体質が変わったので

JUN

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義務(2)姑

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 千穂さんは美里と僕と直に、その話をした。勿論、言える範囲で、である。
「まあ、驚いたわ。そんな化石みたいな人がまだ棲息していたのね」
 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「でしょ。
 でもね、そこまででは無くても、あるわよ。上司とか後輩とかも、『子供を預けているのを知っているから、やっぱり残業や休日出勤は頼みにくい』『参観日とか言われると、休みを代わるとか言い出さないといけない気になる』なんてね」
「フン。外野は放っておきなさい。あなたは優維ちゃんや累君の母親で直の妻だけど、町田千穂なのよ。家庭の事情も無視して、誰それからまず我慢すべきっていう考えを当たり前に言うような人なんて、ろくでもないわ。
 私だって仕事の日は冴子姉に見てもらってるし、ありがたいとは思うけど、罪悪感はないわ。
 千穂ちゃん、私が仕事の無い日はいくらでも手伝うわよ」
 千穂さんは美里に抱きつき、
「ありがと!やっぱり美里ちゃん、かっこいい!」
と言い、美里は「フン」と胸を張っていた。
「本当に、その人も心配だけど、直も千穂さんも、頼れよ」
 言うと、直と千穂さんは笑った。
 大人達の様子に、遊んでいた凛、優維ちゃん、累も気付き、何か楽しそうな事をしているとばかりに寄って来て、ぎゅうっと抱きついた。
「何してるの?」
「うん?大好きって言ってたとこ」
「私もだあい好き!」
「ボクも!」
「僕も!」
「へへへ。ボクも大好き!皆ギュッ!な、怜!」
「ああ。ほら、ぎゅううっ!」
「きゃははは!」
 しかしその家族の事は気になっていたが、この後、実際に会う事になるとは思ってもみなかったのだった。

 僕と直は、出先から警視庁に戻るところだった。電車を降りて地下から上がって来た時、真ん前で老婦人がかばんをひったくられるのを見た。
「あああ、誰か――!」
 ひったくり犯は若い男で足が速そうだったが、直の札をブースターにしてすっ飛んで行くと、あっけなく追いついた。抵抗するので足を払って転がし、腕を背中に捩じり上げて手錠をはめる。
「強盗の現行犯。14時42分」
 言って、腕を掴んで立たせる。
「くそ!お巡りかよ!」
「さんを付けろ。それと、警視庁の前でよくやろうと思ったな」
 呆れてしまう。
 それを見ていた警察官が走って来たので、犯人を引き渡し、老婦人を視た。
 気難しそうな女性で、服装や持ち物は上品だ。そして、背後に老婦人の霊を背負っていた。
「大丈夫ですかねえ?お怪我はありませんか?」
 直が、老婦人の老婦人にチラチラと目をやりながら、被害者を立たせる。
「はい、ありがとうございました。まあ、なんてことでしょうねえ」
 被害者が、連行されて行く男を見て唇を歪めた。
 その時、背後から声がかかった。
「直君に怜君。あ、瀬名さん!」
 声をかけて来たのは千穂さんで、僕達は揃ってこの被害者を見た。
「瀬名さんですか」
 というと、例の、きつい前時代的な姑だ。
「じゃあ、お話をお伺いしますので、よろしくお願いします」
「すみませんねえ」
 この瀬名さんに何かが憑いている。それは、この前の息子さんの奥さんの自殺未遂と、関係があるかも知れない。
 どうも、面倒臭い予感がした。


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