体質が変わったので

JUN

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心霊警察・爆発する想い(1)言い訳する人々

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 男は俯いて、大人しくしていた。
「女装してスーパー銭湯に入って、女性用脱衣所に侵入。バッグに仕掛けた隠しカメラで盗撮した。
 間違いありませんね」
 千歳さんが淡々と確認するのに、男は顔を上げ、必死に訴えて来た。
「違います!その、昨日の夜に金縛りにあって、それから意識も記憶も定かではないんです!きっと幽霊に憑りつかれたんですよ!」
 千歳さんは無表情で、軽く嘆息した。
「それでは、検査しましょう」
 ウキウキと美保さんが言うと、控えていた神戸さんが楽しそうに進み出る。
「これは憑依されていたかどうかを探知する機械で、略してひょうたんと言います。ここのランプが点いたら憑依されていたという事になりますよ」
「え」
「はい。測りますよ」
 神戸さんが言いながらひょうたんを男に当てて、スイッチを入れる。
「何だ。憑依なんてされてないじゃないですかぁ。色々訊きたかったのに」
 残念そうに神戸さんが言い、美保さんが詰まらなさそうに言う。
「単なるチカンですね。霊のせいにすればいいと思ったの?バレない訳ないでしょう?」
「ま、待って、待って下さい。それ、本当に?」
 男が疑うようにひょうたんを見るので、千歳さんはマジックミラーに向けて
「係長」
と声をかけた。
 それで僕達が取調室に入って行く。
「はい。では実験しましょう」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「まだ周知徹底されていないので、特別に生でサービスしますよう」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「ご紹介しましょう。こちらは昨日暴れていたのを捕まえたばかりの方です。今回、協力して頂けることになりました」
 言うと、直が札で縛った霊を見えるようにした。
 仲間割れで殺されて、恨みから仲間の組員を片っ端から襲っていったチンピラの霊だ。
「ヒイッ!」
 チカンの男が悲鳴を上げたのは、血まみれの霊だからか、それがチンピラそのものという目付きだったからか。
「まず何も憑かれていない人の反応は、さっきと同じ、ランプが点きません」
 神戸さんが言い、ひょうたんを美保さんに押し当てる。
「次に、1度憑依してもらい、剥がしてから計測します」
「じゃあ、札をはがすからねえ。逃げようとしても無駄だからねえ?」
「大人しく憑け。そうしたら無事に祓ってやるし、お前を殺したやつらを皆逮捕してやる。任せろ」
 チンピラは頷き、美保さんに憑りついた。
 美保さんは1度瞬きした後、ニタリと笑って、言った。
「バーカ。こいつの体はいただきだ!」
 そして逃げ出そうとするので、僕は足を引っかけてつんのめらせた。一応体は美保さんなので、転ばせてケガでもさせたら悪い。
 そして、浄力をバンと叩きつけ、追い出されるように出て来た霊に、
「約束を守らないとだめだろ。人間関係の基本だぞ」
と言いながら、浄力をぶつけて消し去った。
「大丈夫かねえ?」
 直が、つんのめった美保さんを支えて訊くと、美保さんはきょろきょろしながら体を起こした。
「はい、計測しますよ。
 はい、反応ありです!」
 神戸さんがひょうたん片手に言い、美保さんと、
「憑依したよ!」
「いいなあ、いいなあ」
と喜んでいた。
 そして千歳さんは冷静に言う。
「あなたの意思で盗撮しましたね」
 男は項垂れて、
「はい。済みませんでした」
と頭を机にぶつけるくらい下げた。
 よく名物コーナーに『酔っ払いの言い訳シリーズ』がある。
 なので今回、霊のせいにしようとする被疑者を集めたのだ。
 ほかには、万引きを憑依されたせいだと言い張った学生、スピード違反をF1レーサーの霊が憑依したと言ったサラリーマンも撮影した。
「バレないと思うのかな」
 高田さんが笑いながら言うのに、甲田さんが、
「面白いし、数字が取れて名物コーナーになればどうでもいいよ」
と笑う。
 そんな風に3係を中心に撮影をやっていたが、新たな相談が寄せられた。
 それがただのいいわけではなく、騒動の始まりだったとは、知る由もなかった。


  
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