体質が変わったので

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裁く(2)依田家の人々

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 美保さんは目を輝かせた。
「行くんですか!?噂の依田家!」
 僕と直のテンションは低い。
「うん。面倒臭い予感がするなあ」
「傲慢な経営者夫婦に偉そうなモデルの二女に急成長した会社のイケメン社長。嫌だねえ、何とも」
 揃って嘆息する。
 僕達は依田家が警察の上の方にいる知り合いに泣きついた事から、依田家の呪いについて調査しに行く事になったのだ。
「気になりますよ、呪われた一族!どうなんでしょう。楽しみだなあ。ぐふふ」
「……他人の不幸を待ったらだめだぞ」
「わかってますよう、もう。ぐへへ」
「……本当かねえ」
 取り敢えず僕と直はそういうわけで、依田家へ行った。
 とにかく大きく、ガレージには高級車が7台もある。
「無駄だな」
「そうだねえ」
 こそっと言いながら入った屋敷は、玄関ホールは吹き抜けで、天井はガラス張りだ。奥に向かって廊下が伸びているが、その手前の廊下に差し掛かる所に、番兵よろしく中世の騎士の鎧が左右に置かれていた。
 手前の応接室には毛足の長いじゅうたんが敷かれ、一目で高いとわかるようなソファセット、油絵、周りに宝石と七宝焼きの花がついた大きな鏡、古そうな戦国武将の鎧兜などが置かれ、鹿の首のはく製が壁に掛けられていた。そして背の低い棚には重厚感のある色々な言語の本が並んでいたが、取り合わせがわからない。フランス語の『世界料理大全』ドイツ語の『軍用犬のしつけ方』イタリア語の『人生はワインと料理と愛だ』。ううむ。見た目で凄そうだと思って並べたのだろうか。
 ちぐはぐな感じだが、取り敢えず、全部高そうだとはわかる。そういう感じだった。
 隣の書斎に行くと、大きくてどっしりとしたデスクが窓際に置かれ、壁際には重厚な戸棚があった。戸棚に並べられているのは、感謝状、著名人との写真、本の類だ。
 そして何より、デスクには老人の霊が座っていた。依田氏だ。

     入金はいつだ 間違いないか
     今金はいくらだ
     負け犬が フン!

 ぶつぶつ言っており、恨みがましく見ている霊はいたが、恐々と震え、何かできるようには思えない。
「呪われている様子はないですね」
「お金に未練はありそうですけどねえ」
 それで秘書は安心したようにそっと息を付き、未亡人は鼻から面白くなさそうに息を吐いた。
「長女の千鶴さんの入院先を視に行ってきます」
「お願いします」
 秘書が頭を下げ、未亡人はどこかに歩いて行った。
 玄関に向かおうとすると、階段の手すりにもたれかかって嫣然と微笑む女性がいた。
「あ、モデルをしている二女の百合さんだよう」
 直が気付いて、小声で教えてくれた。なので僕達は揃って、軽く会釈をして通り過ぎた。
 と、百合さんが背後から声をかけてくる。
「初めまして。依田百合、モデルとしては、ユリですわ」
「こんにちは。陰陽課の御崎です」
「同じく町田ですぅ」
「依田氏には呪殺されたりした形跡は見られませんでしたが、念の為に千鶴さんを視て来ます」
 百合さんにそう言って、僕達は外に出た。

 病院の特別室のベッドに、千鶴さんは寝かされていた。酸素吸入器や点滴、ドレーンを付けられ、頭や腕など見える所は包帯を巻かれている。
 その傍に、本人の生霊が出て、しくしくと泣いていた。
「千鶴さん」

     酷いわ どうしてなの

 泣くだけで、会話ができない。
 まあそれでも、何も憑いてはいない事が確認できた。
 依田氏、依田夫人、千鶴さん、百合さんに、何も憑いてはいない。依田家の呪いはなく、単に病死と事故が短期間で起こっただけだろう。
 僕と直は廊下に出ながら、
「異常無しという事で報告を上げて、それでいいかな」
「家族はこれだけだもんねえ」
と言っていると、パジャマ姿の患者達が話しているのが聞こえた。
「速報、見た?」
「見た、見た。依田家の長女の婚約者の経営する会社が突然株価が下落して倒産したんですって?」
「粉飾決算の噂が広まって、あっという間ですって」
「怖いわねえ」
 と、実に楽しそうに話していた。
 直がすぐに確認する。
「あ、本当だよう。噂が出てすぐに下がり始めて、それがまた更なる下落を呼んだんだって。うわあ」
「呪いねえ」
 とにかく一旦帰ろうと、僕達は病棟を出た。



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