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家族(3)ただいま
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古いアパートのドアを開けると、埃っぽいような空気が漂っていた。
「タマ!」
狭い部屋の隅には仏壇があり、60歳位の女性と、国民服の若い青年2人の、3枚の写真が立ててあった。
洗面所には猫のトイレ、ちゃぶ台のそばには空になった皿が2枚あった。エサ皿と水の皿だろう。
「タマ、お腹空いただろう?タマや。ターマ」
呼ぶが、猫は出て来ない。
「出かけてるのかな。タマってどんな猫ですか?」
訊くと、越後さんはにこにこしながら言った。
「タマ?私の妻は、タマエですよ。池端タマエ。私は克則、息子は勝太と英利で、合わせたら勝利」
嬉しそうだ。
「タマエが亡くなった日、小さい子猫を拾ってねえ。寂しがる私を心配してタマエが来てくれたのかと思って、タマという名前にしたんですよ。こんなくらいだったのに、今ではこんなに大きくなってねえ。もう、おばあちゃんの、きれいな三毛猫でねえ」
「遊びに出ているんですかねえ」
直が言った後、越後さん――いや池端さんはキョロキョロとし始め、
「タマ?タマが呼んでるぞ」
と言い出した。
そう言えば、弱い気配がしている。
「表か?」
外に出ると、アパートの前で、鍋島さんと八分さんと茜屋さんが、三毛猫の霊を祓おうとしているところだった。
「え?あ、待った!!」
「へ?係長?」
キョトンとした顔の彼らの前から、猫はこちらを見ると「にゃん」と一声鳴いて、尻尾を立てて飛び掛かるようにして走り寄る池端さんに飛びついて行った。
「タマ、ただいま。いい子にしてたか?」
「にゃん」
「そうかそうか。よしよし」
猫は目を細め、池端さんは柔らかい笑みを浮かべて毛をすく。
そして、一緒にキラキラと光って、立ち上って行った。
それを皆で見送って、我に返ったように鍋島さんが言った。
「ええっと、どういう事ですか?」
僕と直は顔を見合わせた。
「行旅不明人の越後太郎さんがここに住んでいた池端克則さんで、タマっていう猫を飼っていたそうでな」
言うと、鍋島さんが言った。
「例の飛び出す猫ですよ、今の。数日前にここで車にはねられて死んでいたらしいんですが、それ以来、ここで車が通りかかる度に飛び出していたようです」
「飼い主と猫、同じ頃に死んでたのか」
茜屋さんが言う。
「猫もかなりのお婆さんだったらしいし、亡くなった奥さんの代わりというくらい可愛がってたらしいからねえ」
「絆ですねえ」
八分さんが言って、皆、しんみりした。
「ああ。また、猫を触れなかった」
思わずグチが出た。
「怜は猫派なのに、なぜか運が悪いよねえ」
直が苦笑する。
「その様子じゃ、向こうで順調だったみたいですね!」
茜屋さんが言うのに、僕と直は溜め息をついた。
「いやあ、苦労したよう。ねえ」
「妻がたくさん出るし、息子もわんさかだし。はあ、面倒臭い。
でも、家に帰れて、家族に会えてよかったよな」
僕達はしばらくそうして、池端さんとタマの冥福を祈った。
「タマ!」
狭い部屋の隅には仏壇があり、60歳位の女性と、国民服の若い青年2人の、3枚の写真が立ててあった。
洗面所には猫のトイレ、ちゃぶ台のそばには空になった皿が2枚あった。エサ皿と水の皿だろう。
「タマ、お腹空いただろう?タマや。ターマ」
呼ぶが、猫は出て来ない。
「出かけてるのかな。タマってどんな猫ですか?」
訊くと、越後さんはにこにこしながら言った。
「タマ?私の妻は、タマエですよ。池端タマエ。私は克則、息子は勝太と英利で、合わせたら勝利」
嬉しそうだ。
「タマエが亡くなった日、小さい子猫を拾ってねえ。寂しがる私を心配してタマエが来てくれたのかと思って、タマという名前にしたんですよ。こんなくらいだったのに、今ではこんなに大きくなってねえ。もう、おばあちゃんの、きれいな三毛猫でねえ」
「遊びに出ているんですかねえ」
直が言った後、越後さん――いや池端さんはキョロキョロとし始め、
「タマ?タマが呼んでるぞ」
と言い出した。
そう言えば、弱い気配がしている。
「表か?」
外に出ると、アパートの前で、鍋島さんと八分さんと茜屋さんが、三毛猫の霊を祓おうとしているところだった。
「え?あ、待った!!」
「へ?係長?」
キョトンとした顔の彼らの前から、猫はこちらを見ると「にゃん」と一声鳴いて、尻尾を立てて飛び掛かるようにして走り寄る池端さんに飛びついて行った。
「タマ、ただいま。いい子にしてたか?」
「にゃん」
「そうかそうか。よしよし」
猫は目を細め、池端さんは柔らかい笑みを浮かべて毛をすく。
そして、一緒にキラキラと光って、立ち上って行った。
それを皆で見送って、我に返ったように鍋島さんが言った。
「ええっと、どういう事ですか?」
僕と直は顔を見合わせた。
「行旅不明人の越後太郎さんがここに住んでいた池端克則さんで、タマっていう猫を飼っていたそうでな」
言うと、鍋島さんが言った。
「例の飛び出す猫ですよ、今の。数日前にここで車にはねられて死んでいたらしいんですが、それ以来、ここで車が通りかかる度に飛び出していたようです」
「飼い主と猫、同じ頃に死んでたのか」
茜屋さんが言う。
「猫もかなりのお婆さんだったらしいし、亡くなった奥さんの代わりというくらい可愛がってたらしいからねえ」
「絆ですねえ」
八分さんが言って、皆、しんみりした。
「ああ。また、猫を触れなかった」
思わずグチが出た。
「怜は猫派なのに、なぜか運が悪いよねえ」
直が苦笑する。
「その様子じゃ、向こうで順調だったみたいですね!」
茜屋さんが言うのに、僕と直は溜め息をついた。
「いやあ、苦労したよう。ねえ」
「妻がたくさん出るし、息子もわんさかだし。はあ、面倒臭い。
でも、家に帰れて、家族に会えてよかったよな」
僕達はしばらくそうして、池端さんとタマの冥福を祈った。
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