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春を待つ空(3)友達の死
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亡くなっていたのは、戸次美琴ちゃん。幼稚園から帰って遊びに出た後、いつの間にか公園からいなくなっていたそうだ。それから探し回って、やっと深夜になって、この階段の下で死んでいるのが発見された。
皆、場所がこの階段で、ここで宏子ちゃんが亡くなった時も遊んでいた子なので、宏子ちゃんの祟りだとか思ったらしいが、決定的に違う点があった。
それは、美琴ちゃんの死因が絞殺だったという事だ。
「地面はコンクリートだし、遺留物はない。凶器は幅2センチ程度の帯状のものだな」
鑑識課員が確実にわかっている事だけを言う。
「保護者は宏子ちゃんが呼んでるとか言ってるらしいねえ」
言いながら僕と直は宏子ちゃんを見た。
宏子ちゃんは皆がいなくなってからは幼稚園にいるらしく、知らないと首を振っていた。そして今は、メソメソと泣く霊の美琴ちゃんを慰めるようにして、そばについていた。
「違うし、やったのは人間だな。生きている」
そして野次馬に視線を転じて、彼らが目に入った。
好奇心、恐れ、痛ましさを目に浮かべた人達の中で、安堵とでも言うのだろうか。違和感を与える表情を浮かべている夫婦がいた。
「あれは?」
「ああ。宏子ちゃんのご両親だねえ。でも……」
直もおかしいと感じているようだ。
調べてみる事にしよう。
確かにこれまでは、玉木夫妻はノイローゼ的に落ち込んでいたらしい。父親は会社も休んだままで、母親は泣くか、何も無い空間に向かって子供に話しかけるように喋りかけていたのを、近所の人が目撃していた。
母親は我が子に話しかけているつもりだったのだろうが、宏子ちゃん本人は、階段と幼稚園にとどまっていたのだが。
「立ち直っただけなら問題ないが、気になるな」
直も頷く。
「そうじゃないと、いいんだけどねえ」
言いながら、2人共、優維ちゃんのバッグを思い出していた。園児が通園に使う揃いのバッグの肩ベルトの幅が、約2センチだった。
玉木家はひっそりとしており、その奥の子供部屋には、新品の学習机やランドセルが置かれ、入学式に着る予定をしていたらしい紺色のワンピースが壁にかかっていた。
「宏子は入学式を楽しみにしていたんですよ。勿論私達もです」
母親は微笑んでそう言い、そこで、涙に声を詰まらせ、表情を崩した。
その背中をさすり、父親が絞り出すような声を出す。
「隣にあんな危険な場所があるなら、職員はよく監督していなければいけないでしょう?幼稚園が悪いんだ」
「宏子は、友達と一緒に学校へ行くのを、どんなに楽しみにしていたか」
「宏子ぉ。かわいそうに」
2人は寄り添うようにして、泣き出した。
戸次家は通夜の弔問客が一旦落ち着いたところで、両親も祖父母も、怒り、放心、悲しみなど、心の整理が追い付いていないという感じだった。
「美琴は宏子ちゃんの幽霊に殺されたんですか。幽霊は逮捕できますか」
祖父が唇を引き結んで訊く。
「霊は逮捕できません。
しかし今回の犯人は、生きた人間だと考えています。何かお心当たりはありますか」
それに、彼らがハッと顔を上げた。
「人間?」
「誰が……」
「変質者?」
口々に言う。その中で、母親は縋るような目を僕達に向けて来た。
「それより、美琴は苦しんでいないんでしょうか。さ迷ったりしないんでしょうか」
それに、父親は横っ面をはたかれたような顔をした。
「大丈夫です。突然の事に驚いたでしょうが、ちゃんとその時が来たら、成仏できるでしょう。苦しんでもいませんよ」
それに、母親と祖母は泣き崩れ、父親も男泣きに泣いて、
「犯人を、捕まえて下さい!必ず!」
と、頭を下げた。
「はい。だからご家族は、美琴ちゃんの楽しかった思い出を、思い出してあげてくださいねえ」
そう言って、僕と直は戸口家を辞した。
歩きながら、考える。
「まだ行くかな」
「仲良しグループを狙うなら、あと2人だよう」
「阻止するぞ」
「はいよ」
空には雲がかかり、星は見えなかった。
皆、場所がこの階段で、ここで宏子ちゃんが亡くなった時も遊んでいた子なので、宏子ちゃんの祟りだとか思ったらしいが、決定的に違う点があった。
それは、美琴ちゃんの死因が絞殺だったという事だ。
「地面はコンクリートだし、遺留物はない。凶器は幅2センチ程度の帯状のものだな」
鑑識課員が確実にわかっている事だけを言う。
「保護者は宏子ちゃんが呼んでるとか言ってるらしいねえ」
言いながら僕と直は宏子ちゃんを見た。
宏子ちゃんは皆がいなくなってからは幼稚園にいるらしく、知らないと首を振っていた。そして今は、メソメソと泣く霊の美琴ちゃんを慰めるようにして、そばについていた。
「違うし、やったのは人間だな。生きている」
そして野次馬に視線を転じて、彼らが目に入った。
好奇心、恐れ、痛ましさを目に浮かべた人達の中で、安堵とでも言うのだろうか。違和感を与える表情を浮かべている夫婦がいた。
「あれは?」
「ああ。宏子ちゃんのご両親だねえ。でも……」
直もおかしいと感じているようだ。
調べてみる事にしよう。
確かにこれまでは、玉木夫妻はノイローゼ的に落ち込んでいたらしい。父親は会社も休んだままで、母親は泣くか、何も無い空間に向かって子供に話しかけるように喋りかけていたのを、近所の人が目撃していた。
母親は我が子に話しかけているつもりだったのだろうが、宏子ちゃん本人は、階段と幼稚園にとどまっていたのだが。
「立ち直っただけなら問題ないが、気になるな」
直も頷く。
「そうじゃないと、いいんだけどねえ」
言いながら、2人共、優維ちゃんのバッグを思い出していた。園児が通園に使う揃いのバッグの肩ベルトの幅が、約2センチだった。
玉木家はひっそりとしており、その奥の子供部屋には、新品の学習机やランドセルが置かれ、入学式に着る予定をしていたらしい紺色のワンピースが壁にかかっていた。
「宏子は入学式を楽しみにしていたんですよ。勿論私達もです」
母親は微笑んでそう言い、そこで、涙に声を詰まらせ、表情を崩した。
その背中をさすり、父親が絞り出すような声を出す。
「隣にあんな危険な場所があるなら、職員はよく監督していなければいけないでしょう?幼稚園が悪いんだ」
「宏子は、友達と一緒に学校へ行くのを、どんなに楽しみにしていたか」
「宏子ぉ。かわいそうに」
2人は寄り添うようにして、泣き出した。
戸次家は通夜の弔問客が一旦落ち着いたところで、両親も祖父母も、怒り、放心、悲しみなど、心の整理が追い付いていないという感じだった。
「美琴は宏子ちゃんの幽霊に殺されたんですか。幽霊は逮捕できますか」
祖父が唇を引き結んで訊く。
「霊は逮捕できません。
しかし今回の犯人は、生きた人間だと考えています。何かお心当たりはありますか」
それに、彼らがハッと顔を上げた。
「人間?」
「誰が……」
「変質者?」
口々に言う。その中で、母親は縋るような目を僕達に向けて来た。
「それより、美琴は苦しんでいないんでしょうか。さ迷ったりしないんでしょうか」
それに、父親は横っ面をはたかれたような顔をした。
「大丈夫です。突然の事に驚いたでしょうが、ちゃんとその時が来たら、成仏できるでしょう。苦しんでもいませんよ」
それに、母親と祖母は泣き崩れ、父親も男泣きに泣いて、
「犯人を、捕まえて下さい!必ず!」
と、頭を下げた。
「はい。だからご家族は、美琴ちゃんの楽しかった思い出を、思い出してあげてくださいねえ」
そう言って、僕と直は戸口家を辞した。
歩きながら、考える。
「まだ行くかな」
「仲良しグループを狙うなら、あと2人だよう」
「阻止するぞ」
「はいよ」
空には雲がかかり、星は見えなかった。
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