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くりかえす(1)夏休みはミステリー
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僕と直は、真剣に検討した。
「海はやっぱり危険だな。毎回何か出るだろ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「とは言え、山も手放しでは安心できないよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「何もおかしな話が出ない所を慎重に選ぶというのはどうだ?」
「それが一番、安全だよねえ」
うんうんと頷き合う。
何せ高校生の頃から、海でも山でも、危険な目に遭わなかったためしがないのだ。皆を連れて家族旅行へ行くのだから、安全でないと困る。僕や直も、24時間全員をカバーできるわけじゃないのだから。
そうして協会の情報をベースに検討を重ね、兄にも相談し、決定したのが、この高原だ。
「お馬さん!」
「高あい!」
「かっこいい!」
貸別荘の近くには牧場があり、馬や羊や牛が放牧され、触る事も、乗る事も搾乳もできる。また、出来立て牛乳やアイスも販売されているし、バーベキューコーナーもある。
「敬は小さい頃、馬に乗った事があるな。覚えてるか?」
兄が笑いながら、馬を見る敬に訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
僕と直が北海道へ出張へ行った時、馬の幽霊を連れて帰り、それにちょっとだけ敬は乗った事があるのだ。
「覚えてるよ!かっこよかったよねえ」
敬が、目をきらきらとさせた。
サクラリュウセオウも、あの世で喜んでいるだろう。
「大喜びだったものねえ。
ああ。あの時のラーメンもカニも美味しかったわ」
冴子姉がうっとりとした。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「美里ちゃんは、撮影で乗った事は?」
千穂さんが訊く。
町田千穂、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「ないわ。牛車ならあるけど」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「京香さんは?」
訊くと、京香さんは、
「食べた事はあるわ」
と笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「父さん、お馬さんに乗れる?」
凜が見上げて訊く。
「乗れるよ。なあ、直」
「うん。すぐにでも競馬場へ行けるくらいにって、しごかれたんだよね」
僕と直は一瞬遠い目になりかけたが、今思えば、あれもいい思い出だ。
乗馬体験をし、羊にも触り、牛乳も搾り、アイスもバーベキューも食べ、楽しい気分で貸別荘へ入った。
どうやら今回は無事に、楽しいだけで終わりそうだ。そう、思っていた。その時までは。
「うわあ。きれい」
そこは元は貴族の所有する別荘だった所で、明治時代には、1階の広間でパーティーも繰り広げられていたらしい。
「信州の鹿鳴館とか呼ばれてたようだよ」
女性陣が歓声を上げるのに、兄がそう解説する。
「趣があっていいところですねえ」
康二さんもカメラを構えて言う。
「ドレスのお嬢様とかがいてそうだね」
「文明開化だな」
敬と康介はそんな事を言い合いながら、玄関の短い階段を上って行く。
「ふふふ」
美里はさっと腕を組んできて笑う。
そして、大きな重厚なドアを開ける。
「――え?」
全員目を疑った。
ホールには時代がかった髪形と服装の人達が数人いて、踊ったり談笑したりしていたのだ。
「何だ?間違えた?」
兄が言うが、僕と直と京香さんの顔付きを見て、表情を引き締める。
そう。ドアを開けた瞬間、何か幕を通ったような、異界へ足を踏み入れたような感覚があったのだ。
「やっぱり、普通には終わらなかったか」
「ははは」
僕と直が溜め息をつくそばで、凜と累は、
「お姫様!」
と喜んで中に飛び込んで行き、中の人達に頭を撫でられていたのだった。
「海はやっぱり危険だな。毎回何か出るだろ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「とは言え、山も手放しでは安心できないよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「何もおかしな話が出ない所を慎重に選ぶというのはどうだ?」
「それが一番、安全だよねえ」
うんうんと頷き合う。
何せ高校生の頃から、海でも山でも、危険な目に遭わなかったためしがないのだ。皆を連れて家族旅行へ行くのだから、安全でないと困る。僕や直も、24時間全員をカバーできるわけじゃないのだから。
そうして協会の情報をベースに検討を重ね、兄にも相談し、決定したのが、この高原だ。
「お馬さん!」
「高あい!」
「かっこいい!」
貸別荘の近くには牧場があり、馬や羊や牛が放牧され、触る事も、乗る事も搾乳もできる。また、出来立て牛乳やアイスも販売されているし、バーベキューコーナーもある。
「敬は小さい頃、馬に乗った事があるな。覚えてるか?」
兄が笑いながら、馬を見る敬に訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
僕と直が北海道へ出張へ行った時、馬の幽霊を連れて帰り、それにちょっとだけ敬は乗った事があるのだ。
「覚えてるよ!かっこよかったよねえ」
敬が、目をきらきらとさせた。
サクラリュウセオウも、あの世で喜んでいるだろう。
「大喜びだったものねえ。
ああ。あの時のラーメンもカニも美味しかったわ」
冴子姉がうっとりとした。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「美里ちゃんは、撮影で乗った事は?」
千穂さんが訊く。
町田千穂、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「ないわ。牛車ならあるけど」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「京香さんは?」
訊くと、京香さんは、
「食べた事はあるわ」
と笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「父さん、お馬さんに乗れる?」
凜が見上げて訊く。
「乗れるよ。なあ、直」
「うん。すぐにでも競馬場へ行けるくらいにって、しごかれたんだよね」
僕と直は一瞬遠い目になりかけたが、今思えば、あれもいい思い出だ。
乗馬体験をし、羊にも触り、牛乳も搾り、アイスもバーベキューも食べ、楽しい気分で貸別荘へ入った。
どうやら今回は無事に、楽しいだけで終わりそうだ。そう、思っていた。その時までは。
「うわあ。きれい」
そこは元は貴族の所有する別荘だった所で、明治時代には、1階の広間でパーティーも繰り広げられていたらしい。
「信州の鹿鳴館とか呼ばれてたようだよ」
女性陣が歓声を上げるのに、兄がそう解説する。
「趣があっていいところですねえ」
康二さんもカメラを構えて言う。
「ドレスのお嬢様とかがいてそうだね」
「文明開化だな」
敬と康介はそんな事を言い合いながら、玄関の短い階段を上って行く。
「ふふふ」
美里はさっと腕を組んできて笑う。
そして、大きな重厚なドアを開ける。
「――え?」
全員目を疑った。
ホールには時代がかった髪形と服装の人達が数人いて、踊ったり談笑したりしていたのだ。
「何だ?間違えた?」
兄が言うが、僕と直と京香さんの顔付きを見て、表情を引き締める。
そう。ドアを開けた瞬間、何か幕を通ったような、異界へ足を踏み入れたような感覚があったのだ。
「やっぱり、普通には終わらなかったか」
「ははは」
僕と直が溜め息をつくそばで、凜と累は、
「お姫様!」
と喜んで中に飛び込んで行き、中の人達に頭を撫でられていたのだった。
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