体質が変わったので

JUN

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漂流する悪意(4)悪意の漂着地点

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 ラインをパスにして金山さんの所へ辿り、出た先では、高田さんが火だるまの金山さんに背を向けたところだった。
「それはイメージだ!実際には火はついていない!目を覚ませ!」
 言って半狂乱の金山さんの背中を叩くと、金山さんは呆けたような顔をした。次の瞬間には火は消える。
「あ?」
「精神が燃えたと認識する事で、それを肉体にフィードバックさせているのか?」
 高田さんは僕の方を向いて僕を睨みつけ、僕は金山さんをベッドの上の本体へと押しやった。それでふわふわと体に重なり、目を覚ます。
「え?何!?何なの!?」
 途端に騒ぎ出す金山さんに、僕も高田さんも言葉をかける余裕もない。
「誰ですか」
「警視庁陰陽部、御崎と申します。高田柚香さんですね」
「はい」
「掲示板に誹謗中傷を書かれ、それを苦に自殺。中傷した棚橋さんを殺し、金山さんを殺そうとしており、次は河井さんを殺すつもりで、間違いありませんか」
「ええ。
 悪いのは私だけ?この人達は?攻撃されて、酷いデマまで流されて、がまんしてろって?」
 高田さんが薄く笑う。
「名誉棄損で訴えられましたよ」
 言うと、金山さんはヒッと声を上げて体をすくませた。
「意見を書くなら、それに責任を持つのは当然だろう?」
「だって!」
「自分に置き換えろ。今その体験をしたばかりじゃないのか?」
 言うと金山さんは一気に青ざめ、高田さんは唇を歪めた。
「まだわからないのね。やっぱり、棚橋さんと同じね」
「高田さん。わかるが、このやり方は間違いだったね」
 高田さんは、いきなり癇癪を起して、地団駄を踏んだ。
「どうすればよかったのよ!?デマでもなんでも、信じるでしょう!?いちいち説明してまわれないでしょ!?私が家族を見捨てたんじゃないって!誰が信じるのよお!!」
 実体化するのを、金山さんは震えて見ていた。そして、ジリジリと廊下の方へと出て行こうとする。
 僕は溜め息をついて、刀を出した。
「穏便に、逝ってもらいたかったが……仕方がないな。
 金山さん。君達の軽い悪意が、これを引き起こしたんだ。ちゃんとそこで、見届けろ」
 言って視界の端で睨むと、金山さんは、ヒイッと声を上げて硬直した。

     シンデシマエ!

「逝こうか」
 一歩踏み出して、掴みかかって来る手をかいくぐり、胴を斬る。

     アアアアア!!

 高田さんは消え去る最後の最後まで金山さんを睨みつけ、腕を伸ばしていた。
 その姿が消え去っても、金山さんは瞬きすらできないでいた。
 刀を消して、金山さんを見る。
「発言には責任が伴う。顔が見えないからと言って、その責任が消えるわけじゃない。わかりますね」
「あ……ああ……あ……」
 ガタガタと震えながら、金山さんは泣き出した。
「生憎精神体なので、一度戻ります。それで改めて事情を窺いに来ますので。
 反省して、間違いだったと一応訂正しておくべきでしょうかね。それでこれからは、気を付ければいい」
 金山さんは子供のようにわあわあと泣き出し、僕は、高校生は子供なのか大人なのか扱いに迷う、と思いながら体に戻った。

 玄関先で体を起こすと、直と、青い顔の河井さん、母親がいた。
「怜、状況は見えてたからねえ」
 直が言い、僕は河井さんを見た。
「そう。河井さんも見てた?」
「は、はい。電話で。あの」
「そういう事だから」
「はい。すみませんでした」
「謝る相手が違うよ」
「高田さんのお墓に、謝ろうかねえ?」
 河井さんは泣き出し、母親はおろおろと娘の肩を抱きしめていた。

 全てが片付き、僕は溜め息をついた。
「匿名って怖いよなあ」
「そうだよねえ。歯止めが利かなくなるし、ストッパーが軽くなるんだよねえ」
「匿名での書き込みをできなくすれば、書き込む前に考えるかもな」
「顔を見れば普通の子なのにねえ。何であんなひどいデマを書き込んだんだろうねえ」
 直と揃って、もう1度溜め息をつく。
「でも、精神がそうと信じれば、肉体にそれがフィードバックされるって。本当に?」
 沢井さんが訊く。
「催眠状態でその実験をしたそうですよ、昔。手に釘が刺さって血が出てるとか言って。実際は何もしてなかったんですけど、それでも言われた本人は刺さってると信じ込んで、その結果、手から血が流れ出たとか。
 あと、キリスト教徒の聖痕出血も、それが原因の場合があるとか。
 まあ、限度があるでしょうけどね」
「へえ。信じる力って大したもんだなあ」
 そこにいた人はそう言って感心した。
「信じる……か。なるほど。素敵な人が現れる。結婚相手を課長が紹介してくれる」
 神戸さんがブツブツと小声で真剣に呟き始めたのを見ながら、僕と直も小声で呟いた。
「どうしようかねえ?あれ、霊能師を紹介して欲しいってことかねえ?」
「面倒臭い事になってきたなあ。
 というか、信じる方向が違う」
 苦笑が重なった。




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