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神様が多すぎる(3)企み
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調べによると、渡辺さんは確かにレストランで働いていた事があった。
しかし、ホールスタッフとしてバイトで入っていただけで、先輩の見習いシェフとホールスタッフを二股にかけてもめたほか、店のワインを勝手に飲んでいた事から解雇されたのが正確なところだった。しかも、本人が言っていた店は近所の閉店した店で、本当にバイトをしていた店は、まだ営業していた。
「完全にアウトだな」
「酷いやつだよねえ。
この閉店した店は70年続いた老舗で、オムライスとビーフカレーが自慢だったんだって。オーナーシェフが高齢のために急死して閉店になって、奥さんは老人ホームにはいったそうだよう。
で、バイトしていた店は普通のフレンチレストランだって。
バレないと思ったのかねえ」
直が失笑する。
「そうなると、店をやりたいとか、手付金がどうのというのがおかしいな。
まあ、シェフを雇う気ならできるとしても、そんな資金がないだろう?恋人の家に転がり込む男が」
「うん。間違いないよ、怜」
「サギだな」
僕と直は、嘆息した。
マロンの死に続いて恋人の裏切りなんて、辛い真実を突き付けなければならないようだ。
しかし、放っておいてカモにされるのを見過ごすわけにはいかない。
「最っ低ですね。この男」
松島さんが吐き捨てた。
「マロンちゃん、もしかしてこの男の魂胆がわかっていて、彼女から遠ざけようとしたんじゃないのかなあ」
十条さんが言う。
「そう言えば、マロンの死因ってなんだろうねえ?」
「水やりのホースを吊るしていたら、それに首を引っかけてしまって、縊死だとか。
でも、マロンがホースで遊ぶなんて見た事がないって、近所の人が言ってましたね」
「渡辺が、人のいない所ではマロンを邪険にしていたとも聞きました!まさか!?」
「くそお、許さん!」
芦屋さんが、怖い顔をますます怖くして怒る。
「徹底的に渡辺を逮捕できるウラを取りますよ。任せてください、係長」
顔に似合わず、彼は小動物好きなのだ。許せないらしい。
「頼みます」
そうして、僕達は動き出した。
マロンに話を訊こうと、吉永さんの家に行っていた。
「かわいいですねえ。よしよしよし」
マロンはハッハッと舌を出してお腹を見せ、隠れ犬派の直にされるがままになっていた。
それを、僕は羨ましく見ていた。
「どこかに猫の霊はいないかな」
思わず呟きが漏れる。
「お茶をどうぞ」
吉永さんがお茶を持ってキッチンから現れ、マロンは直の手を離れて吉永さんの足元に走って行った。
「ありがとうございます」
「それで、渡辺竜二さんとは、結婚の約束とか?」
「ああ、はい。それでレストランを2人でやろうって。
その前に、しばらくブランクもあるし、店の改装が済むまで、先輩の所でバイトさせてもらって修行するって言ってました」
にこにことして吉永さんが答える。
「ええっと、ここで暮らし出してから、何か渡辺さんに作ってもらったりしたんですかねえ?」
「いえ。プロの料理人は、家庭で料理を作り出したら堕落するとかいう信念があって」
何だ、それは。
きっと、料理なんてそうできない事を隠すために、ひねくりだしたんだろうな。
「それで、今度手付のお祝いに、家庭料理ではなく店で出すための料理のメニュー作りを兼ねてやろうって言ってたんですが、捻挫してしまって」
ああ。渡りに船とか思ったんだろうな、渡辺。
僕はそう思ってちら、と直を見ると、直も、嘆息を堪えてこちらを見ていた。
「あの、吉永さん。非常に言い難い事なんですが……渡辺竜二には妻がいます。それと、言っていたレストランには勤めていません。近所のレストランにホールスタッフとしてアルバイトをしており、二股でもめたのと、店のワインを勝手に飲んだので、クビになっています」
吉永さんは笑顔のまま硬直し、
「え、そんな、嘘……え?」
と、狼狽えだした。
「サギにあうところでしたねえ」
「……300万円……」
「は?」
「300万円。今朝、手付金にって、渡しました……。どうしよう」
青い顔で吉永さんは言い出し、マロンがくうんくうんと鼻を鳴らしてすり寄る。
「すぐに手配します」
僕はすぐに、渡辺を張っている芦屋さんに電話をかけた。
吉永さんはついに泣き出した。
と、マロンが実体化を始めた。
「え、何――マロン!」
「ウワン!」
マロンは吉永さんの手を慰めるように舐め、吉永さんはマロンを抱いて泣いた。
「マロン、慰めに来てくれたの?」
「ワン!」
「ありがとう、マロン」
しかしマロンは、吉永さんをじっと見て、唸り声を上げながら別方向を見たかと思うと、走り出した。
「やばい!」
僕と直も、慌てて家を飛び出した。
しかし、ホールスタッフとしてバイトで入っていただけで、先輩の見習いシェフとホールスタッフを二股にかけてもめたほか、店のワインを勝手に飲んでいた事から解雇されたのが正確なところだった。しかも、本人が言っていた店は近所の閉店した店で、本当にバイトをしていた店は、まだ営業していた。
「完全にアウトだな」
「酷いやつだよねえ。
この閉店した店は70年続いた老舗で、オムライスとビーフカレーが自慢だったんだって。オーナーシェフが高齢のために急死して閉店になって、奥さんは老人ホームにはいったそうだよう。
で、バイトしていた店は普通のフレンチレストランだって。
バレないと思ったのかねえ」
直が失笑する。
「そうなると、店をやりたいとか、手付金がどうのというのがおかしいな。
まあ、シェフを雇う気ならできるとしても、そんな資金がないだろう?恋人の家に転がり込む男が」
「うん。間違いないよ、怜」
「サギだな」
僕と直は、嘆息した。
マロンの死に続いて恋人の裏切りなんて、辛い真実を突き付けなければならないようだ。
しかし、放っておいてカモにされるのを見過ごすわけにはいかない。
「最っ低ですね。この男」
松島さんが吐き捨てた。
「マロンちゃん、もしかしてこの男の魂胆がわかっていて、彼女から遠ざけようとしたんじゃないのかなあ」
十条さんが言う。
「そう言えば、マロンの死因ってなんだろうねえ?」
「水やりのホースを吊るしていたら、それに首を引っかけてしまって、縊死だとか。
でも、マロンがホースで遊ぶなんて見た事がないって、近所の人が言ってましたね」
「渡辺が、人のいない所ではマロンを邪険にしていたとも聞きました!まさか!?」
「くそお、許さん!」
芦屋さんが、怖い顔をますます怖くして怒る。
「徹底的に渡辺を逮捕できるウラを取りますよ。任せてください、係長」
顔に似合わず、彼は小動物好きなのだ。許せないらしい。
「頼みます」
そうして、僕達は動き出した。
マロンに話を訊こうと、吉永さんの家に行っていた。
「かわいいですねえ。よしよしよし」
マロンはハッハッと舌を出してお腹を見せ、隠れ犬派の直にされるがままになっていた。
それを、僕は羨ましく見ていた。
「どこかに猫の霊はいないかな」
思わず呟きが漏れる。
「お茶をどうぞ」
吉永さんがお茶を持ってキッチンから現れ、マロンは直の手を離れて吉永さんの足元に走って行った。
「ありがとうございます」
「それで、渡辺竜二さんとは、結婚の約束とか?」
「ああ、はい。それでレストランを2人でやろうって。
その前に、しばらくブランクもあるし、店の改装が済むまで、先輩の所でバイトさせてもらって修行するって言ってました」
にこにことして吉永さんが答える。
「ええっと、ここで暮らし出してから、何か渡辺さんに作ってもらったりしたんですかねえ?」
「いえ。プロの料理人は、家庭で料理を作り出したら堕落するとかいう信念があって」
何だ、それは。
きっと、料理なんてそうできない事を隠すために、ひねくりだしたんだろうな。
「それで、今度手付のお祝いに、家庭料理ではなく店で出すための料理のメニュー作りを兼ねてやろうって言ってたんですが、捻挫してしまって」
ああ。渡りに船とか思ったんだろうな、渡辺。
僕はそう思ってちら、と直を見ると、直も、嘆息を堪えてこちらを見ていた。
「あの、吉永さん。非常に言い難い事なんですが……渡辺竜二には妻がいます。それと、言っていたレストランには勤めていません。近所のレストランにホールスタッフとしてアルバイトをしており、二股でもめたのと、店のワインを勝手に飲んだので、クビになっています」
吉永さんは笑顔のまま硬直し、
「え、そんな、嘘……え?」
と、狼狽えだした。
「サギにあうところでしたねえ」
「……300万円……」
「は?」
「300万円。今朝、手付金にって、渡しました……。どうしよう」
青い顔で吉永さんは言い出し、マロンがくうんくうんと鼻を鳴らしてすり寄る。
「すぐに手配します」
僕はすぐに、渡辺を張っている芦屋さんに電話をかけた。
吉永さんはついに泣き出した。
と、マロンが実体化を始めた。
「え、何――マロン!」
「ウワン!」
マロンは吉永さんの手を慰めるように舐め、吉永さんはマロンを抱いて泣いた。
「マロン、慰めに来てくれたの?」
「ワン!」
「ありがとう、マロン」
しかしマロンは、吉永さんをじっと見て、唸り声を上げながら別方向を見たかと思うと、走り出した。
「やばい!」
僕と直も、慌てて家を飛び出した。
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