体質が変わったので

JUN

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裁く(4)依田家の崩壊

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 千鶴さんは叫んだ。それは普通の人に聞こえる声ではなかったが、窓ガラスにひびを入れ、天井の蛍光灯を割った。

     わたしのせい!?
     私が皆を!

「落ち着いてください!」

     マリア様!
     私は妹に婚約者をとられ 嫉妬しました
     私は婚約者に嘘をつかれ 怒りました
     私は母の傲慢な態度を 恥ずかしいと思いました
     けれど それこそが傲慢でした
     私を罰して下さい

 千鶴さんはそう言ってマリア像の前に跪く。
「千鶴さん。そのマリア像は、マリア像であってマリア様ではありません。マリア像に入り込んだ霊が、祈りという行為で力を蓄えただけの事です」
 石膏のマリア像は、ニタリと顔を歪ませて邪悪そうに笑った。

     その娘の体はもらう
     邪魔をするなよ

 千鶴さんは慄いていた。
「そうはさせない。このエセマリアが」
 直が札を構えつつ、千鶴さんの体のそばでそれを牽制する。
「千鶴さんの体には入り込ませないよう。さあ、千鶴さん。先に体に戻って下さいねえ」
 千鶴さんはおろおろとしていたが、言われて、素直に体に戻った。

     あ、余計な事をさせやがって!
     動ける体を手に入れるチャンスだったのに!

「残念だったな」
「ここまでだねえ」
 僕は無造作にマリア像を掴んで、浄力を流した。

     ギャッ!?

 それは逃げ出そうとしたが一足遅く、黒い塵になって消えて行った。
「このマリア像、どうしよう」
「帰りに教会に戻してこようかねえ」
 やっぱり、その辺に転がして帰るのはまずいか。ただの置物だが。
 僕と直は千鶴さんが薄く目を開けるのを見て、ナースコールを押し、マリア像を2人で持ちながら部屋を出た。

 その後、百合さんは方々から叩かれ、あるいは訴えられている。真澄さんは命に別条はないらしいが、手術を数度繰り返さないといけないらしい。千鶴さんと千僧さんは婚約を解消し、千鶴さんは教会に出家したと聞く。
 家の為、会社の利益のために婚約しただけらしいので、こうなる事が千鶴さんにとっては幸せだったのかもしれない。
「まあ、依田家に呪いはかけられていなかったが、呪いを自分で作り出したみたいなもんだな」
「あれだよ。因果応報だねえ」
「怖い怖い」
 僕達は言いながら帰ろうとして、雨が降り出しているのに気付いた。
「朝はあんなに晴れてたのに」
「晴れてたから、傘、置いて来ちゃったねえ」
「因果応報?」
 僕達は揃って、低い空を見上げた。







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