体質が変わったので

JUN

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再びの出会い(3)追いかけて来た過去

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 その個室のドアをノックし、中へ踏み込む。
「何でよ!あんたでしょ!?」
 流行りのワンピースを着た若い女性が地味なスーツの若い女性に食って掛かっており、周囲の15人ほどが困ったように2人を取り囲んでいた。
 ワンピースの女の周囲にはカトラリーが散乱し、スーツの女性はぼんやりとして座り込んでいた。そしてスーツの女性の生霊が、ワンピースの女性を後ろから睨みつけている。
「警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田と申します。何があったんですかねえ?」
 中で一番上と思しき男が、困惑しながらも口を開いた。
「ああ、陰陽部の。丁度いい、のかな。
 我々は新人歓迎会をしていたんですが、突然、ナイフが彼女の方に飛んで行って」
 ワンピースの女性が、同僚に肩を押さえられながらスーツの女性を睨みつけて言う。
「緋川さんがやったのよ!この間から、氷川さんの近くにいる時ばっかり変な事が起こるんだから!」
 ワンピースの女性はピクリとも動かないが、生霊の方は、憎々し気にワンピースの女性を睨みつけていた。
「まず、緋川さんというのは?それとあなたは」
 ワンピースの女性はやや落ち着いたのか、深呼吸をして言った。
「私は藤里和奈です。彼女が、緋川七美です」
 僕と直は生霊に注意を向けながら、緋川さんのそばにしゃがんだ。
「緋川さん、緋川さん。わかりますかねえ」
 生霊が揺らぎ、スッと消えると、緋川さんの目が焦点を結んだ。
「……あ……?」
 そこで僕は、藤里さんに訊いた。
「この間から起こったという変な事というのはどのようなものでしょうか」
「会社の重たいロッカーが急に倒れて下敷きになりかけたり、会社で窓ガラスが急に何枚も割れてケガをしそうになったり、会社の階段で急に誰かに突き落とされそうになったり。
 怖いわ」
 そう言って、藤里さんは近くの若い男性社員にすがりついた。
 緋川さんは顔色を青くして、震えている。
「ふうん。全部会社でおこったんですね。今回は初めて社外ですか」
「ええ、そうよ。全部その場に緋川さんがいたのよ。どうやったかわからないけど、緋川さんがやったんでしょ」
 緋川さんは、ビクリと体を震わせた。
 ほかの社員も口々に、
「確かにね」
「ええ」
と言い合う。
 僕と直は、パスを通じて無言で会話した。
〈緋川さんの生霊には間違いなさそうだな〉
〈みたいだよねえ〉
〈一旦、もう一回出させるか〉
〈自分で確認しないと、自覚できないかもねえ〉
 それで僕は藤里さんに向き直り、直は緋川さんに注意を向けた。
「理由に心当たりはありますか」
「心当たり?そんなの……妬まれてるのかしら。何か、睨まれたりするから。どうして?酷い」
 しくしくと泣いて、男性社員の胸に顔を埋め、周囲はそんな藤里さんを気の毒そうに見た。そして緋川さんは、唇を噛んで下を向いた。
「いつも、いつも……そうやってあなたは――!」
 緋川さんから生霊が抜けだす。
 勝ち誇ったような笑みを浮かべた藤里さんに、訊いた。
「藤里さんにお伺いします。その時、どんな状況だったんですか」
「どんな?」
 藤里さんはきょとんとした顔をして、考えながら言う。
「ロッカーの時は事務所で仕事中で、階段の時は歩いてて……」
 今度は生霊に向かって訊く。
「どうですか。なぜ、そんな事をしたんですか」
 直が札をきって、生霊の姿が露わになり、皆が悲鳴を上げた。

     藤里さんにまた虐められると思って怖かっただけよ

「また?」
 藤里さんは慌てたように叫んだ。
「嫌!怖いわ!どうしてそんな訳の分からない事を言うの!?自分が悪くないって言いたいんでしょ!」
 直は緋川さんに札を押し付け、それで生霊は緋川さんの体に戻った。
 緋川さんはずっと意識があったらしく、それを見ていたが、生霊が戻ったところで、怯えるように体を抱いた。
「緋川さん。取り敢えず、生霊が出てしまったのはわかりましたね?頻繁になると、戻れなくなったりして危険な事にもなるんですよ」
「だから、もう出ないように、お札を持っててもらえますかねえ」
 直がそう言って、札を握らせる。
 と、藤里さんが嘲るように言った。
「被害者ぶっていやあね!自分が根暗でドン臭くて地味なだけじゃない!」
 それに緋川さんが、涙を浮かべた目をキッと向け、胸元をはだけた。
 皆が息を呑んだが、視線を逸らす前に、それが目に入った。タバコを押し付けた痕が、7つ付いていた。
「北斗七星って、藤里さんがやったわよね、これ」
「し、知らないわ」
「この前はピンチだからってお金も」
「何の事?証拠もなしにいい加減な事を言わないでよ」
 藤里さんが言うが、緋川さんはさらに言う。
「その時、写真を撮ってたわよね。面白い顔って」
 言って、スカートもめくる。膝の上に、細い線が3本走っていた。
「これはカッターで斬りつけられた時の痕」
「私がやったって証拠でもあるの?酷いわ」
 藤里さんはそう言ってまた男性社員にすがろうとしたが、彼は一歩引いて戸惑った顔をしていた。
 緋川さんは涙を落として、叫ぶように言った。
「怖かった!あの時家から出られなくなって、やっと高校は別の県に引っ越してどうにか通ったけど、まさか同じ会社に入社するなんて……。
 怖かったのよ。藤里さんがカッターを手にするたびに、携帯を持つたびに、タバコを吸うたびに!
 そうしたら、恐怖でおかしくなって、頭がぼんやりして、藤里さんの悲鳴ではっとして」
 藤里さんは表情を取り繕う余裕もその気もないらしい。
 そして皆は、そんな藤里さんを、恐ろしい物を見るように見ていた。
「昔の事じゃない。いつまでもこだわってバカみたいに。どうしてくれるのよ」
 そう言った藤里さんから、ゆらりと生霊が立ち上った。

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