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義務(1)母たちの葛藤
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僕は直に訊き直した。
「保育園が閉園?そんな、急に?」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「そうなんだよう。保育士さんが一斉に辞めるんだって。何でも、問題は待遇とかパワハラとからしいけどねえ。おかげで、今月中に次を探さないといけないんだよねえ」
そう言って、直は溜め息をついた。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「まあ、見付からなかったらうちで預かるぞ。冴子姉も見てくれるって言ってるし、急いで変なところを選んだら大変だからな」
「うん。ありがとう。もしかしたら、本当にお願いするしかなくなるかもだよう」
僕達は言いながら食後のお茶を飲んで立ち上がると、食器を返却して食堂を出た。
その頃千穂も、相棒の女性警察官とミニパトで署に戻る途中、その話をしていた。
町田千穂、交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「それは困ったわね」
「そうなのよ。そんな事急に言われたって見付からないじゃない?
うちの親にたまたま話したら、母親なんだから家で子育てするべきじゃないか、なんて言うし」
「前時代的ね」
相棒は苦笑し、千穂は嘆息した。
「そういうのが合わないの。就職だって、女なんだから普通にOLをとかもううるさいのなんの」
「世間って、窮屈よねえ」
揃って嘆息した時、それが目に飛び込んで来た。
乳児を抱いた若い母親が、思いつめたような顔付きで陸橋の上に立っている。
「やばいかも」
言いながら、車を路肩に止め、急ぎながらも落ち着いて、彼女の元に向かう。
階段を駆け上がり、やっと彼女の所に辿り着いた時には、彼女は手すりに上半身を乗り出す形になっていた。
「危ない!」
引っ張り、抱きとめる。
「大丈夫ですよ。大丈夫」
ただそう言って、まずは背中をさすり、落ち着くまで抱きとめていると、乳児が泣きだし、それにつられるように彼女も泣き出した。
保険証から彼女が瀬名由香さん、乳児が長女の幸恵ちゃんだとわかり、とにかく2人をミニパトに乗せて、署へ連れ帰った。
持っていたスマホから夫の真一さんに電話し、ほどなくすると、真一さんとその母親の美登利さんが現れた。
「由香!?」
由香さんはそれに一瞬ホッとした顔を浮かべかけ、すぐにそれを強張らせた。
「まあ、なんてことでしょう」
不機嫌そうに、美登利さんが吐き出す。
「母親のクセに、フラフラと」
「申し訳ありません、お義母様」
「母親ならしっかりしなさい」
「はい。申し訳ありません」
「私の若い頃は、自分の悩みなんて考える暇すらありませんでしたよ」
「申し訳ありません」
そばで、千穂達は呆然としてしまった。
「まあまあ。育児の悩みとか色々ありますし、ご家族でゆっくりと話し合われた方が――」
それに、美登利さんが嘆息した。
「んまあ、育児の悩み!ちゃんとした母親なら、そんなものありませんよ。夫が仕事に行っている間、家庭を守り、子供の教育をするのが母親、妻の役目です」
居合わせたほかの警察官達が、シーンとして美登利さんを見つめる中、由香さんの、
「申し訳ありません」
という声だけが響いていた。
「保育園が閉園?そんな、急に?」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「そうなんだよう。保育士さんが一斉に辞めるんだって。何でも、問題は待遇とかパワハラとからしいけどねえ。おかげで、今月中に次を探さないといけないんだよねえ」
そう言って、直は溜め息をついた。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「まあ、見付からなかったらうちで預かるぞ。冴子姉も見てくれるって言ってるし、急いで変なところを選んだら大変だからな」
「うん。ありがとう。もしかしたら、本当にお願いするしかなくなるかもだよう」
僕達は言いながら食後のお茶を飲んで立ち上がると、食器を返却して食堂を出た。
その頃千穂も、相棒の女性警察官とミニパトで署に戻る途中、その話をしていた。
町田千穂、交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「それは困ったわね」
「そうなのよ。そんな事急に言われたって見付からないじゃない?
うちの親にたまたま話したら、母親なんだから家で子育てするべきじゃないか、なんて言うし」
「前時代的ね」
相棒は苦笑し、千穂は嘆息した。
「そういうのが合わないの。就職だって、女なんだから普通にOLをとかもううるさいのなんの」
「世間って、窮屈よねえ」
揃って嘆息した時、それが目に飛び込んで来た。
乳児を抱いた若い母親が、思いつめたような顔付きで陸橋の上に立っている。
「やばいかも」
言いながら、車を路肩に止め、急ぎながらも落ち着いて、彼女の元に向かう。
階段を駆け上がり、やっと彼女の所に辿り着いた時には、彼女は手すりに上半身を乗り出す形になっていた。
「危ない!」
引っ張り、抱きとめる。
「大丈夫ですよ。大丈夫」
ただそう言って、まずは背中をさすり、落ち着くまで抱きとめていると、乳児が泣きだし、それにつられるように彼女も泣き出した。
保険証から彼女が瀬名由香さん、乳児が長女の幸恵ちゃんだとわかり、とにかく2人をミニパトに乗せて、署へ連れ帰った。
持っていたスマホから夫の真一さんに電話し、ほどなくすると、真一さんとその母親の美登利さんが現れた。
「由香!?」
由香さんはそれに一瞬ホッとした顔を浮かべかけ、すぐにそれを強張らせた。
「まあ、なんてことでしょう」
不機嫌そうに、美登利さんが吐き出す。
「母親のクセに、フラフラと」
「申し訳ありません、お義母様」
「母親ならしっかりしなさい」
「はい。申し訳ありません」
「私の若い頃は、自分の悩みなんて考える暇すらありませんでしたよ」
「申し訳ありません」
そばで、千穂達は呆然としてしまった。
「まあまあ。育児の悩みとか色々ありますし、ご家族でゆっくりと話し合われた方が――」
それに、美登利さんが嘆息した。
「んまあ、育児の悩み!ちゃんとした母親なら、そんなものありませんよ。夫が仕事に行っている間、家庭を守り、子供の教育をするのが母親、妻の役目です」
居合わせたほかの警察官達が、シーンとして美登利さんを見つめる中、由香さんの、
「申し訳ありません」
という声だけが響いていた。
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