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いちばん(3)殺意と執着
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ディレクターは迷うように目を動かしたが、
「正直に話してもらわないとどうしようもないし、何でも協力しろとプロデューサーは言ってたはずですが」
と言うと、
「まあ、いいか」
と呟きながら頭を掻き、口を開いた。
「この番組の事はわかってらっしゃいますよね」
「12週勝ち抜いたらデビューできるんですよね」
「ええ、まあ。正しくは、審査員として来ているレコード会社や事務所と交渉できるというものなんですけど、世間的には、デビューできると捉えられています。
それと、業界の事情もあるのは、まあ、ご理解いただいてます?」
「事情?」
「ええ。上手い者が勝つんじゃない。売れそうな者が勝つんです。いいや、勝たせるんです」
そういうことか。
「テコいれですか」
「そうです。ここさえ変えれば行けるのに。そういった惜しいグループには、テコいれをして勝たせるんですよ。12週待たずして、デビューが決まるんです」
嫌な話だが、ありそうな話とも言える。彼らがしている事は慈善事業でも副賞付きのコンクールでもない。ビジネスなのだから。
「4つ前の暫定チャンピオンに、『イナズマ』ってグループがいたんです。そこがまあまあ良かったので、条件を付けてテコいれの話をしたんです。条件は、曲を、事務所の用意するものにする事、ファッションを変える事、当時ボーカルが付き合っていた女と別れる事。この3つです。
彼らはそれを受け入れたんですが、彼女がごねましてね。別れ話の最中、はずみで階段から転落して死んでしまったんですよ。
ボーカルの彼はそれでビビりましてね。歌えなくなって、テコ入れの話も流れて、自殺したそうです。先月半ばだったと思いますよ」
聞いていた僕達は、息を吐いた。
「階段から女性が転落死したのは」
「警察に届けましたよ。事故って事で終わりましたよ」
事故だったんだから忘れればよかったのに。そう言いたげな顔付きだった。
「ほかに何か起こった事はありませんでしたか」
「メンバー同士のケンカはしょっちゅうだし、浮気だ引き抜きだってのもよくありますよ。仲間割れもね」
聞いていて気が重くなる。
「大体把握できたと思います。
また何かあればよろしくお願いします」
僕と直は、席を立った。
廊下に出て、直が溜め息をつく。
「階段の霊は、その女性だねえ。多分、ボーカルの彼を探しているんだろうねえ」
「楽屋に出たのは、そのボーカルだろうな。勝ち進んでデビューするのは自分達だ、お前じゃない、っていう意味だったんだろうな」
離れて、足を止める。
「さあて、どうしよう。階段の彼女は、今の所階段から動く様子はなさそうだな。でもボーカルの方は、楽屋もステージも動き回るみたいだしな」
「まずは捕まえないとねえ」
「あと目撃談があるのは、ステージ付近だな」
僕達は、見回りに戻った。
ステージに立つ前に音を合わせる為の、練習室へ行く。
「予想的中か」
すると、血相を変えた男女4人のグループが、転がるように走って来て、そのまま逃げて行った。
防音のその部屋を覗くと、ぼうっと突っ立っている男の霊がいた。さっき楽屋で見た男だ。
「こんにちはあ」
練習室に入って行く。すると、男は顔を上げ、僕達を見た。
「『イナズマ』の方ですよね」
男はマイクの前に立ったまま、頷く。
俺達がデビューするはずなのに
他の奴らが なぜ
「残念ですが」
ノリさんとヤスとモンちゃんと俺
がんばってきたのに
男は言いながら俯き、拳を握り締めた。
どうして 一番の夢だったのに
あの女のせいか
リカ 女房面しやがって
「彼女なりに応援していたんでしょうけど、彼女の一番の夢とあなたの一番の夢が、違っていたんでしょうかね。
でも、そろそろ、新たに一歩を踏み出しましょうか。ここに留まっていても、いい事はありませんよ」
リカ あの女のせいで
俺は スターになりたかったんだ
アンナオンナ イラナイ
チャンピオンハ オレタチダ
男は一気に気配を濃くした。
それを察知したのか、気配が飛び込んで来る。
階段の女だ。
みいつけた
ゼッタイニ ハナサナイ
女がニイッと唇を吊り上げ、男はそんな彼女を見て眉を吊り上げ、そして2人はぶつかり、混じり合った。
「やばい」
「愛と憎しみは表裏一体って本当なんだねえ。わあお」
殺意と執着がかみ合ったのか、一体となったのだった。
「正直に話してもらわないとどうしようもないし、何でも協力しろとプロデューサーは言ってたはずですが」
と言うと、
「まあ、いいか」
と呟きながら頭を掻き、口を開いた。
「この番組の事はわかってらっしゃいますよね」
「12週勝ち抜いたらデビューできるんですよね」
「ええ、まあ。正しくは、審査員として来ているレコード会社や事務所と交渉できるというものなんですけど、世間的には、デビューできると捉えられています。
それと、業界の事情もあるのは、まあ、ご理解いただいてます?」
「事情?」
「ええ。上手い者が勝つんじゃない。売れそうな者が勝つんです。いいや、勝たせるんです」
そういうことか。
「テコいれですか」
「そうです。ここさえ変えれば行けるのに。そういった惜しいグループには、テコいれをして勝たせるんですよ。12週待たずして、デビューが決まるんです」
嫌な話だが、ありそうな話とも言える。彼らがしている事は慈善事業でも副賞付きのコンクールでもない。ビジネスなのだから。
「4つ前の暫定チャンピオンに、『イナズマ』ってグループがいたんです。そこがまあまあ良かったので、条件を付けてテコいれの話をしたんです。条件は、曲を、事務所の用意するものにする事、ファッションを変える事、当時ボーカルが付き合っていた女と別れる事。この3つです。
彼らはそれを受け入れたんですが、彼女がごねましてね。別れ話の最中、はずみで階段から転落して死んでしまったんですよ。
ボーカルの彼はそれでビビりましてね。歌えなくなって、テコ入れの話も流れて、自殺したそうです。先月半ばだったと思いますよ」
聞いていた僕達は、息を吐いた。
「階段から女性が転落死したのは」
「警察に届けましたよ。事故って事で終わりましたよ」
事故だったんだから忘れればよかったのに。そう言いたげな顔付きだった。
「ほかに何か起こった事はありませんでしたか」
「メンバー同士のケンカはしょっちゅうだし、浮気だ引き抜きだってのもよくありますよ。仲間割れもね」
聞いていて気が重くなる。
「大体把握できたと思います。
また何かあればよろしくお願いします」
僕と直は、席を立った。
廊下に出て、直が溜め息をつく。
「階段の霊は、その女性だねえ。多分、ボーカルの彼を探しているんだろうねえ」
「楽屋に出たのは、そのボーカルだろうな。勝ち進んでデビューするのは自分達だ、お前じゃない、っていう意味だったんだろうな」
離れて、足を止める。
「さあて、どうしよう。階段の彼女は、今の所階段から動く様子はなさそうだな。でもボーカルの方は、楽屋もステージも動き回るみたいだしな」
「まずは捕まえないとねえ」
「あと目撃談があるのは、ステージ付近だな」
僕達は、見回りに戻った。
ステージに立つ前に音を合わせる為の、練習室へ行く。
「予想的中か」
すると、血相を変えた男女4人のグループが、転がるように走って来て、そのまま逃げて行った。
防音のその部屋を覗くと、ぼうっと突っ立っている男の霊がいた。さっき楽屋で見た男だ。
「こんにちはあ」
練習室に入って行く。すると、男は顔を上げ、僕達を見た。
「『イナズマ』の方ですよね」
男はマイクの前に立ったまま、頷く。
俺達がデビューするはずなのに
他の奴らが なぜ
「残念ですが」
ノリさんとヤスとモンちゃんと俺
がんばってきたのに
男は言いながら俯き、拳を握り締めた。
どうして 一番の夢だったのに
あの女のせいか
リカ 女房面しやがって
「彼女なりに応援していたんでしょうけど、彼女の一番の夢とあなたの一番の夢が、違っていたんでしょうかね。
でも、そろそろ、新たに一歩を踏み出しましょうか。ここに留まっていても、いい事はありませんよ」
リカ あの女のせいで
俺は スターになりたかったんだ
アンナオンナ イラナイ
チャンピオンハ オレタチダ
男は一気に気配を濃くした。
それを察知したのか、気配が飛び込んで来る。
階段の女だ。
みいつけた
ゼッタイニ ハナサナイ
女がニイッと唇を吊り上げ、男はそんな彼女を見て眉を吊り上げ、そして2人はぶつかり、混じり合った。
「やばい」
「愛と憎しみは表裏一体って本当なんだねえ。わあお」
殺意と執着がかみ合ったのか、一体となったのだった。
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