967 / 1,046
くりかえす(1)夏休みはミステリー
しおりを挟む
僕と直は、真剣に検討した。
「海はやっぱり危険だな。毎回何か出るだろ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「とは言え、山も手放しでは安心できないよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「何もおかしな話が出ない所を慎重に選ぶというのはどうだ?」
「それが一番、安全だよねえ」
うんうんと頷き合う。
何せ高校生の頃から、海でも山でも、危険な目に遭わなかったためしがないのだ。皆を連れて家族旅行へ行くのだから、安全でないと困る。僕や直も、24時間全員をカバーできるわけじゃないのだから。
そうして協会の情報をベースに検討を重ね、兄にも相談し、決定したのが、この高原だ。
「お馬さん!」
「高あい!」
「かっこいい!」
貸別荘の近くには牧場があり、馬や羊や牛が放牧され、触る事も、乗る事も搾乳もできる。また、出来立て牛乳やアイスも販売されているし、バーベキューコーナーもある。
「敬は小さい頃、馬に乗った事があるな。覚えてるか?」
兄が笑いながら、馬を見る敬に訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
僕と直が北海道へ出張へ行った時、馬の幽霊を連れて帰り、それにちょっとだけ敬は乗った事があるのだ。
「覚えてるよ!かっこよかったよねえ」
敬が、目をきらきらとさせた。
サクラリュウセオウも、あの世で喜んでいるだろう。
「大喜びだったものねえ。
ああ。あの時のラーメンもカニも美味しかったわ」
冴子姉がうっとりとした。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「美里ちゃんは、撮影で乗った事は?」
千穂さんが訊く。
町田千穂、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「ないわ。牛車ならあるけど」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「京香さんは?」
訊くと、京香さんは、
「食べた事はあるわ」
と笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「父さん、お馬さんに乗れる?」
凜が見上げて訊く。
「乗れるよ。なあ、直」
「うん。すぐにでも競馬場へ行けるくらいにって、しごかれたんだよね」
僕と直は一瞬遠い目になりかけたが、今思えば、あれもいい思い出だ。
乗馬体験をし、羊にも触り、牛乳も搾り、アイスもバーベキューも食べ、楽しい気分で貸別荘へ入った。
どうやら今回は無事に、楽しいだけで終わりそうだ。そう、思っていた。その時までは。
「うわあ。きれい」
そこは元は貴族の所有する別荘だった所で、明治時代には、1階の広間でパーティーも繰り広げられていたらしい。
「信州の鹿鳴館とか呼ばれてたようだよ」
女性陣が歓声を上げるのに、兄がそう解説する。
「趣があっていいところですねえ」
康二さんもカメラを構えて言う。
「ドレスのお嬢様とかがいてそうだね」
「文明開化だな」
敬と康介はそんな事を言い合いながら、玄関の短い階段を上って行く。
「ふふふ」
美里はさっと腕を組んできて笑う。
そして、大きな重厚なドアを開ける。
「――え?」
全員目を疑った。
ホールには時代がかった髪形と服装の人達が数人いて、踊ったり談笑したりしていたのだ。
「何だ?間違えた?」
兄が言うが、僕と直と京香さんの顔付きを見て、表情を引き締める。
そう。ドアを開けた瞬間、何か幕を通ったような、異界へ足を踏み入れたような感覚があったのだ。
「やっぱり、普通には終わらなかったか」
「ははは」
僕と直が溜め息をつくそばで、凜と累は、
「お姫様!」
と喜んで中に飛び込んで行き、中の人達に頭を撫でられていたのだった。
「海はやっぱり危険だな。毎回何か出るだろ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「とは言え、山も手放しでは安心できないよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「何もおかしな話が出ない所を慎重に選ぶというのはどうだ?」
「それが一番、安全だよねえ」
うんうんと頷き合う。
何せ高校生の頃から、海でも山でも、危険な目に遭わなかったためしがないのだ。皆を連れて家族旅行へ行くのだから、安全でないと困る。僕や直も、24時間全員をカバーできるわけじゃないのだから。
そうして協会の情報をベースに検討を重ね、兄にも相談し、決定したのが、この高原だ。
「お馬さん!」
「高あい!」
「かっこいい!」
貸別荘の近くには牧場があり、馬や羊や牛が放牧され、触る事も、乗る事も搾乳もできる。また、出来立て牛乳やアイスも販売されているし、バーベキューコーナーもある。
「敬は小さい頃、馬に乗った事があるな。覚えてるか?」
兄が笑いながら、馬を見る敬に訊く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
僕と直が北海道へ出張へ行った時、馬の幽霊を連れて帰り、それにちょっとだけ敬は乗った事があるのだ。
「覚えてるよ!かっこよかったよねえ」
敬が、目をきらきらとさせた。
サクラリュウセオウも、あの世で喜んでいるだろう。
「大喜びだったものねえ。
ああ。あの時のラーメンもカニも美味しかったわ」
冴子姉がうっとりとした。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。
「美里ちゃんは、撮影で乗った事は?」
千穂さんが訊く。
町田千穂、交通課の元警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「ないわ。牛車ならあるけど」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「京香さんは?」
訊くと、京香さんは、
「食べた事はあるわ」
と笑った。
双龍院京香。僕と直の師匠で、隣に住んでいる。大雑把でアルコール好きな残念な美人だが、面倒見のいい、頼れる存在だ。
「父さん、お馬さんに乗れる?」
凜が見上げて訊く。
「乗れるよ。なあ、直」
「うん。すぐにでも競馬場へ行けるくらいにって、しごかれたんだよね」
僕と直は一瞬遠い目になりかけたが、今思えば、あれもいい思い出だ。
乗馬体験をし、羊にも触り、牛乳も搾り、アイスもバーベキューも食べ、楽しい気分で貸別荘へ入った。
どうやら今回は無事に、楽しいだけで終わりそうだ。そう、思っていた。その時までは。
「うわあ。きれい」
そこは元は貴族の所有する別荘だった所で、明治時代には、1階の広間でパーティーも繰り広げられていたらしい。
「信州の鹿鳴館とか呼ばれてたようだよ」
女性陣が歓声を上げるのに、兄がそう解説する。
「趣があっていいところですねえ」
康二さんもカメラを構えて言う。
「ドレスのお嬢様とかがいてそうだね」
「文明開化だな」
敬と康介はそんな事を言い合いながら、玄関の短い階段を上って行く。
「ふふふ」
美里はさっと腕を組んできて笑う。
そして、大きな重厚なドアを開ける。
「――え?」
全員目を疑った。
ホールには時代がかった髪形と服装の人達が数人いて、踊ったり談笑したりしていたのだ。
「何だ?間違えた?」
兄が言うが、僕と直と京香さんの顔付きを見て、表情を引き締める。
そう。ドアを開けた瞬間、何か幕を通ったような、異界へ足を踏み入れたような感覚があったのだ。
「やっぱり、普通には終わらなかったか」
「ははは」
僕と直が溜め息をつくそばで、凜と累は、
「お姫様!」
と喜んで中に飛び込んで行き、中の人達に頭を撫でられていたのだった。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる