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招き猫(3)心霊スポットまで徒歩数秒
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ユキと美里は、エリカの新居に、先にお呼ばれしていた。
そしてエリカは、隣の部屋の事を切り出した。
「隣、今は入院中で留守なんだって。でも、ベランダで足を見たような気がするし、窓に影が映ったみたいだし、物音や声が聞こえたように思うのね。これ、どう思う?」
ユキと美里はしばらく真顔で黙った。
「まさか、事故物件じゃ」
ユキが恐る恐る言った。
天野優希、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。以前は病院で事務をしていたのだが、今はカウンセラーとして、霊能師協会に勤めている。
「確認してみればいいんじゃないの?誰もいないか。だって、誰かが掃除に来ているとか、空き巣かも知れないじゃないの」
美里が現実的な意見を言った。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「確認。そうね。でも、どうやって?すぐにドアチャイムを鳴らしても出て来ないのよ」
「そうねえ」
考え込んだ時、隣の部屋から、物音が聞こえて来た。
「何?足音?」
「何か話し声もしない?」
「確認よ!」
エリカは目を輝かせた。
スマホを掃除機の先にガムテープで固定し、録画ボタンを押して、ベランダの仕切りの下から差し込んでみる。その間、ユキは誰かが出て来ないか、廊下に出て隣の部屋のドアを見張っていた。美里は部屋の中で、隣からの音が絶えていないのを聞きながら、それを録音している。
エリカが戻って来、ユキが入って来る。
「音は、しばらくして止んだわよ」
「隣からは、誰も出て来なかったわ」
「そう。さあて。何か映ってるかしら」
エリカは掃除機の棒からスマホを外し、ウキウキとそれを再生させた。それを、3人で覗き込む。
「泥棒?」
「ネズミとかだったらどうしよう」
ワクワクドキドキしていたが、声を失い、真顔になり、そして、叫び出した。
「嫌ぁ!何、これ!?」
「嘘でしょ!?」
「でで電話!電話よ!」
慌てふためいて美里達が僕に電話して来た時、僕と直と美保さんと十条さんは、昼食に出るところだった。
ごく普通の賃貸マンション。駅から近く、スーパーにも近い。警視庁からも近い。
「女の幽霊の目撃談がある地下道まで歩いて17分なんですよ」
「え。嬉しいのか、それ?」
「はい!この幽霊、時々占いみたいなことを言うんですよ。『今日のおかずはコロッケだ!』とか」
「……それ、嬉しいのかねえ?」
皆で首を傾けた。
「そ、それより早く行きましょう」
十条さんに急かされ、僕達は階段を上った。
202号室のドアチャイムを鳴らすと、驚く速さでドアが開き、エリカが顔を出した。その奥に美里とユキも見える。
「来た!早く!早く!」
急かされて、急いで僕達は挨拶もそこそこに中に入った。そして、早口で経緯を聞かされる。
「それで、撮れた写真がこれなのよ!」
スマホをグイと差し出す。
「よその家を撮るってなあ。もし何でも無かったらまずいんだぞ?」
「だっておかしいもん!」
エリカが抗議すると、ユキと美里も続く。
「今回ばかりは、仕方ないわよ」
「変だったし、怖かったのよ。ねえ」
スマホは仕切りの下を通って隣のベランダに入り、大きな出入りできる窓に近付いて行く。薄いカーテンは開いたままで、室内の様子が見えた。手前がリビングで、奥にダイニングキッチンと、玄関に向かって伸びる廊下がある。テレビやローテーブル、冷蔵庫などがあるが、それを無視したように、半透明な黒っぽい人影がうじゃうじゃとたくさん立っていた。
「何じゃこりゃ!」
「霊の集会かねえ!?」
「ひいいっ!」
十条さんは声を上げて、飛んで離れた。
エリカと美保さんは、半笑いだ。
「良かったな。徒歩数秒に霊の集会所だぞ」
「物音や人の声は、配管じゃなくてこれだねえ」
ぎっしりという感じで集まる霊達は、足踏みをし、ウロウロと歩いてはぶつかり、部屋中を歩き回っていた。
そしてエリカは、隣の部屋の事を切り出した。
「隣、今は入院中で留守なんだって。でも、ベランダで足を見たような気がするし、窓に影が映ったみたいだし、物音や声が聞こえたように思うのね。これ、どう思う?」
ユキと美里はしばらく真顔で黙った。
「まさか、事故物件じゃ」
ユキが恐る恐る言った。
天野優希、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。以前は病院で事務をしていたのだが、今はカウンセラーとして、霊能師協会に勤めている。
「確認してみればいいんじゃないの?誰もいないか。だって、誰かが掃除に来ているとか、空き巣かも知れないじゃないの」
美里が現実的な意見を言った。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「確認。そうね。でも、どうやって?すぐにドアチャイムを鳴らしても出て来ないのよ」
「そうねえ」
考え込んだ時、隣の部屋から、物音が聞こえて来た。
「何?足音?」
「何か話し声もしない?」
「確認よ!」
エリカは目を輝かせた。
スマホを掃除機の先にガムテープで固定し、録画ボタンを押して、ベランダの仕切りの下から差し込んでみる。その間、ユキは誰かが出て来ないか、廊下に出て隣の部屋のドアを見張っていた。美里は部屋の中で、隣からの音が絶えていないのを聞きながら、それを録音している。
エリカが戻って来、ユキが入って来る。
「音は、しばらくして止んだわよ」
「隣からは、誰も出て来なかったわ」
「そう。さあて。何か映ってるかしら」
エリカは掃除機の棒からスマホを外し、ウキウキとそれを再生させた。それを、3人で覗き込む。
「泥棒?」
「ネズミとかだったらどうしよう」
ワクワクドキドキしていたが、声を失い、真顔になり、そして、叫び出した。
「嫌ぁ!何、これ!?」
「嘘でしょ!?」
「でで電話!電話よ!」
慌てふためいて美里達が僕に電話して来た時、僕と直と美保さんと十条さんは、昼食に出るところだった。
ごく普通の賃貸マンション。駅から近く、スーパーにも近い。警視庁からも近い。
「女の幽霊の目撃談がある地下道まで歩いて17分なんですよ」
「え。嬉しいのか、それ?」
「はい!この幽霊、時々占いみたいなことを言うんですよ。『今日のおかずはコロッケだ!』とか」
「……それ、嬉しいのかねえ?」
皆で首を傾けた。
「そ、それより早く行きましょう」
十条さんに急かされ、僕達は階段を上った。
202号室のドアチャイムを鳴らすと、驚く速さでドアが開き、エリカが顔を出した。その奥に美里とユキも見える。
「来た!早く!早く!」
急かされて、急いで僕達は挨拶もそこそこに中に入った。そして、早口で経緯を聞かされる。
「それで、撮れた写真がこれなのよ!」
スマホをグイと差し出す。
「よその家を撮るってなあ。もし何でも無かったらまずいんだぞ?」
「だっておかしいもん!」
エリカが抗議すると、ユキと美里も続く。
「今回ばかりは、仕方ないわよ」
「変だったし、怖かったのよ。ねえ」
スマホは仕切りの下を通って隣のベランダに入り、大きな出入りできる窓に近付いて行く。薄いカーテンは開いたままで、室内の様子が見えた。手前がリビングで、奥にダイニングキッチンと、玄関に向かって伸びる廊下がある。テレビやローテーブル、冷蔵庫などがあるが、それを無視したように、半透明な黒っぽい人影がうじゃうじゃとたくさん立っていた。
「何じゃこりゃ!」
「霊の集会かねえ!?」
「ひいいっ!」
十条さんは声を上げて、飛んで離れた。
エリカと美保さんは、半笑いだ。
「良かったな。徒歩数秒に霊の集会所だぞ」
「物音や人の声は、配管じゃなくてこれだねえ」
ぎっしりという感じで集まる霊達は、足踏みをし、ウロウロと歩いてはぶつかり、部屋中を歩き回っていた。
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