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現世、前世、前前世(1)運命の出会い
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店が暇な時間に、吉住は銀行へ来ていた。食堂なので昼と夕方以降は混むが、その間は両親がいれば大丈夫だ。
来月は12月。ボーナスもクリスマスもあるが、大衆食堂には大してプラスはない。年末年始に休むし、学生は学校が休みになるので来ないし、売り上げ的には嬉しくもない。
何か目玉となるメニューを考える必要がある。そう考えて、待ち時間に、グルメ雑誌をペラペラとめくってみた。
融資担当の江長は、客を送ってロビーまで見送った。
銀行員になって15年。銀行というのが慈善事業ではないとわかっていても、暗い顔で帰って行く客には心が痛むし、無事に年を越して欲しいと願う。
今の客も、低空飛行ながらも、特別な何かが起こらない限り、どうにかなりそうだ。
ホッとして、2階の融資の部屋に戻ろうとした時、ふと、その客が目に入った。どうという事もない若い男で、グルメ雑誌を真剣な表情で見ている。
知らない人物だと思うが、頭の中に、声が響いた。
見付けたぞ 父の敵――!
「え?」
キョロキョロとしたが、それらしき人物はいない。
「気のせいかな?疲れてるのかな。いかんいかん。来月は忙しくなるのに、ダウンなんてしてられないぞ」
江長はそう言って、軽く両頬を叩いた。
学生の鎌田は、バイト代を下ろしに銀行へ来ていた。
来月はクリスマスもあるし、忘年会もあるし、実家へ帰省するための旅費もいる。今月はギリギリまで切り詰めなくてはならない。
なのに、バイト代は安く、通帳の残高は厳しい。
溜め息をついて銀行を出て、歩き出した時、それが目に入った。
男が2人、険悪な雰囲気で睨み合っている。
「強盗か!?」
ドキッとしたが、頭に声が聞こえて来た。
あれは殿!間違いない!
あの狼藉者は 何やつだ!
「は?」
キョトンとして、揉めている2人の事も忘れて辺りを見回してみた。
しかし、近くに通行人もいない。
「時代劇のセリフみたいな……何だぁ?」
その内に、なぜか意識がフッと暗く閉ざされたのだった。
交番で、僕はその3人を視た。
「知り合いではないんですね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「驚きましたよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
吉住さんは困惑したように、顔をうんうんと頷かせた。
「もう、何が何やら」
事件の概要はこうだ。
銀行を出た吉住さんを、追いかけて行った江長さんが、
「父の敵!」
と言って殴ろうとした。そこへ割って入ったのが鎌田さんで、
「殿に何をする!曲者め!」
と江長さんを反対に殴った。
そして呆然とする吉住さんを挟んで江長さんと鎌田さんが揉めている所にパトロール中の交番の巡査が通りかかり、取り敢えず3人は交番へ行く事になった。
だが、どうにも話がおかしいので、陰陽課に連絡が来たのである。
「どうでしょうか」
恐る恐る巡査が訊くのに、僕は答えた、
「江長さんと鎌田さんに憑いていますね」
「どっちも昔の人だよねえ」
僕と直は、彼らを視た。
江直さんと鎌田さんに憑いているのは、どちらも侍だった。それが、睨み合っている。
「話を伺いましょうか。
直、頼む」
「はいよ」
直が札をきり、霊は動けないが実体化して声も皆に聞こえるようになったが、吉住さんは腰を抜かしそうになっていた。
「では、事情を窺います」
言いながら、面倒臭い予感がひしひしとしていたのだった。
来月は12月。ボーナスもクリスマスもあるが、大衆食堂には大してプラスはない。年末年始に休むし、学生は学校が休みになるので来ないし、売り上げ的には嬉しくもない。
何か目玉となるメニューを考える必要がある。そう考えて、待ち時間に、グルメ雑誌をペラペラとめくってみた。
融資担当の江長は、客を送ってロビーまで見送った。
銀行員になって15年。銀行というのが慈善事業ではないとわかっていても、暗い顔で帰って行く客には心が痛むし、無事に年を越して欲しいと願う。
今の客も、低空飛行ながらも、特別な何かが起こらない限り、どうにかなりそうだ。
ホッとして、2階の融資の部屋に戻ろうとした時、ふと、その客が目に入った。どうという事もない若い男で、グルメ雑誌を真剣な表情で見ている。
知らない人物だと思うが、頭の中に、声が響いた。
見付けたぞ 父の敵――!
「え?」
キョロキョロとしたが、それらしき人物はいない。
「気のせいかな?疲れてるのかな。いかんいかん。来月は忙しくなるのに、ダウンなんてしてられないぞ」
江長はそう言って、軽く両頬を叩いた。
学生の鎌田は、バイト代を下ろしに銀行へ来ていた。
来月はクリスマスもあるし、忘年会もあるし、実家へ帰省するための旅費もいる。今月はギリギリまで切り詰めなくてはならない。
なのに、バイト代は安く、通帳の残高は厳しい。
溜め息をついて銀行を出て、歩き出した時、それが目に入った。
男が2人、険悪な雰囲気で睨み合っている。
「強盗か!?」
ドキッとしたが、頭に声が聞こえて来た。
あれは殿!間違いない!
あの狼藉者は 何やつだ!
「は?」
キョトンとして、揉めている2人の事も忘れて辺りを見回してみた。
しかし、近くに通行人もいない。
「時代劇のセリフみたいな……何だぁ?」
その内に、なぜか意識がフッと暗く閉ざされたのだった。
交番で、僕はその3人を視た。
「知り合いではないんですね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「驚きましたよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
吉住さんは困惑したように、顔をうんうんと頷かせた。
「もう、何が何やら」
事件の概要はこうだ。
銀行を出た吉住さんを、追いかけて行った江長さんが、
「父の敵!」
と言って殴ろうとした。そこへ割って入ったのが鎌田さんで、
「殿に何をする!曲者め!」
と江長さんを反対に殴った。
そして呆然とする吉住さんを挟んで江長さんと鎌田さんが揉めている所にパトロール中の交番の巡査が通りかかり、取り敢えず3人は交番へ行く事になった。
だが、どうにも話がおかしいので、陰陽課に連絡が来たのである。
「どうでしょうか」
恐る恐る巡査が訊くのに、僕は答えた、
「江長さんと鎌田さんに憑いていますね」
「どっちも昔の人だよねえ」
僕と直は、彼らを視た。
江直さんと鎌田さんに憑いているのは、どちらも侍だった。それが、睨み合っている。
「話を伺いましょうか。
直、頼む」
「はいよ」
直が札をきり、霊は動けないが実体化して声も皆に聞こえるようになったが、吉住さんは腰を抜かしそうになっていた。
「では、事情を窺います」
言いながら、面倒臭い予感がひしひしとしていたのだった。
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