878 / 1,046
亜神(4)セイラム
しおりを挟む
揺り起こされた死者や死を受け入れていない死者が、街を跋扈する。それを、霊能師が祓う。そして、今もゾロゾロと現世を目指して這い上って来る死者は、十二神将が追い返していた。
どうにか五分五分――と言いたいが、疲労の蓄積が怖いのと、冥界の王をどうにかしない限り終わらないという現実がある。
僕と直は、冥界の王を倒すために色々と策を練っていた。
「あの再生と転移みたいなのが厄介だねえ」
「面倒臭いやつだな。
まあ、取り敢えず倒したら、その後は神様が引き取ってくれるそうだから、そこからの復活は心配しなくていいのだけは良かったな」
「それにしても、冥界って共通なんだねえ」
「ラノベで死んで異世界へ行くっていうの、冥界が共通なら納得だよな」
「まあ、それをわかってて書いてるわけじゃないだろうけどねえ」
どうせ狙って来るのならと、周囲に被害が出てもいいような場所で、僕と直は待ち構えていた。この前うっかり更地にしてしまった、採石場跡だ。
「ん、来たか」
気配が引っ掛かる。
次元の裂け目ができ、冥界の王が姿を現したと思ったら、即、攻撃して来る。
「フライングだよねえ!?」
取り敢えず、2人で逃げた。
「さあて、直、逝こうか」
「はいよ」
反撃開始だ。
直の札を蹴って飛び出し、一気に冥界の王の懐に飛び込む。そして、火をまとった刀を叩き込む。
が、警戒していたのかスッと姿を消し、それは予測済みだったのでこちらも移動する。
僕の斜め前に冥界の王は現れ、目標が消えたのに戸惑ったように僕を探しているようだ。僕の方は、恐らく背後に出るだろうと思っていたので、想定通りだ。斬りかかる。
浅い。だが予測通り、傷の再生は遅い。
逃げようとする冥界の王に、直が札をきる。
ただの札ではない。神域の木の皮で作った札だ。因みに待っている間に、僕と直は、照姉達に貰ったお米などで作ったおにぎりで腹ごしらえしていた。
準備万端だ。
「何だ!?」
直の札は僕と直と冥界の王を取り囲むように並んで発動しているが、浄力が放射され、冥界の王の転移を封じている。
「よっしゃあ!」
直が、推定通りの効果に声を上げた。
そして、慌てる冥界の王に、僕はここぞとばかりに斬りかかる。浅い傷でも、急所は守られていても、確実に冥界の王は力を減じていっていた。
もし冥界の王が、何か武器を使っての接近戦に長けていたら、話はこう簡単に進まなかっただろう。しかし冥界の王は僕達にとっては幸運な事に、接近戦の経験は無いに等しかった。
「おのれ!やめろ!どうしてわたしだけが!邪魔をするなあ!」
言いながら、風をまとわせて突っ込んで来る。距離からして、逃げ場はない。
「怜!!」
直の焦った声がする中、僕は冥界の王を呑み込んだ。
不要となった神を殺す役目にクジで選ばれてしまった彼は、大きな蛇の姿をした神の住む洞窟に連れて行かれた。
神は殺しに来たとわかって怒ったが、彼の方は、神の神々しい姿に殺す気も起きず、また、不要になったからと神を殺すというのに納得できず、神の世話をして暮らし始めた。
しかしそんなある日、とうとう村人達が、神を殺したか確認しに洞窟にやって来た。
慌てたのは彼だが、力の衰えていた神は逃げる事も彼らを全滅させる事も出来ないとわかっており、世話をしてくれた彼に残っていた「再生」「不老不死」「転移」の力を移すと、自ら死んでいった。
彼は英雄として村に帰ったが、いい事ばかりでは無かった。
老いない彼をおいて、家族が、友人が、皆が年老いて死んでいく。
災害が起こり、彼の周囲のものが死に絶えても、彼だけは死ねない。
やがて大きな戦争が起こり、その世界に生きる生命全てを滅ぼすような兵器が使用されて死の星となってしまっても、彼だけは生きていた。
それで彼は、死の星を統べる者、冥界の王となった。
悲しみ、絶望、怒り。そんな感情の渦巻く冥界の王は、元はただの、人間だった。
「死にたかったのか」
こんなもの、呪いだ
「寂しかったんだな」
私は一人だ
「わかった。冥界の王から、ただの人に戻そう。
名前を憶えているか?」
名前?名前……
名乗る事も呼ばれる事もなかったからな
思い出せない――いや
セイラム 希望という意味だ
「セイラム、希望か。いい名前だ」
冥界の王――いやセイラムが微かに表情を緩める。
そして僕は、彼を産み出した。
目は緑色になっていた。
そこに、神威が現れる。
「造作をかけた。この者はこちらで引き取ろう」
知らない神だが、気配の感じから、冥界関係だと思われた。
「お願いします」
神はセイラムを掴んでフッと消え、そして、直は札の発動を止めた。
2人して、ほっと息をつく。
「上手く行ったのかねえ?」
「だよな。迎えに来たのが何かわからないが」
「イエーイ」
ハイタッチをして、座り込む。
ああ、疲れた。ちょっと動きたくない。
どうにか五分五分――と言いたいが、疲労の蓄積が怖いのと、冥界の王をどうにかしない限り終わらないという現実がある。
僕と直は、冥界の王を倒すために色々と策を練っていた。
「あの再生と転移みたいなのが厄介だねえ」
「面倒臭いやつだな。
まあ、取り敢えず倒したら、その後は神様が引き取ってくれるそうだから、そこからの復活は心配しなくていいのだけは良かったな」
「それにしても、冥界って共通なんだねえ」
「ラノベで死んで異世界へ行くっていうの、冥界が共通なら納得だよな」
「まあ、それをわかってて書いてるわけじゃないだろうけどねえ」
どうせ狙って来るのならと、周囲に被害が出てもいいような場所で、僕と直は待ち構えていた。この前うっかり更地にしてしまった、採石場跡だ。
「ん、来たか」
気配が引っ掛かる。
次元の裂け目ができ、冥界の王が姿を現したと思ったら、即、攻撃して来る。
「フライングだよねえ!?」
取り敢えず、2人で逃げた。
「さあて、直、逝こうか」
「はいよ」
反撃開始だ。
直の札を蹴って飛び出し、一気に冥界の王の懐に飛び込む。そして、火をまとった刀を叩き込む。
が、警戒していたのかスッと姿を消し、それは予測済みだったのでこちらも移動する。
僕の斜め前に冥界の王は現れ、目標が消えたのに戸惑ったように僕を探しているようだ。僕の方は、恐らく背後に出るだろうと思っていたので、想定通りだ。斬りかかる。
浅い。だが予測通り、傷の再生は遅い。
逃げようとする冥界の王に、直が札をきる。
ただの札ではない。神域の木の皮で作った札だ。因みに待っている間に、僕と直は、照姉達に貰ったお米などで作ったおにぎりで腹ごしらえしていた。
準備万端だ。
「何だ!?」
直の札は僕と直と冥界の王を取り囲むように並んで発動しているが、浄力が放射され、冥界の王の転移を封じている。
「よっしゃあ!」
直が、推定通りの効果に声を上げた。
そして、慌てる冥界の王に、僕はここぞとばかりに斬りかかる。浅い傷でも、急所は守られていても、確実に冥界の王は力を減じていっていた。
もし冥界の王が、何か武器を使っての接近戦に長けていたら、話はこう簡単に進まなかっただろう。しかし冥界の王は僕達にとっては幸運な事に、接近戦の経験は無いに等しかった。
「おのれ!やめろ!どうしてわたしだけが!邪魔をするなあ!」
言いながら、風をまとわせて突っ込んで来る。距離からして、逃げ場はない。
「怜!!」
直の焦った声がする中、僕は冥界の王を呑み込んだ。
不要となった神を殺す役目にクジで選ばれてしまった彼は、大きな蛇の姿をした神の住む洞窟に連れて行かれた。
神は殺しに来たとわかって怒ったが、彼の方は、神の神々しい姿に殺す気も起きず、また、不要になったからと神を殺すというのに納得できず、神の世話をして暮らし始めた。
しかしそんなある日、とうとう村人達が、神を殺したか確認しに洞窟にやって来た。
慌てたのは彼だが、力の衰えていた神は逃げる事も彼らを全滅させる事も出来ないとわかっており、世話をしてくれた彼に残っていた「再生」「不老不死」「転移」の力を移すと、自ら死んでいった。
彼は英雄として村に帰ったが、いい事ばかりでは無かった。
老いない彼をおいて、家族が、友人が、皆が年老いて死んでいく。
災害が起こり、彼の周囲のものが死に絶えても、彼だけは死ねない。
やがて大きな戦争が起こり、その世界に生きる生命全てを滅ぼすような兵器が使用されて死の星となってしまっても、彼だけは生きていた。
それで彼は、死の星を統べる者、冥界の王となった。
悲しみ、絶望、怒り。そんな感情の渦巻く冥界の王は、元はただの、人間だった。
「死にたかったのか」
こんなもの、呪いだ
「寂しかったんだな」
私は一人だ
「わかった。冥界の王から、ただの人に戻そう。
名前を憶えているか?」
名前?名前……
名乗る事も呼ばれる事もなかったからな
思い出せない――いや
セイラム 希望という意味だ
「セイラム、希望か。いい名前だ」
冥界の王――いやセイラムが微かに表情を緩める。
そして僕は、彼を産み出した。
目は緑色になっていた。
そこに、神威が現れる。
「造作をかけた。この者はこちらで引き取ろう」
知らない神だが、気配の感じから、冥界関係だと思われた。
「お願いします」
神はセイラムを掴んでフッと消え、そして、直は札の発動を止めた。
2人して、ほっと息をつく。
「上手く行ったのかねえ?」
「だよな。迎えに来たのが何かわからないが」
「イエーイ」
ハイタッチをして、座り込む。
ああ、疲れた。ちょっと動きたくない。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる