体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
853 / 1,046

いちばん(2)すれ違う霊

しおりを挟む
 金色、赤色、緑色。エッフェル塔のように立っていると思えば、部分的に刈り上げていたり。かと思えば、意外と普通だったりもする。
 ようするに、何でもありの、色々な人がそこにはいた。
 僕達の、緑色の髪だろうが赤い髪だろうが、その中では全く違和感が無い。
「29だぞ。21歳の設定は無理がないか」
 そう言ったが、
「違和感ないよ。そう言えば、怜君、高校生の頃からあんまり変わってないよね」
と徳川さんと沢井さんに言われ、直と2人、送り出された。
 それでとりあえずはと、収録現場である音楽ホールの中を歩いていた。
 その途中、出演する10組のバンドメンバー達の声も聞こえて来る。
 妬み、嫉み、噂、悪意しかない想像。誰かを引きずり下ろしたいという心情の吐露。
「何か、疲れるねえ」
「頭痛くなるな」
 悪い感情が、悪いものを呼ぶ。害をなすほどでなくとも、わかる者なら、当てられていい気分はしない。
 僕達はグロッキー気味になりながらも、怪しい気配が出ないかと、パトロールしていた。
 階段に差し掛かった時、ザワリとした感じがして、女が近くに現れた。そして彼女は僕達の顔を至近距離から覗き込むと、

     ちがう

と言って、消えて行った。
「あれ?」
「引きずり落とさないのかねえ?」
 首を傾げていると、またも気配がして、悲鳴が上がった。
「楽屋か!」
 急いで向かう。
 各グループにひとつ楽屋を割り振られており、その中の1室から飛び出した男が、震えながら廊下にへたり込むのが見えた。暫定チャンピオンの楽屋だ。
「どうしましたか?」
「あ、あそこ……!」
 震える指で中を指し、僕達はその楽屋に入った。
 そこには頭を抱えて震える、短い金髪のガタイのいい男がいた。そして、見開いた目を、半透明で空中に浮かんでいる細身の男に向けていた。

     そこはお前の場所じゃない

 そう言う。
 それに直が札をきる直前に、その霊はすうっと掻き消えて行った。
「逃がしたねえ」
 直が言い、にらめっこしていた男は肩の力を抜いた。
「助かった……」
「一体何があったんですか」
 訊くと、廊下から入って来た男とその辺で腰を抜かして座り込んでいた男達が集まって来て、パイプ椅子にどうにか腰を下ろす。
「いきなりあの幽霊がそこに出て来て、俺達を睨んで見回したんだよ」
 中の1人が水をゴクゴク飲んで言う。
「それで、廊下に飛び出したり、椅子からずり落ちたりしたんだけど、俺は目が合ったから動けなくて」
 睨み合っていた男だ。
「それで硬直してたら、あんた達が来て、それで幽霊は『そこはお前の場所じゃない』って言って消えたんだよ。
 お前、逃げ出すなんて冷たいな」
「どうしようもないだろ!?って、お前は何かできるのかよ!」
 仲間割れが始まった。
 ああ。演奏は大丈夫なんだろうか。
「まあまあ、落ち着いて」
「そう言えばあんた達誰だよ。どこのバンドだよ。スパイか?」
「いやいやいや。怪しい者じゃあないですよう」
「怪しいやつがそうと言うわけないだろ」
「おお、確かに」
「真理だねえ」
「ふざけてんのか手前ェ」
 外に共通の敵を作る手段でなあなあを謀る気か、こいつ。
 そう思いながらも、僕達は
「通りすがりの者です」
「どうもぉ」
と、そこを出た。
 そして、こそこそと相談する。
「階段の話は、驚いて勝手に落ちただけかもな」
「だねえ。掴みかかるのも、至近距離に接近されるせいかもねえ」
「ああ。どうも、積極的に関わって来るのはあの2人だな。話を聞きに行くか」
 僕と直は、番組ディレクターの所に向かった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...