体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
917 / 1,046

神様が多すぎる(4)守り神

しおりを挟む
 渡辺竜二は自宅アパートに帰り、妻の秀子と300万円を前に乾杯していた。
「上手く行ったな」
「おめでたいお嬢さんに感謝ね。
 でも、大丈夫なの?」
「ああ。しばらくの間、先輩のところで修行させてもらうって言ってあるからな。まあ、近いうちにはここを出てどこかに場所を変えないと。
 どこに行きたい?」
 楽しそうに笑う2人だったが、突然目の前に犬が現れたので驚いた。
「へ!?何で!?どこから入ったの!?」
「マ、マロン!?お前、やっぱり俺を殺す気か!?」
 2人は各々叫んで、渡辺は座布団を盾のようにして震え出した。
「ウウウウ、ワン!!ワワン!」
「ヒイッ!」
 マロンは唸り、激しく吠えたて、とびかからんと体を低くする。
「何なの!?知ってるの!?」
「あの女の犬だ!うるさいし、懐かないし、ホースで絞め殺したんだ!そうしたらこの前、駅で現れて、階段から落とされたんだよ」
「それって、犬が化けて出たって事?」
 秀子は震えて言い、マロンからも渡辺からも距離を置こうとするかのように、じりじりと下がった。
 マロンは唸り声を上げ、体を低く、飛び掛かるようにして渡辺を睨んでいる。
 僕と直がどうにか飛び込んだのは、そんな時だった。
「マロン、ストップ!もういい!」
「マロン、伏せだよう、伏せ」
 マロンは渋々その場に伏せ、僕と直はそのそばに行った。
「なな何ですか今度は!」
 秀子が言う。
「警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田ですぅ」
「あ!この前の刑事!さん」
 渡辺が僕と直を順に指さし、それから取り繕うように笑顔を浮かべた。
「突然この犬が現れて困ってたんですよ」
「駅で吠えて来たのもこの?」
「あ、はい」
「ちゃあんと覚えがあったんじゃないですかあ。自分が殺したマロンだってねえ」
 渡辺と秀子はビクッとしたが、フフフと誤魔化すように笑った。
「何、言ってるんですか。やだなあ」
「マロンにも聞きましたし、ホースに指紋も残ってましたよ。言い逃れは無駄ですからねえ」
「渡辺竜二。詐取と器物損壊の容疑で逮捕する。
 渡辺秀子。詐取の容疑で逮捕する」
 それに、2人は騒ぎ出した。
「待て、待ってくれ!誤解だ!」
「話はちゃんと聞くから、安心しろ。
 はい。11時23分」
 僕と直で2人に手錠をかけ、ほかのメンバーが、証拠物を押収するために入って来る。
 そして2人は、ふてくされたようにしながら、千歳さんと目黒さんにパトカーへ乗せるために歩かされて行った。
 それを、マロンは見送り、クンクンと泣き出した。
「マロン。もう心配ないからねえ?ちゃんと、吉永さんを守ったねえ。偉かったよう」
「ワン!」
 直はひとしきりわしゃわしゃとマロンの首をかくと、マロンは気持ちよさそうにしてから、消えた。
 吉永さんの所だろう。
 後を任せて、再び僕達は吉永さんの所へ行った。
 吉永さんは泣いていたが、僕達を見て、笑った。
「マロンが来てくれたんです。もう大丈夫って言うように顔を舐めて。それで、消えて」
 もう、人形にもどこにも、マロンの気配はない。
「安心して、成仏したんですね」
「留め続けるのは、いけませんからねえ。いい思い出を時々思い出すくらいでいてあげてくださいねえ」
「はい」

 300万円は戻り、精神的には傷付いたが、どうにか吉永さんは立ち直りつつある。
 そして渡辺達は、おとなしく聴取に応じている。
「ま、良かったよな」
「だよねえ」
「チチッ」
「ところで、それは何なのかねえ、怜」
 僕は、茶色と白と黒のムートンの端切れを縫い合わせたそれを見せた。
「猫をなかなか触れないだろ?」
「うん」
「何で思い付かなかったんだろう。こうすればよかったんだよな」
 僕は、チクチクと手縫いで作ったそれをジャーンと掲げた。
「名前はミケ!にしようかな」
 それで、室内にいた皆が、口をつぐんでそれを見た。なぜか、新メンバー以外は顔色が悪い。
「これ、もしかして猫かねえ?」
「ああ、裁縫はあんまりやった事無いからなあ。でも、手触りとか色とかを好みの感じにしたいしと思って」
「ええっと、怜。中身はどうするのかねえ?」
 直が、猫のぬいぐるみと僕の顔を交互に見て訊く。
「まさか、今朝、車に引かれて死んでた猫の霊を拾ったんじゃないだろうねえ?」
「流石にそれはなあ。
 だから、タルパで行く!」
 誰かが、「ヒッ」と言い、立ち上がって部屋の隅に行く。
「大丈夫なのに」
「係長!前回の騒動を忘れたんですか!?日本人形とピエロが不気味にケタケタ笑いながら庁舎中を走り回って、警視庁内を恐怖のどん底に叩き込んだ件!」
 小牧さんが叫ぶように言う。
「大丈夫。今度は猫だから」
「それ、大丈夫じゃない!」
 沢井さんが言うが、僕は構わず、それを行った。
「ああ。ぬいぐるみが、その、ちょっと不気味だよう」
 直の声がした時、完成した。
 へなっとしていたそれが、動き、膨らみ、立体的になって、立ち上がった。
「あれ?何か、イメージと違う……」
 裁縫が下手過ぎたか?ボタン付けとかは普通にできるんだが、ぬいぐるみは初めてなもんで……。
「何か、歪んでるし、引き攣ってるし、舌が出てるし、縫い目もなんていうか」
 松島さんが後ずさり、芦屋さんが泣きそうに言う。
「俺でも無理ですわ」
「猫のフランケンシュタインみたいで怖いです!」
 美保さんが動画を撮りながら叫ぶ。
 と、それが鳴いた。変なだみ声で、
「にゃあ」
と。
 十条さんが失神し、松島さんが叫び、課内は阿鼻叫喚の騒ぎになった。
「怜。やめようよ。ね?」
「おかしいな。ぬいぐるみの出来が問題か?今度作り直して再チャレンジしよう」
 僕は溜め息をついた。
 ああ。「神」と呼ばれるような腕には程遠い。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...