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死者の尊厳(1)若いライバル
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ウエディングドレスを着た若い女性の霊が、若い夫婦を恨めし気に睨んでいる。
「無念なのはわかりますが、残念ながらあなたはもう死んでしまったんです。彼の幸せを祈りませんか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「彼も彼の奥さんも、あなたの冥福を心から祈ってくれているしねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
結婚式を前に病気で死んでしまった女性が、生きている女性と結婚した元婚約者の所に現れるようになって1週間。最初は恨めし気に見ているだけだったのが、小さなケガをするようになり、車の前に突き飛ばされた事で交通課が事情を聴いておかしいと思い、陰陽部へ連絡が来たのだ。
「優しい性格だったんです。こんな事、何かの間違いです」
彼はそう言っていたが、憑いているのは、間違いなくその死んだ彼女だった。
「彼を苦しめたいと、思っていたわけじゃないでしょう?」
霊はコクンと頷いた。
「じゃあ、逝きましょう。あなただって、このままじゃ楽しくとも何ともないですからね」
霊は再び頷き、
ごめんなさい
幸せになって
と言い、彼と妻は、涙ぐんで頷いた。
「忘れないから」
「ええ。あなたも、幸せになって下さいね」
そう言われ、霊も笑って頷く。
「じゃあ、逝こうか」
浄力を当て――ようとしたところで、玄関のドアがいきなり開いて、誰かが飛び込んで来た。
「消えろ、悪霊!」
まだ若い高校生くらいの子が問答無用という感じで、あっけに取られていた霊に浄力を叩きつける。それで霊は苦しみ、怨嗟の声を上げて
騙したのか!?
おのれぇ 許さない!
未来永劫 恨んでやる!
と言い、夫婦を睨みつけながら消えて行った。
そこに、遅れて年配の夫婦が飛び込んで来た。
「大丈夫だったの!?」
「お母さん!?」
妻の親だったらしい。
「おかしいんじゃないかと思って、霊能師協会に相談して、来ていただいたのよ」
それに、夫婦が困ったような顔をする。
「今、無事に成仏してもらう所だったのよ?未来永劫恨むとか……何で勝手な事をするのよ!」
「勝手とはなによ。心配してあげたのに!」
「お義母さん、お気持ちはありがとうございました。でも――」
「お気持ちは!?それ、有難迷惑だったって言いたいのかしら」
「お前も落ち着きなさい」
夫婦と奥さんの両親は、揉めだした。
それにフンと鼻を鳴らして、霊能師が僕と直に挑戦的な顔を向けた。
「グズグズしてたから祓いましたよ。こっちもちゃんと、依頼を受けたんですからね」
それに僕と直は、軽く溜め息をつく。
「いきなりだねえ?」
「同情なんて甘っちょろい。説得なんて無駄だ。力があれば問題なく祓えるんだから」
「そうは思わないんだがな」
「フン。そんなの、ただの感傷なんじゃないですか?いつまでもおじさん達が一番じゃないですよ」
そう言って、霊能者は外へ出て行った。
「はあ。誰だ、あいつ?」
「名前は如月秀久。若手では優秀なやつだねえ」
「ふうん。随分と自信満々というか、クソ生意気というか。おじさんだとぉ?」
しかし考えると、もう31歳だ。
「おじさん、なのか」
「いやだねえ」
直は苦笑し、そして、未だ揉め続けている4人の仲裁を始めた。
「無念なのはわかりますが、残念ながらあなたはもう死んでしまったんです。彼の幸せを祈りませんか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「彼も彼の奥さんも、あなたの冥福を心から祈ってくれているしねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
結婚式を前に病気で死んでしまった女性が、生きている女性と結婚した元婚約者の所に現れるようになって1週間。最初は恨めし気に見ているだけだったのが、小さなケガをするようになり、車の前に突き飛ばされた事で交通課が事情を聴いておかしいと思い、陰陽部へ連絡が来たのだ。
「優しい性格だったんです。こんな事、何かの間違いです」
彼はそう言っていたが、憑いているのは、間違いなくその死んだ彼女だった。
「彼を苦しめたいと、思っていたわけじゃないでしょう?」
霊はコクンと頷いた。
「じゃあ、逝きましょう。あなただって、このままじゃ楽しくとも何ともないですからね」
霊は再び頷き、
ごめんなさい
幸せになって
と言い、彼と妻は、涙ぐんで頷いた。
「忘れないから」
「ええ。あなたも、幸せになって下さいね」
そう言われ、霊も笑って頷く。
「じゃあ、逝こうか」
浄力を当て――ようとしたところで、玄関のドアがいきなり開いて、誰かが飛び込んで来た。
「消えろ、悪霊!」
まだ若い高校生くらいの子が問答無用という感じで、あっけに取られていた霊に浄力を叩きつける。それで霊は苦しみ、怨嗟の声を上げて
騙したのか!?
おのれぇ 許さない!
未来永劫 恨んでやる!
と言い、夫婦を睨みつけながら消えて行った。
そこに、遅れて年配の夫婦が飛び込んで来た。
「大丈夫だったの!?」
「お母さん!?」
妻の親だったらしい。
「おかしいんじゃないかと思って、霊能師協会に相談して、来ていただいたのよ」
それに、夫婦が困ったような顔をする。
「今、無事に成仏してもらう所だったのよ?未来永劫恨むとか……何で勝手な事をするのよ!」
「勝手とはなによ。心配してあげたのに!」
「お義母さん、お気持ちはありがとうございました。でも――」
「お気持ちは!?それ、有難迷惑だったって言いたいのかしら」
「お前も落ち着きなさい」
夫婦と奥さんの両親は、揉めだした。
それにフンと鼻を鳴らして、霊能師が僕と直に挑戦的な顔を向けた。
「グズグズしてたから祓いましたよ。こっちもちゃんと、依頼を受けたんですからね」
それに僕と直は、軽く溜め息をつく。
「いきなりだねえ?」
「同情なんて甘っちょろい。説得なんて無駄だ。力があれば問題なく祓えるんだから」
「そうは思わないんだがな」
「フン。そんなの、ただの感傷なんじゃないですか?いつまでもおじさん達が一番じゃないですよ」
そう言って、霊能者は外へ出て行った。
「はあ。誰だ、あいつ?」
「名前は如月秀久。若手では優秀なやつだねえ」
「ふうん。随分と自信満々というか、クソ生意気というか。おじさんだとぉ?」
しかし考えると、もう31歳だ。
「おじさん、なのか」
「いやだねえ」
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