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家族(2)越後太郎
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越後さんは、駅前のカフェに出た。ここの美人バリスタにピッタリとくっついているのを、ガラス窓に映って発見されたのだ。
「越後さん」
にこにこと直が話しかけると、越後さんはバリスタにくっついて、
「わしの嫁だ。先月結婚した」
とニコニコして言う。
「違うでしょう?おかしいねえ」
言うと、越後さんはくわっと目を見開いて、
「おお!」
と言い、
「無事に戻って来たんだな!良かった!大和が沈んだと聞いて、息子を2人共同時に亡くしたのかと……」
と、僕と直の手を取る。
「いや、先月結婚したばかりで戦争に行く息子はおかしいよね。あれ?再婚?」
僕は、おかしいのかおかしくないのかわからない。ただ間違いなく、このバリスタは無関係だし、僕と直も息子ではない。
でも、これはチャンスだと、パスをつなげて見た。
出征する場面、肉じゃが、赤い彼岸花、青い空を飛ぶグラマン、卵焼き、綿帽子を被った花嫁、三毛猫。
「だめだ、断片的なのがでるだけで皆目わからない。それも、ありふれたものばかりで、特定につながらない」
クラクラしてきた。
「怜、無理したらだめだよう!」
「そうじゃ!無理はいかんぞ」
越後さんが言うのに、突っ込みたい。
が、越後さんは通りを歩く人に目を留め、
「あ、あんなところに妻が」
と、女子大生らしき人に突進して行く。
「おい。何人妻がいるんだ」
「というか、全部美人だねえ」
越後さんの後を追いかけて店を出ると、女子大生が彼氏と腕を組んで、それで越後さんはフワッと離れ、消えて行くところだった。
これが、越後さんとの初顔合わせだった。
全国の行方不明者リストを照会したが、ヒットするものはなかった。大和に息子2人が乗っていたというのでも、絞り込むのは不可能だろう。
「祓って成仏させるのは最後の手段にしようか、直」
「そうだねえ。なるべく思い出してからの方がいいよねえ」
「まあ、いくらでも時間をかけるわけにもいかないからなあ」
「1週間かねえ」
「ギリギリそのくらいだな」
僕は直とそう決め、越後さんの出現を待った。
「いた!」
越後さんは、駅前のペットショップの前にいた。
急いで近寄り、迷子にならないように、直が札とつなぐ。
「越後さん」
越後さんは夢中で、ガラスの向こうの子猫を見ていた。が、猫は怯えて震えていた。
「かわいいなあ」
手を伸ばすと、ますます猫が怯えて鳴く。
「え、越後さん、越後さん」
子猫にトラウマを植え付けない内にと、越後さんに話しかける。
「ん?こんにちは。ええと、どなたでしたかな」
「御崎です」
「町田ですう」
「ええっと……おお!尋常小学校の!」
どうしよう。
「懐かしいなあ」
肩を叩きながら、越後さんを近所の公園に誘い込んだ。
「済まない。うっかり名前を忘れてしまってねえ」
直がてへっと笑うと、越後さんははははと笑って言った。
「気にするな。わしも忘れた」
失敗か。
「こんな所で何をしてるのかねえ?家はこの辺かねえ?」
越後さんは頭を掻いて、苦笑した。
「それがなあ、よくわからんのだ」
「近くに何か無かったかねえ?よく行く店とか、病院とか」
越後さんはウウムと考え、
「買い物はイオンだ」
だめだ。日本中にある。
「病院は、市民病院だな」
「何市民病院かねえ?」
「市民病院は市民病院だろう」
だめだ。
まあ、こんなものだろうな。正確な名前を知らなくても、「市民病院」「バス通り」で事足りるものだ。
「一緒に考えるから、家に帰ろう」
「そうか?すまんなあ」
越後さんはにこにことした。
そして、ふと目に入ったスーパーに入って行く。
ついて行くと、かつお節の前で立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「買って帰らないと……」
そう言って、越後さんは急に無表情になった。
「越後さん?」
呼んでも、返事をしない。ただ、無機質な目をこちらにじっと向けて来るだけで、反応が無かった。
これも、認知症の症状だ。
まあ、かつお節を買いに出かけてこうなったのかもしれない。
僕と直は越後さんを促して外に出て、警察署に行った。
警察署で、越後さんは元気を取り戻した。
制服警察官を見て敬礼したり、若い美人警察官を見て妻だと言ってくっついて行きそうになったり、目付きの鋭い刑事を見て「特高か!」と言って飛び退ってみたりという元気だが。
しかし、迷い猫を見て、
「タマ、タマ」
と笑顔を浮かべたと思ったら、はっとしたように棒立ちになった。
「いかん!タマのおやつにかつお節を買いに出かけたんだった!」
僕と直は、思わずガッツポーズを取りそうになった。
「どこ!?どこですか!?」
「どこのイオンかねえ!?家を出て、何が見えるかねえ!?」
越後さんは真顔で僕と直を見、怪訝そうな表情を浮かべた。
「はあ?家は浅草寺のすぐ近所の富士見荘で、名前の通り、晴れた日は富士山が見える」
「いよっし!」
「家に帰りましょうねえ」
僕達は、慌ただしく帰る準備をした。
「越後さん」
にこにこと直が話しかけると、越後さんはバリスタにくっついて、
「わしの嫁だ。先月結婚した」
とニコニコして言う。
「違うでしょう?おかしいねえ」
言うと、越後さんはくわっと目を見開いて、
「おお!」
と言い、
「無事に戻って来たんだな!良かった!大和が沈んだと聞いて、息子を2人共同時に亡くしたのかと……」
と、僕と直の手を取る。
「いや、先月結婚したばかりで戦争に行く息子はおかしいよね。あれ?再婚?」
僕は、おかしいのかおかしくないのかわからない。ただ間違いなく、このバリスタは無関係だし、僕と直も息子ではない。
でも、これはチャンスだと、パスをつなげて見た。
出征する場面、肉じゃが、赤い彼岸花、青い空を飛ぶグラマン、卵焼き、綿帽子を被った花嫁、三毛猫。
「だめだ、断片的なのがでるだけで皆目わからない。それも、ありふれたものばかりで、特定につながらない」
クラクラしてきた。
「怜、無理したらだめだよう!」
「そうじゃ!無理はいかんぞ」
越後さんが言うのに、突っ込みたい。
が、越後さんは通りを歩く人に目を留め、
「あ、あんなところに妻が」
と、女子大生らしき人に突進して行く。
「おい。何人妻がいるんだ」
「というか、全部美人だねえ」
越後さんの後を追いかけて店を出ると、女子大生が彼氏と腕を組んで、それで越後さんはフワッと離れ、消えて行くところだった。
これが、越後さんとの初顔合わせだった。
全国の行方不明者リストを照会したが、ヒットするものはなかった。大和に息子2人が乗っていたというのでも、絞り込むのは不可能だろう。
「祓って成仏させるのは最後の手段にしようか、直」
「そうだねえ。なるべく思い出してからの方がいいよねえ」
「まあ、いくらでも時間をかけるわけにもいかないからなあ」
「1週間かねえ」
「ギリギリそのくらいだな」
僕は直とそう決め、越後さんの出現を待った。
「いた!」
越後さんは、駅前のペットショップの前にいた。
急いで近寄り、迷子にならないように、直が札とつなぐ。
「越後さん」
越後さんは夢中で、ガラスの向こうの子猫を見ていた。が、猫は怯えて震えていた。
「かわいいなあ」
手を伸ばすと、ますます猫が怯えて鳴く。
「え、越後さん、越後さん」
子猫にトラウマを植え付けない内にと、越後さんに話しかける。
「ん?こんにちは。ええと、どなたでしたかな」
「御崎です」
「町田ですう」
「ええっと……おお!尋常小学校の!」
どうしよう。
「懐かしいなあ」
肩を叩きながら、越後さんを近所の公園に誘い込んだ。
「済まない。うっかり名前を忘れてしまってねえ」
直がてへっと笑うと、越後さんははははと笑って言った。
「気にするな。わしも忘れた」
失敗か。
「こんな所で何をしてるのかねえ?家はこの辺かねえ?」
越後さんは頭を掻いて、苦笑した。
「それがなあ、よくわからんのだ」
「近くに何か無かったかねえ?よく行く店とか、病院とか」
越後さんはウウムと考え、
「買い物はイオンだ」
だめだ。日本中にある。
「病院は、市民病院だな」
「何市民病院かねえ?」
「市民病院は市民病院だろう」
だめだ。
まあ、こんなものだろうな。正確な名前を知らなくても、「市民病院」「バス通り」で事足りるものだ。
「一緒に考えるから、家に帰ろう」
「そうか?すまんなあ」
越後さんはにこにことした。
そして、ふと目に入ったスーパーに入って行く。
ついて行くと、かつお節の前で立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「買って帰らないと……」
そう言って、越後さんは急に無表情になった。
「越後さん?」
呼んでも、返事をしない。ただ、無機質な目をこちらにじっと向けて来るだけで、反応が無かった。
これも、認知症の症状だ。
まあ、かつお節を買いに出かけてこうなったのかもしれない。
僕と直は越後さんを促して外に出て、警察署に行った。
警察署で、越後さんは元気を取り戻した。
制服警察官を見て敬礼したり、若い美人警察官を見て妻だと言ってくっついて行きそうになったり、目付きの鋭い刑事を見て「特高か!」と言って飛び退ってみたりという元気だが。
しかし、迷い猫を見て、
「タマ、タマ」
と笑顔を浮かべたと思ったら、はっとしたように棒立ちになった。
「いかん!タマのおやつにかつお節を買いに出かけたんだった!」
僕と直は、思わずガッツポーズを取りそうになった。
「どこ!?どこですか!?」
「どこのイオンかねえ!?家を出て、何が見えるかねえ!?」
越後さんは真顔で僕と直を見、怪訝そうな表情を浮かべた。
「はあ?家は浅草寺のすぐ近所の富士見荘で、名前の通り、晴れた日は富士山が見える」
「いよっし!」
「家に帰りましょうねえ」
僕達は、慌ただしく帰る準備をした。
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