体質が変わったので

JUN

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つながり(6)友人

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 嫉妬と猜疑と羨望の合体したそれは、どこまでも深い闇のような色をしていた。そして、大きい。3メートルはありそうだ。

     ウガアアア!

 上げる雄叫びは、悲鳴のようにも聞こえたのは気のせいだろうか。
「苦しいだろ?送ってやるから、もう逝け」
 僕は刀を手に前へ出た。
 意外と素早い反応で、それは腕を出して捕まえようとする。なので、滑り込んで来た札で頭上へ飛んで斬りつけた。そして落下のままに斬り下ろす。
 浅い。
 着地と同時に札で前へ飛び出し、真っすぐに刀をそいつの胸に突き立てる。

    アアアアア!!

 聞いている方が胸を締め付けられるような声だ。
 刀を、振り抜いた。それでそれは形を保てなくなり、グズグズと崩れて、消えて行った。
 僕はミニシエルの方を見て、近寄った。
「何で、躊躇なく、そんな、信じられるの」
「直は唯一無二の相棒だからだ」
「そんなのぼくにはいない」
「作ればいいだろ」
 ミニシエルは、唇をかみしめた。
「当然みたいに親に甘えたり、簡単に信用したり、ぼくには手に入らないものを持ってたり!そんな世界、いらない!壊れてしまえ!皆、皆、嫌いだ!」
 泣きわめくミニシエルの顔をグイッと両手で挟み込んで、目を合わせる。
「な、何、何を」
「子供に言って聞かせる時、子供が泣いたりして聞かなかったら、我が家はこうするんだ。
 いいか。友達は、勝手にいるもんじゃない。作れ。人を羨む暇があったら、どうすればそうなれるか考え、努力しろ。
 それから、いいか。シエルはお前を愛してなかったか?信用していなかったか?」
 ミニシエルは最初驚いていたが、こうすると視線も逸らせないし、戸惑ったようで涙も引っ込んだらしい。
「シエル。お前はどう生きたい?何が欲しい?
 僕も、直も、智史も、シエルの子――いや、弟と言うべきかな。お前の事は、友人の大事な弟として、力になってやりたいと思ってる」
 ミニシエルは目をそらそうとして、頬を挟まれているのでそらせず、視線を忙しく動かした後、思い出したように泣き出した。
「普通になりたい。シエルじゃない、ただの子供になりたい」
 僕はミニシエルの両頬から手を放し、そのままミニシエルを抱きしめた。
「わかった。お前は今日から、シエルじゃない。ええっと、そうだな。何にしよう。太郎、いや、このビジュアルでそれはない。ミニシエルって呼んでたからなあ」
「怜、太郎はちょっとあれだよう。こう、欧米人っぽいやつで」
「ううーん。友人、ユウジーン、いや、ユージン。ユージンでどうだ」
 ミニシエル改めユージンは、目をごしごしこすって、何度か口の中でユージン、ユージンと繰り返した。そして笑った。
 直が改めて涙を拭いて、鼻もかませてやる。
「よろしくねえ、ユージン」
 緩んだ空気の中、それでも気を取り直して警察官達が表情を引き締める。
 それに目で合図をして、ユージンに話しかける。
「ユージン、いいか。悪い事をしたら、ごめんなさいだ。まあ、まだ未成年だけど、何をしたのかは話してもらわないといけないし、反省もしなくてはいけない。わかるか?」
 コックリと頷くその様は、見た目通りの子供のようだった。

 調書を取ったが、ユージンはタルパを作るようにあれを作り出し、人に移した事がわかった。
 悪い事は悪い事だが、10歳という年齢と、専門家の指導と愛情が必要という事で保護観察処分となったのだが、マドンナの口添えが大きかった。元々の初代シエルはイタリアで長く暮らしていた事もあり、マドンナが引き取りたいと言い、ユージンも、故郷と言えるかもしれない場所に行く事にしたのだ。バチカンも協力すると、口添えしてくれた。
 そして今は、マドンナとその夫、ロイとエドモンド、ユージン、それに兄達と京香さん達、イエスと照姉を呼んで、宴会だ。
 イタリア勢はイエスに硬直し、祈り出したが、イエスに楽にと言われ、照姉に無礼講だと肩を叩かれ、いつの間にか楽しく飲んでいた。
 ユージンと子供達は、最初こそお互いに距離があったが、凜と累は新しい兄だとでも思ったのか間に挟んで月見団子を丸めるのを一緒にしていたし、優維ちゃんは「絵本の王子様みたい」とニコニコとした。敬もにこにことして、「後で一緒にプラネタリウム見よう」と誘い、康介はサッカーに誘っていた。
 ユージンは最初は大人としか喋ってなかったせいか戸惑ったようにしていたが、すぐに慣れ、友達同士になったらしい。
「はい、子供達が丸めてくれた月見団子ですよ」
 大きさもばらばらのそれを、皿に盛って運ぶ。
「わあ!」
「いただきます!」
「おお、今年も上手にできたな、子供達」
 照姉達神様も、これを毎年楽しみにしてくれている。
 皆で団子を食べる。
 ほかには、松茸の奉書焼、うさぎの飾り巻き寿司、チーズとウインナーのワンタン包み揚げ、いわしの青じそ梅挟みフライ、エビの湯葉巻き揚げ、おろしれんこんボール蒸しのあんかけ、ブタの野菜と塩麹巻き焼き、ブルスケッタ、茶巾きんとん、大学芋、ミートボールと野菜のカポナータ。
「これは何というソースかな?」
 大臣がブタロールを食べて言う。
「塩麹という健康にもいい発酵食品ですよ。スライスのブタを広げて、この塩麹を塗って、青じそ、えのきを乗せて巻いて、焼くだけ。中に巻く具を、人参やアスパラやいんげんやエリンギなど好きなものにして彩りよくすればお弁当にも持って来いですしね」
「ワンタン包みとエビも、きれいだし、ソースも要らないからパーティーなんかにもいいわね」
 マドンナも美味しそうに食べていて良かった。
「れんこんがもちもちしてて美味いな。中には銀杏か。いや、酒が進むな」
 照姉が言ってグラスを空ける。
 子供達はひとしきり食べてお腹いっぱいになったら、リビングにテントを広げて、中でプラネタリウムを見始めた。
「これでヨルムンガンドはほぼ終わりだな」
 兄が言う。
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「後は、初代シエルの細胞を押さえないとな。また新しいシエルを生み出して、シエルやユージンみたいな子が産まれてしまう」
「ユージンが普通の寿命くらい、生きられるといいのにねえ」
 僕と直が言うと、ロイとエドモンドが頷く。
「バチカンの科学部で、研究をしてもらい始めている。どうなるかはわからないが」
「恐怖でその時を迎えなくても済むように、出来る事をする。約束するよ」
「どうか、ユージンをよろしくお願いいたします」
 僕と直は、大臣とマドンナ、ロイ、エドモンドに頭を下げた。
 子供達の笑い、はしゃぐ声を聞きながら思う。自由に、幸せを追いかける権利の無い子供なんて、認めない。できれば、友人のシエルも助けたかった。
 シエル、済まない。今度は楽しい、自由な人生が送れますように。
 月が雲の切れ間から顔を出した。



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