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亜神(4)セイラム
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揺り起こされた死者や死を受け入れていない死者が、街を跋扈する。それを、霊能師が祓う。そして、今もゾロゾロと現世を目指して這い上って来る死者は、十二神将が追い返していた。
どうにか五分五分――と言いたいが、疲労の蓄積が怖いのと、冥界の王をどうにかしない限り終わらないという現実がある。
僕と直は、冥界の王を倒すために色々と策を練っていた。
「あの再生と転移みたいなのが厄介だねえ」
「面倒臭いやつだな。
まあ、取り敢えず倒したら、その後は神様が引き取ってくれるそうだから、そこからの復活は心配しなくていいのだけは良かったな」
「それにしても、冥界って共通なんだねえ」
「ラノベで死んで異世界へ行くっていうの、冥界が共通なら納得だよな」
「まあ、それをわかってて書いてるわけじゃないだろうけどねえ」
どうせ狙って来るのならと、周囲に被害が出てもいいような場所で、僕と直は待ち構えていた。この前うっかり更地にしてしまった、採石場跡だ。
「ん、来たか」
気配が引っ掛かる。
次元の裂け目ができ、冥界の王が姿を現したと思ったら、即、攻撃して来る。
「フライングだよねえ!?」
取り敢えず、2人で逃げた。
「さあて、直、逝こうか」
「はいよ」
反撃開始だ。
直の札を蹴って飛び出し、一気に冥界の王の懐に飛び込む。そして、火をまとった刀を叩き込む。
が、警戒していたのかスッと姿を消し、それは予測済みだったのでこちらも移動する。
僕の斜め前に冥界の王は現れ、目標が消えたのに戸惑ったように僕を探しているようだ。僕の方は、恐らく背後に出るだろうと思っていたので、想定通りだ。斬りかかる。
浅い。だが予測通り、傷の再生は遅い。
逃げようとする冥界の王に、直が札をきる。
ただの札ではない。神域の木の皮で作った札だ。因みに待っている間に、僕と直は、照姉達に貰ったお米などで作ったおにぎりで腹ごしらえしていた。
準備万端だ。
「何だ!?」
直の札は僕と直と冥界の王を取り囲むように並んで発動しているが、浄力が放射され、冥界の王の転移を封じている。
「よっしゃあ!」
直が、推定通りの効果に声を上げた。
そして、慌てる冥界の王に、僕はここぞとばかりに斬りかかる。浅い傷でも、急所は守られていても、確実に冥界の王は力を減じていっていた。
もし冥界の王が、何か武器を使っての接近戦に長けていたら、話はこう簡単に進まなかっただろう。しかし冥界の王は僕達にとっては幸運な事に、接近戦の経験は無いに等しかった。
「おのれ!やめろ!どうしてわたしだけが!邪魔をするなあ!」
言いながら、風をまとわせて突っ込んで来る。距離からして、逃げ場はない。
「怜!!」
直の焦った声がする中、僕は冥界の王を呑み込んだ。
不要となった神を殺す役目にクジで選ばれてしまった彼は、大きな蛇の姿をした神の住む洞窟に連れて行かれた。
神は殺しに来たとわかって怒ったが、彼の方は、神の神々しい姿に殺す気も起きず、また、不要になったからと神を殺すというのに納得できず、神の世話をして暮らし始めた。
しかしそんなある日、とうとう村人達が、神を殺したか確認しに洞窟にやって来た。
慌てたのは彼だが、力の衰えていた神は逃げる事も彼らを全滅させる事も出来ないとわかっており、世話をしてくれた彼に残っていた「再生」「不老不死」「転移」の力を移すと、自ら死んでいった。
彼は英雄として村に帰ったが、いい事ばかりでは無かった。
老いない彼をおいて、家族が、友人が、皆が年老いて死んでいく。
災害が起こり、彼の周囲のものが死に絶えても、彼だけは死ねない。
やがて大きな戦争が起こり、その世界に生きる生命全てを滅ぼすような兵器が使用されて死の星となってしまっても、彼だけは生きていた。
それで彼は、死の星を統べる者、冥界の王となった。
悲しみ、絶望、怒り。そんな感情の渦巻く冥界の王は、元はただの、人間だった。
「死にたかったのか」
こんなもの、呪いだ
「寂しかったんだな」
私は一人だ
「わかった。冥界の王から、ただの人に戻そう。
名前を憶えているか?」
名前?名前……
名乗る事も呼ばれる事もなかったからな
思い出せない――いや
セイラム 希望という意味だ
「セイラム、希望か。いい名前だ」
冥界の王――いやセイラムが微かに表情を緩める。
そして僕は、彼を産み出した。
目は緑色になっていた。
そこに、神威が現れる。
「造作をかけた。この者はこちらで引き取ろう」
知らない神だが、気配の感じから、冥界関係だと思われた。
「お願いします」
神はセイラムを掴んでフッと消え、そして、直は札の発動を止めた。
2人して、ほっと息をつく。
「上手く行ったのかねえ?」
「だよな。迎えに来たのが何かわからないが」
「イエーイ」
ハイタッチをして、座り込む。
ああ、疲れた。ちょっと動きたくない。
どうにか五分五分――と言いたいが、疲労の蓄積が怖いのと、冥界の王をどうにかしない限り終わらないという現実がある。
僕と直は、冥界の王を倒すために色々と策を練っていた。
「あの再生と転移みたいなのが厄介だねえ」
「面倒臭いやつだな。
まあ、取り敢えず倒したら、その後は神様が引き取ってくれるそうだから、そこからの復活は心配しなくていいのだけは良かったな」
「それにしても、冥界って共通なんだねえ」
「ラノベで死んで異世界へ行くっていうの、冥界が共通なら納得だよな」
「まあ、それをわかってて書いてるわけじゃないだろうけどねえ」
どうせ狙って来るのならと、周囲に被害が出てもいいような場所で、僕と直は待ち構えていた。この前うっかり更地にしてしまった、採石場跡だ。
「ん、来たか」
気配が引っ掛かる。
次元の裂け目ができ、冥界の王が姿を現したと思ったら、即、攻撃して来る。
「フライングだよねえ!?」
取り敢えず、2人で逃げた。
「さあて、直、逝こうか」
「はいよ」
反撃開始だ。
直の札を蹴って飛び出し、一気に冥界の王の懐に飛び込む。そして、火をまとった刀を叩き込む。
が、警戒していたのかスッと姿を消し、それは予測済みだったのでこちらも移動する。
僕の斜め前に冥界の王は現れ、目標が消えたのに戸惑ったように僕を探しているようだ。僕の方は、恐らく背後に出るだろうと思っていたので、想定通りだ。斬りかかる。
浅い。だが予測通り、傷の再生は遅い。
逃げようとする冥界の王に、直が札をきる。
ただの札ではない。神域の木の皮で作った札だ。因みに待っている間に、僕と直は、照姉達に貰ったお米などで作ったおにぎりで腹ごしらえしていた。
準備万端だ。
「何だ!?」
直の札は僕と直と冥界の王を取り囲むように並んで発動しているが、浄力が放射され、冥界の王の転移を封じている。
「よっしゃあ!」
直が、推定通りの効果に声を上げた。
そして、慌てる冥界の王に、僕はここぞとばかりに斬りかかる。浅い傷でも、急所は守られていても、確実に冥界の王は力を減じていっていた。
もし冥界の王が、何か武器を使っての接近戦に長けていたら、話はこう簡単に進まなかっただろう。しかし冥界の王は僕達にとっては幸運な事に、接近戦の経験は無いに等しかった。
「おのれ!やめろ!どうしてわたしだけが!邪魔をするなあ!」
言いながら、風をまとわせて突っ込んで来る。距離からして、逃げ場はない。
「怜!!」
直の焦った声がする中、僕は冥界の王を呑み込んだ。
不要となった神を殺す役目にクジで選ばれてしまった彼は、大きな蛇の姿をした神の住む洞窟に連れて行かれた。
神は殺しに来たとわかって怒ったが、彼の方は、神の神々しい姿に殺す気も起きず、また、不要になったからと神を殺すというのに納得できず、神の世話をして暮らし始めた。
しかしそんなある日、とうとう村人達が、神を殺したか確認しに洞窟にやって来た。
慌てたのは彼だが、力の衰えていた神は逃げる事も彼らを全滅させる事も出来ないとわかっており、世話をしてくれた彼に残っていた「再生」「不老不死」「転移」の力を移すと、自ら死んでいった。
彼は英雄として村に帰ったが、いい事ばかりでは無かった。
老いない彼をおいて、家族が、友人が、皆が年老いて死んでいく。
災害が起こり、彼の周囲のものが死に絶えても、彼だけは死ねない。
やがて大きな戦争が起こり、その世界に生きる生命全てを滅ぼすような兵器が使用されて死の星となってしまっても、彼だけは生きていた。
それで彼は、死の星を統べる者、冥界の王となった。
悲しみ、絶望、怒り。そんな感情の渦巻く冥界の王は、元はただの、人間だった。
「死にたかったのか」
こんなもの、呪いだ
「寂しかったんだな」
私は一人だ
「わかった。冥界の王から、ただの人に戻そう。
名前を憶えているか?」
名前?名前……
名乗る事も呼ばれる事もなかったからな
思い出せない――いや
セイラム 希望という意味だ
「セイラム、希望か。いい名前だ」
冥界の王――いやセイラムが微かに表情を緩める。
そして僕は、彼を産み出した。
目は緑色になっていた。
そこに、神威が現れる。
「造作をかけた。この者はこちらで引き取ろう」
知らない神だが、気配の感じから、冥界関係だと思われた。
「お願いします」
神はセイラムを掴んでフッと消え、そして、直は札の発動を止めた。
2人して、ほっと息をつく。
「上手く行ったのかねえ?」
「だよな。迎えに来たのが何かわからないが」
「イエーイ」
ハイタッチをして、座り込む。
ああ、疲れた。ちょっと動きたくない。
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