846 / 1,046
招き猫(3)心霊スポットまで徒歩数秒
しおりを挟む
ユキと美里は、エリカの新居に、先にお呼ばれしていた。
そしてエリカは、隣の部屋の事を切り出した。
「隣、今は入院中で留守なんだって。でも、ベランダで足を見たような気がするし、窓に影が映ったみたいだし、物音や声が聞こえたように思うのね。これ、どう思う?」
ユキと美里はしばらく真顔で黙った。
「まさか、事故物件じゃ」
ユキが恐る恐る言った。
天野優希、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。以前は病院で事務をしていたのだが、今はカウンセラーとして、霊能師協会に勤めている。
「確認してみればいいんじゃないの?誰もいないか。だって、誰かが掃除に来ているとか、空き巣かも知れないじゃないの」
美里が現実的な意見を言った。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「確認。そうね。でも、どうやって?すぐにドアチャイムを鳴らしても出て来ないのよ」
「そうねえ」
考え込んだ時、隣の部屋から、物音が聞こえて来た。
「何?足音?」
「何か話し声もしない?」
「確認よ!」
エリカは目を輝かせた。
スマホを掃除機の先にガムテープで固定し、録画ボタンを押して、ベランダの仕切りの下から差し込んでみる。その間、ユキは誰かが出て来ないか、廊下に出て隣の部屋のドアを見張っていた。美里は部屋の中で、隣からの音が絶えていないのを聞きながら、それを録音している。
エリカが戻って来、ユキが入って来る。
「音は、しばらくして止んだわよ」
「隣からは、誰も出て来なかったわ」
「そう。さあて。何か映ってるかしら」
エリカは掃除機の棒からスマホを外し、ウキウキとそれを再生させた。それを、3人で覗き込む。
「泥棒?」
「ネズミとかだったらどうしよう」
ワクワクドキドキしていたが、声を失い、真顔になり、そして、叫び出した。
「嫌ぁ!何、これ!?」
「嘘でしょ!?」
「でで電話!電話よ!」
慌てふためいて美里達が僕に電話して来た時、僕と直と美保さんと十条さんは、昼食に出るところだった。
ごく普通の賃貸マンション。駅から近く、スーパーにも近い。警視庁からも近い。
「女の幽霊の目撃談がある地下道まで歩いて17分なんですよ」
「え。嬉しいのか、それ?」
「はい!この幽霊、時々占いみたいなことを言うんですよ。『今日のおかずはコロッケだ!』とか」
「……それ、嬉しいのかねえ?」
皆で首を傾けた。
「そ、それより早く行きましょう」
十条さんに急かされ、僕達は階段を上った。
202号室のドアチャイムを鳴らすと、驚く速さでドアが開き、エリカが顔を出した。その奥に美里とユキも見える。
「来た!早く!早く!」
急かされて、急いで僕達は挨拶もそこそこに中に入った。そして、早口で経緯を聞かされる。
「それで、撮れた写真がこれなのよ!」
スマホをグイと差し出す。
「よその家を撮るってなあ。もし何でも無かったらまずいんだぞ?」
「だっておかしいもん!」
エリカが抗議すると、ユキと美里も続く。
「今回ばかりは、仕方ないわよ」
「変だったし、怖かったのよ。ねえ」
スマホは仕切りの下を通って隣のベランダに入り、大きな出入りできる窓に近付いて行く。薄いカーテンは開いたままで、室内の様子が見えた。手前がリビングで、奥にダイニングキッチンと、玄関に向かって伸びる廊下がある。テレビやローテーブル、冷蔵庫などがあるが、それを無視したように、半透明な黒っぽい人影がうじゃうじゃとたくさん立っていた。
「何じゃこりゃ!」
「霊の集会かねえ!?」
「ひいいっ!」
十条さんは声を上げて、飛んで離れた。
エリカと美保さんは、半笑いだ。
「良かったな。徒歩数秒に霊の集会所だぞ」
「物音や人の声は、配管じゃなくてこれだねえ」
ぎっしりという感じで集まる霊達は、足踏みをし、ウロウロと歩いてはぶつかり、部屋中を歩き回っていた。
そしてエリカは、隣の部屋の事を切り出した。
「隣、今は入院中で留守なんだって。でも、ベランダで足を見たような気がするし、窓に影が映ったみたいだし、物音や声が聞こえたように思うのね。これ、どう思う?」
ユキと美里はしばらく真顔で黙った。
「まさか、事故物件じゃ」
ユキが恐る恐る言った。
天野優希、高校で同じ心霊研究部を創設した仲間だ。お菓子作りが好きな大人しいタイプで、慣れるまでは人見知りをする。以前は病院で事務をしていたのだが、今はカウンセラーとして、霊能師協会に勤めている。
「確認してみればいいんじゃないの?誰もいないか。だって、誰かが掃除に来ているとか、空き巣かも知れないじゃないの」
美里が現実的な意見を言った。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「確認。そうね。でも、どうやって?すぐにドアチャイムを鳴らしても出て来ないのよ」
「そうねえ」
考え込んだ時、隣の部屋から、物音が聞こえて来た。
「何?足音?」
「何か話し声もしない?」
「確認よ!」
エリカは目を輝かせた。
スマホを掃除機の先にガムテープで固定し、録画ボタンを押して、ベランダの仕切りの下から差し込んでみる。その間、ユキは誰かが出て来ないか、廊下に出て隣の部屋のドアを見張っていた。美里は部屋の中で、隣からの音が絶えていないのを聞きながら、それを録音している。
エリカが戻って来、ユキが入って来る。
「音は、しばらくして止んだわよ」
「隣からは、誰も出て来なかったわ」
「そう。さあて。何か映ってるかしら」
エリカは掃除機の棒からスマホを外し、ウキウキとそれを再生させた。それを、3人で覗き込む。
「泥棒?」
「ネズミとかだったらどうしよう」
ワクワクドキドキしていたが、声を失い、真顔になり、そして、叫び出した。
「嫌ぁ!何、これ!?」
「嘘でしょ!?」
「でで電話!電話よ!」
慌てふためいて美里達が僕に電話して来た時、僕と直と美保さんと十条さんは、昼食に出るところだった。
ごく普通の賃貸マンション。駅から近く、スーパーにも近い。警視庁からも近い。
「女の幽霊の目撃談がある地下道まで歩いて17分なんですよ」
「え。嬉しいのか、それ?」
「はい!この幽霊、時々占いみたいなことを言うんですよ。『今日のおかずはコロッケだ!』とか」
「……それ、嬉しいのかねえ?」
皆で首を傾けた。
「そ、それより早く行きましょう」
十条さんに急かされ、僕達は階段を上った。
202号室のドアチャイムを鳴らすと、驚く速さでドアが開き、エリカが顔を出した。その奥に美里とユキも見える。
「来た!早く!早く!」
急かされて、急いで僕達は挨拶もそこそこに中に入った。そして、早口で経緯を聞かされる。
「それで、撮れた写真がこれなのよ!」
スマホをグイと差し出す。
「よその家を撮るってなあ。もし何でも無かったらまずいんだぞ?」
「だっておかしいもん!」
エリカが抗議すると、ユキと美里も続く。
「今回ばかりは、仕方ないわよ」
「変だったし、怖かったのよ。ねえ」
スマホは仕切りの下を通って隣のベランダに入り、大きな出入りできる窓に近付いて行く。薄いカーテンは開いたままで、室内の様子が見えた。手前がリビングで、奥にダイニングキッチンと、玄関に向かって伸びる廊下がある。テレビやローテーブル、冷蔵庫などがあるが、それを無視したように、半透明な黒っぽい人影がうじゃうじゃとたくさん立っていた。
「何じゃこりゃ!」
「霊の集会かねえ!?」
「ひいいっ!」
十条さんは声を上げて、飛んで離れた。
エリカと美保さんは、半笑いだ。
「良かったな。徒歩数秒に霊の集会所だぞ」
「物音や人の声は、配管じゃなくてこれだねえ」
ぎっしりという感じで集まる霊達は、足踏みをし、ウロウロと歩いてはぶつかり、部屋中を歩き回っていた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる