体質が変わったので

JUN

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プロジェクトH(3)スカウト

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 神戸さんが言い出した。
「そもそも、霊がいるって、どうやってわかるんですか?」
 そう言われても困る。
「普通に見えたり、まず気配を感じる事もあるよな」
「だよねえ。普通に何かを見るのと変わらないよねえ?」
「例えば、『あ、コンビニあった』って見付けるみたいに、『あ、幽霊がいた』と?」
 神戸さんの問いに、
「そうそう」
と頷くと、神戸さんと京極さんは微妙な顔をした。
 それで、ふと思って言った。
「僕達霊能師は、たぶん五感を使ってそのセンサーの掴む情報を掴んでいるんだろうな。
 それでも、話せたり見えたりするのはなぜなんだろう?それも、センサーの感度かな?」
「あ、そう言えば、生まれつきなんですか?」
 と、思い付いたように京極さんが訊いた。
「いや。僕は頭をぶつけて、仏壇の位牌を倒した時からだ」
「ボクは、霊に体を貸してからだねえ」
「懐かしいなあ」
「だよねえ。高校1年の時だもんねえ」
 しみじみと思い出して言い合う。
 それに、神戸さんは、
「貸す!?霊に体を貸したんですか!?何で!?」
とのけ反り、京極さんは、マッドサイエンティストのような顔付きでぶつぶつと言い出した。
「遺伝ではないのか。でもよく、『見る家系』とか言うけど……。
 でも、頭をぶつけた、か」
 それに、言っておく。
「ああ、脳に異常は無かったよ。そこまで強く打ったわけでもないしな」
 すると、京極さんは頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「ああ、全然わからない!」
 そこで、提案してみた。
「取り敢えず、誰か、霊に一度憑かれて離れた人を計測してみる必要があるな。さっきの鑑識課にいた霊に、協力をお願いしてみよう」
「近くにいて助かったねえ」
 僕と直はそう言いながら立ち上がり、神戸さんと京極さんは、
「助かった?まあ、そうかもしれないけど。なんだかなあ」
「確かにその確認は必要ではあるし、近くにいて良かったけど、すぐ近くにいたなんて、良かったの?」
「それ、俺がマジで怖い。知らずにその鑑識課にいたんだから」
「なんでばけたんで調べなかったの」
「赤くなったら怖いでしょ」
「じゃあ、何で買ったのよ」
「面白そうだから?」
「神戸君。あんた、矛盾してるわ」
などと言いながらついて来た。
 鑑識課に行き、課長にザッと説明すると、課員全員が、部屋の反対側に寄った。
 それで僕は、その霊に向き直った。
「こんにちは」
 その中年の女性の霊は、ただじっと恨めし気に佇んでいた。
「後悔しているんですか」
 訊くと、初めて彼女は顔をこちらに向けた。

     誰?私が見えるの?

「霊能師で、陰陽課の御崎と申します」
「同じく、町田と申しますぅ」
「苦しかったでしょうね」

     あんまりだわ
     ダイエットのご褒美にケーキを食べてたら空き巣が来て
     驚いたはずみで喉に詰まって
     紅茶を飲もうとしたら焦って落として火傷して
     水を飲もうとしたら 驚いた犯人に刺されて
     傷は痛いし、顔は洗い桶に突っ込んで苦しいし
     ダイエットするんじゃなかった

「いや、ケーキをやめるべき――違うな。紅茶が熱すぎたんだな」
「そう?え、そうなのかねえ?」
 彼女は苦笑をうかべて首を振り、僕は短く嘆息した。
「あ、あの?」
 京極さんがそっと声をかけるのに、神戸さんが小声で説明してやる。
「異臭がするって通報があって近所の交番から見に行ったら、住人の伏見さんがキッチンで死んでいるのが見つかったんだよ。
 脇腹と背中を包丁でめった刺しにされていて、顔は洗い桶の中に突っ込んでいてね」
「まあ。会話内容もどこにいるかもよくわからないけど、そうなの」
 それで2人は、手を合わせた。
「まあ、犯人は無事に捕まりました。あなたも、苦しいのは終わりにしませんか」

     まあ いつまでもこうしていても仕方がないわね

「その前に、お願いがあるんですが。
 実は、ある装置の開発をしていまして、それに霊の方の協力が必要なんです。成仏前に、ご協力いただけませんか」
「終われば、ちゃあんと丁寧に送りますしねえ」

     この世の最後に協力もいいわね

「ありがとうございます」
「助かりますぅ」
 それで、やり取りが聞こえなかった皆にも、協力してもらえるとわかったらしい。
「あ、OKですか」
「仲間ね。どんな方かしら」
「ああ、それもそうだな。見えて、聞こえる方がいいな。直」
「りょうかーい」
 直が札をきり、伏見さんの姿が露わになる。
 背中、脇腹がズタズタになって、服も血みどろ。髪からは水が滴り、喉にはひっかき傷がたくさんつき、指の爪の間には血と首の肉がつまっている。そして、死後2週間経っての発見だったので、全身が軽く腐乱している。
「伏見です。よろしく」
 僕と直以外の全員が硬直し、震えながらガクガクと首を縦に振った。





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