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苦いチョコ(2)不倫の果ての不審な死
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不倫の噂について、すぐに直がどこからか訊き込んで来た。
それによると、佐川さんが
もうすぐ誕生日ね。今月はバレンタインもあるし、
2回も豪華デートできるわね。
人事考査で忙しくなる前に旅行とかどう?
でも、バレないようにね。
キャリアにとっては命取りなんでしょう?
というメールを書いて、その相手に送ったつもりらしいが、間違えて同僚のパソコンに送ってしまったらしい。
気付いて、
「冗談だから」
と消してくれと言って来たが、その時には、佐川さんをあまりよく思わない彼女がそれを別のファイルにコピーしていたのだ。
そして、それは仲間内に、「ここだけの話」として暴露され、それがその友人に「ここだけの話」として広がって行ったらしい。
「ここだけの話ねえ」
ここだけに収まらないのは、よくある話だ。
「佐川さんは、どうも同性に嫌われてるらしいんだよねえ。男の前ではかわい子ぶりっ子するって。それで、女子相手には、本当に色々あるみたいでねえ。ブスとか何とか見下すのは当たり前で、自分よりかわいい子がいると、虐めるとか」
「そんなやついるのか、社会人で」
「怖いよねえ」
「騙されて鼻の下を伸ばす男も男だな」
「それには同感だよう」
言っていると、小牧さんが合流した。
「係長達、気になってるんでしょう?同期がその相手かどうか」
元公安。鋭いし、情報収集能力は直とは別の方法で高い。
「城北さんも三宅さんも、近いうちに調査が入るでしょうね。どうも、監察の耳にもこの噂が入ったようです」
そう言って、嘆息する。
「今はメールだけが不倫の証拠みたいなものですけど、調べ出したら、徹底的に調べられますからね」
「このメールの通りなら、警察人生も終了だな」
「城北に限って、無いとは思うけどねえ」
「甘いですよ。理性がおかしくなるのが恋愛。だから、愛憎絡みの事件は後を絶たないし、真面目で免疫が無い人ほど、階段を踏み外すんですよ」
僕達は、唾を飲み込んだ。
「免疫はないな」
「ないよう。ばっちりそういうタイプだよう」
そこで、小牧さんはちょっと笑った。
「不思議だなあ。普通ならここで、同期の心配なんてしませんよ。むしろ、ライバルが減る事をほくそ笑んで歓迎しますけどね、キャリアって人種は」
僕も直も、肩を竦めた。
「僕は出世に興味はないから。むしろ、面倒臭いから誰かに上に行って欲しい」
「ボクも、そういうのはガラじゃないんだよねえ。ほどほどで、家庭を大事にしたいからねえ」
小牧さんは面白そうに笑い、
「まあ、想像通りの答えでしたね。
じゃあ、一緒に祈っておきますか。城北さんが相手じゃないって事を」
と言った。
僕と直は、城北のところに行った。
すると城北は、フンと鼻を鳴らし、言った。
「そんなバカな事をするはずがないだろう?この俺が」
「まあな。でも、免疫がないとなあ」
城北はムッとしたように、机の抽斗から小箱を出した。
「俺だってチョコレートくらい貰ったぞ!」
「それ、もしかして、佐川さんから?」
城北は、慌てて言う。
「義理だけど!でも、カッコいいって、頼れるって言ってくれたからな!
いやあ、元アイドルだけあってかわいいよな。まあ、結婚相手にどうかというのは別の話だけど」
鼻の下を伸ばす城北を見ながら、僕と直は、嘆息しながら、
「免疫はないな」
「ないねえ」
と言い合った。
「免疫?何の話だ?」
「いや、こっちの事。
それで、佐川さんとは何でも無かったんだな?」
「ない!」
「そうか。それならいい。安心した」
「いやあ、万が一って心配でねえ」
城北は面映ゆそうな顔をして鼻の横をかいてから、
「忙しいんだ。ほら、お前らも仕事に戻れよ。シッ、シッ」
と言い、背を向けた。
が、耳まで真っ赤だ。
「はいはい。んじゃな」
「何かあったら言えよねえ」
僕と直も、背中を向けてその場を去った。
が、この後、思いもかけない事件が起こる。
佐川さんが、屋上から転落死したのだった。自殺、事故、他殺、不明――。
それによると、佐川さんが
もうすぐ誕生日ね。今月はバレンタインもあるし、
2回も豪華デートできるわね。
人事考査で忙しくなる前に旅行とかどう?
でも、バレないようにね。
キャリアにとっては命取りなんでしょう?
というメールを書いて、その相手に送ったつもりらしいが、間違えて同僚のパソコンに送ってしまったらしい。
気付いて、
「冗談だから」
と消してくれと言って来たが、その時には、佐川さんをあまりよく思わない彼女がそれを別のファイルにコピーしていたのだ。
そして、それは仲間内に、「ここだけの話」として暴露され、それがその友人に「ここだけの話」として広がって行ったらしい。
「ここだけの話ねえ」
ここだけに収まらないのは、よくある話だ。
「佐川さんは、どうも同性に嫌われてるらしいんだよねえ。男の前ではかわい子ぶりっ子するって。それで、女子相手には、本当に色々あるみたいでねえ。ブスとか何とか見下すのは当たり前で、自分よりかわいい子がいると、虐めるとか」
「そんなやついるのか、社会人で」
「怖いよねえ」
「騙されて鼻の下を伸ばす男も男だな」
「それには同感だよう」
言っていると、小牧さんが合流した。
「係長達、気になってるんでしょう?同期がその相手かどうか」
元公安。鋭いし、情報収集能力は直とは別の方法で高い。
「城北さんも三宅さんも、近いうちに調査が入るでしょうね。どうも、監察の耳にもこの噂が入ったようです」
そう言って、嘆息する。
「今はメールだけが不倫の証拠みたいなものですけど、調べ出したら、徹底的に調べられますからね」
「このメールの通りなら、警察人生も終了だな」
「城北に限って、無いとは思うけどねえ」
「甘いですよ。理性がおかしくなるのが恋愛。だから、愛憎絡みの事件は後を絶たないし、真面目で免疫が無い人ほど、階段を踏み外すんですよ」
僕達は、唾を飲み込んだ。
「免疫はないな」
「ないよう。ばっちりそういうタイプだよう」
そこで、小牧さんはちょっと笑った。
「不思議だなあ。普通ならここで、同期の心配なんてしませんよ。むしろ、ライバルが減る事をほくそ笑んで歓迎しますけどね、キャリアって人種は」
僕も直も、肩を竦めた。
「僕は出世に興味はないから。むしろ、面倒臭いから誰かに上に行って欲しい」
「ボクも、そういうのはガラじゃないんだよねえ。ほどほどで、家庭を大事にしたいからねえ」
小牧さんは面白そうに笑い、
「まあ、想像通りの答えでしたね。
じゃあ、一緒に祈っておきますか。城北さんが相手じゃないって事を」
と言った。
僕と直は、城北のところに行った。
すると城北は、フンと鼻を鳴らし、言った。
「そんなバカな事をするはずがないだろう?この俺が」
「まあな。でも、免疫がないとなあ」
城北はムッとしたように、机の抽斗から小箱を出した。
「俺だってチョコレートくらい貰ったぞ!」
「それ、もしかして、佐川さんから?」
城北は、慌てて言う。
「義理だけど!でも、カッコいいって、頼れるって言ってくれたからな!
いやあ、元アイドルだけあってかわいいよな。まあ、結婚相手にどうかというのは別の話だけど」
鼻の下を伸ばす城北を見ながら、僕と直は、嘆息しながら、
「免疫はないな」
「ないねえ」
と言い合った。
「免疫?何の話だ?」
「いや、こっちの事。
それで、佐川さんとは何でも無かったんだな?」
「ない!」
「そうか。それならいい。安心した」
「いやあ、万が一って心配でねえ」
城北は面映ゆそうな顔をして鼻の横をかいてから、
「忙しいんだ。ほら、お前らも仕事に戻れよ。シッ、シッ」
と言い、背を向けた。
が、耳まで真っ赤だ。
「はいはい。んじゃな」
「何かあったら言えよねえ」
僕と直も、背中を向けてその場を去った。
が、この後、思いもかけない事件が起こる。
佐川さんが、屋上から転落死したのだった。自殺、事故、他殺、不明――。
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