体質が変わったので

JUN

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不法投棄(4)付き返しに来る霊

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 不法投棄した男も妻も同居している息子夫婦も、神妙な顔でリビングに集まっていた。
「不法投棄した人の家の玄関前に、翌朝、捨てたものがそっくりそのまま突き返されて来るんですよ」
「あそこにいる霊が怒ってるみたいでですねえ」
 家族はお互いに、不安そうな顔を見合わせた。
「あそこは皆が捨ててるから」
「だからうちもいいかなって」
「皆がしてるからというのは、してもいい理由にはならないんですよ」
 言うと、神妙な顔の中にも不満を覗かせながら、口を閉じる。
 しかし、勝気そうな息子の嫁が、口を尖らせた。
「これまでそんな話は聞いてませんよ。あなた達、いい加減な事を言ってるんじゃないですか。その身分証、本物かどうか怪しいわ」
 僕と直は溜め息をついた。
「いいでしょう。では、朝を待ちましょうか。
 では、これで一旦失礼します」
 引き上げだ。
 母親と息子はオロオロとしたが、嫁は傲然と胸を張り、男も落ち着きを取り戻している。
 僕と直は外に出て、管轄の警察署に向かった。

 未明、霊の気配がひたひたと満ちた。
 そこでチャイムを鳴らして、不法投棄した家族が出て来るのを待った。気になってはいたのか、すぐに母親と息子が出て来た。
 と、紅葉とストーブと作業服の男の霊が突然現れる。
「待って下さい。警視庁陰陽部の御崎と申します」
「同じく町田です」
 男は疲れたような顔付きで、僕達の方を見た。
 その時に男と嫁も出て来たので、直が札をきって霊が見えるようにした。
 同時にもみじとストーブも玄関前に現れ、家族全員が目を丸くして飛び上がった。
「あなたは、不法投棄されたものを、持ち主のところに送り返しているんですね」
 それに男は不機嫌そうに頷いて、ジロリと家族を睨んだ。
「勝手に人様の家の前に捨てやがって」
 それで嫁が慌てて言った。
「ごめんなさい!でも、違うの。落とし物なの!」
 一緒にこの時を待っていた捜査員共々、その言い訳はないだろう、と思ったが、それは霊の男も同感だったらしい。
「わざわざ車に積んで落としに来たわけか?」
 嫁が狼狽え、母親と息子が嘆息した。
「あなたはあそこのマンションの管理人だった方ですね。不法投棄に対する苦情に悩まされてきて、年末に亡くなってしまった」
 男は頷き、言った。
「何をしてもなくならない。頭に来てましたよ。
 で、持って来た奴のところに、同じように置いてやればいいかと」
「それで玄関前に放置したんですねえ」
「確かに迷惑だ」
 捜査員達もしみじみと頷いて同意した。
「じゃあ、そちらはお願いします」
 言うと、捜査員は頷いて、家族を促して家の中に入って行く。これから不法投棄の件で話をするのだ。
 僕と直は、男に向き直った。
「新しく店が入れば捨てる人もいなくなるでしょうし、カメラを付けるなりして徹底的に検挙すれば、捨てる人も減るでしょう。
 だからもう、安心して、任せていただけませんか」
 男は恨めしそうな目を向けた。
「もっと前から、そうして欲しかったですな」
「申し訳ありません」
 僕と直は頭を下げた。申し訳ないとは思うが、実際には、全ての不法投棄現場にカメラを取り付ける事は財政的に難しい。
 だが、何台か用意したカメラを、恒久的にそこに取り付けるのではなく、「ここに捨てたらカメラで証拠を撮られて後から検挙される」と思わせるようになるまで取り付けておく、という風に使うのであれば、幾分使える手ではないだろうか。
「じゃあ、百箇日までのんびりとして、それから妻のところに行くとしましょうか」
 男は苦笑を浮かべ、片手をあげて、消えて行った。

 僕はその旨をレポートにして上げ、直と、アオにレタスをやって話していた。
「不法投棄の現場に、ゴミを送り返す霊が出るとかいう都市伝説みたいなのが流行る前で良かったな」
「そうだよねえ。もしそうなってたら、面白半分にゴミを捨てるバカが出そうだもんね」
「でも、不法投棄か。全国各地に物凄くあるんだよなあ」
「……それで今回みたいな管理者が次々に出たりなんて事、ないよねえ?」
「……そんなの嫌だ。面倒臭い」
「チッ」
 アオは項垂れた僕と直に、「元気出せ」というように、指を突いて鳴いた。
 





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