで峰倉さんを殺し、自殺した。そうですね」
 瀬田川さんと峰倉さんは目を見張り、よろりとしたが、すぐに思い出したらしい。
「あ……ああ……!」
 瀬田川さんが頭を抱えて膝をついた。
 峰倉さんは頭を掻きむしってから、瀬田川を睨みつけた。
「こんなはずじゃなかったのに!何で殺されなきゃいけないの!?」
 瀬田川さんは、キッと峰倉さんを睨みつけた。
「お前のせいだろう!?」
「私は、そろそろ結婚したかっただけなのよ!元ミスキャンパスって言ってチヤホヤされたのも昔の話。美人で若い子はどんどん入社して来るし。同級生はどんどん結婚していくし。同期の子で上司になるのも出て来るし。
 こんなはずじゃなかったのに!」
 そう言って、うずくまって泣き出した。
 そんな2人の足元には、腐乱し始めた男女の遺体がある。
「俺は、華子と結婚する予定だった。なのに、宴会の後、酔って、気付いたらホテルで峰倉と一緒にいて。酔った弾みって思ってたら、少しして子供ができたって言われて。結婚してくれないと、会社中に、もてあそばれて子供ができたら捨てられたって言ってやる。取引先にも言ってやるって。
 それで華子に別れてくれって言ったのに。全部嘘。宴会の後も、別に何もしてなかったとか。
 なんて女だ!お前のせいで、全部壊れたんだ!こんなはずじゃなかったのに!」
 瀬田川は峰倉を睨みつけて怒鳴り、そして、泣き出した。
「香坂さんのところに、行きましたね」
 瀬田川さんは頷き、鼻を啜り上げた。
「はい。電話があったんです。これから死ぬって。マンションで、独り寂しく死ぬからって。
 慌てて行ったら、もう華子は死んでいて。怖くなって、そのまま鍵を閉めて帰って来たんですけど、来た峰倉に言ったら、ケンカになって。しまいには、妊娠どころか、関係まで無かったって言い出して。腹が立って」
 僕も直も嘆息した。
「後悔、かあ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...