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いちばん(1)デビューのために
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アマチュアがデビューをかけて競う。そういう番組は海外でも人気があるし、日本にも昔は『スター誕生』という人気番組があり、ここからスターになった歌手も少なくない。
現在では、アマチュアのバンドや歌手が競い、12週間連続で暫定チャンピオンを獲ったら優勝という事でデビューできるという番組がある。『一番星』。番組名は昭和だが、そこがミスマッチで受けたのか、視聴率もいいらしい。そして、デビューしたいと思うものは、この番組に挑む。
彼らもその内の1組だった。地元のライブハウスでは人気を誇るが、やはり夢はメジャーデビューだ。なので、デモテープを送り、それが通って本戦出場と知らされた時は、飛び上がって喜んだ。
そして挑戦1週目。見事に、連続4回暫定チャンピオンだったバンドに勝ち、暫定チャンピオンとなった。
あと11回勝てばデビューだ。
不安とやる気に揺れるそんな彼らに、接触して来たのはある事務所の人間だった。そして、提案される。
言われたとおりに「テコいれ」を受け入れたら、12週勝たせて、デビューさせる。このままあと11週、勝ち続けるのは難しい事くらいはわかっているだろう、と。
曰く、メンバーはそのままでいいが、ファッションを変える。曲は事務所が用意したものを使う。今付き合っている女とは別れる。
悩んだのは一瞬で、彼らはすぐにその提案を受け入れた。
しかし、異を唱える者もいた。元は熱心なファンだったのが、金銭的に支えるようになり、いつしかボーカリストの恋人のようなものになっていた女だ。
「どうして!?こんなに尽くして来たのに!」
人の来ない階段で、2人は話し合いをしていた――いや、一方的に別れを通達していた。
「頼んじゃいないだろ。まあ、ありがたかったけど」
「このバンドを一番にしようと!」
「ああ。1番になるために、別れてくれって言ってるんだよ」
「何でよ。私が1番だって言ってくれたのに!」
「助かるファンの中では1番だったよ。
でも、これから俺達は、全国区になるんだ。1番が、変わるんだよ。
じゃあ、そういう事だから。もし変な事をしでかしたりしたら、新しいバックが動くから」
背中を向けて立ち去ろうとする彼の腕を、女は掴む。
「話は終わってないわよ!」
「離せよ、しつこい女だな!」
彼は乱暴にその女の掴む腕を振り払い、そして、目を見開いた。
女が体勢を崩し、階段を落ちて行くところだったのだ。
「あ!」
「助け――!」
女はそのまま階段を落ちて行き、虚ろに目を見開き、手足を投げ出して横たわった。
「あ……ああ……」
彼は女が死んでいるのを確認すると、震え出す。
別のバンドの演奏が微かに聞こえて来て、彼はぼんやりと、音程が狂ってるな、と思った。
距離を詰めて来るプロデューサーからさりげなく距離を取って、訊き返す。
「ステージに霊ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「そうなんです。面白おかしく書かれでもしたら視聴率が」
「民間のものなら、協会に相談をお勧めしてるんですけどねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「威力業務妨害ですよ!殺人未遂ですって!」
「……甲田さんの入れ知恵ですか……」
甲田さんは、心霊特番で数々の心霊現象を一緒に経験した知人だ。個人的な問題は警察へ行っても協会へ行くように勧められるのを、甲田さんなら熟知している。
「そう来ましたかあ。ははは」
直も、苦笑した。
「まあ、詳しく伺いましょうか」
話はこうだ。人気音楽番組の収録現場に、霊が出るらしい。楽屋や舞台をうろついて、出演者に掴みかかったり楽器を壊したりするらしい。そしてこの前はとうとう、出演者の1人が階段から引きずり落とされそうになったという。
「なるほど。それなら確かにうちの事件ですね。わかりました」
こうして僕達は、その事件に関わる事になり、再び、仮装――いや、変装する事になったのだった。
ああ、面倒臭い。
現在では、アマチュアのバンドや歌手が競い、12週間連続で暫定チャンピオンを獲ったら優勝という事でデビューできるという番組がある。『一番星』。番組名は昭和だが、そこがミスマッチで受けたのか、視聴率もいいらしい。そして、デビューしたいと思うものは、この番組に挑む。
彼らもその内の1組だった。地元のライブハウスでは人気を誇るが、やはり夢はメジャーデビューだ。なので、デモテープを送り、それが通って本戦出場と知らされた時は、飛び上がって喜んだ。
そして挑戦1週目。見事に、連続4回暫定チャンピオンだったバンドに勝ち、暫定チャンピオンとなった。
あと11回勝てばデビューだ。
不安とやる気に揺れるそんな彼らに、接触して来たのはある事務所の人間だった。そして、提案される。
言われたとおりに「テコいれ」を受け入れたら、12週勝たせて、デビューさせる。このままあと11週、勝ち続けるのは難しい事くらいはわかっているだろう、と。
曰く、メンバーはそのままでいいが、ファッションを変える。曲は事務所が用意したものを使う。今付き合っている女とは別れる。
悩んだのは一瞬で、彼らはすぐにその提案を受け入れた。
しかし、異を唱える者もいた。元は熱心なファンだったのが、金銭的に支えるようになり、いつしかボーカリストの恋人のようなものになっていた女だ。
「どうして!?こんなに尽くして来たのに!」
人の来ない階段で、2人は話し合いをしていた――いや、一方的に別れを通達していた。
「頼んじゃいないだろ。まあ、ありがたかったけど」
「このバンドを一番にしようと!」
「ああ。1番になるために、別れてくれって言ってるんだよ」
「何でよ。私が1番だって言ってくれたのに!」
「助かるファンの中では1番だったよ。
でも、これから俺達は、全国区になるんだ。1番が、変わるんだよ。
じゃあ、そういう事だから。もし変な事をしでかしたりしたら、新しいバックが動くから」
背中を向けて立ち去ろうとする彼の腕を、女は掴む。
「話は終わってないわよ!」
「離せよ、しつこい女だな!」
彼は乱暴にその女の掴む腕を振り払い、そして、目を見開いた。
女が体勢を崩し、階段を落ちて行くところだったのだ。
「あ!」
「助け――!」
女はそのまま階段を落ちて行き、虚ろに目を見開き、手足を投げ出して横たわった。
「あ……ああ……」
彼は女が死んでいるのを確認すると、震え出す。
別のバンドの演奏が微かに聞こえて来て、彼はぼんやりと、音程が狂ってるな、と思った。
距離を詰めて来るプロデューサーからさりげなく距離を取って、訊き返す。
「ステージに霊ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「そうなんです。面白おかしく書かれでもしたら視聴率が」
「民間のものなら、協会に相談をお勧めしてるんですけどねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「威力業務妨害ですよ!殺人未遂ですって!」
「……甲田さんの入れ知恵ですか……」
甲田さんは、心霊特番で数々の心霊現象を一緒に経験した知人だ。個人的な問題は警察へ行っても協会へ行くように勧められるのを、甲田さんなら熟知している。
「そう来ましたかあ。ははは」
直も、苦笑した。
「まあ、詳しく伺いましょうか」
話はこうだ。人気音楽番組の収録現場に、霊が出るらしい。楽屋や舞台をうろついて、出演者に掴みかかったり楽器を壊したりするらしい。そしてこの前はとうとう、出演者の1人が階段から引きずり落とされそうになったという。
「なるほど。それなら確かにうちの事件ですね。わかりました」
こうして僕達は、その事件に関わる事になり、再び、仮装――いや、変装する事になったのだった。
ああ、面倒臭い。
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