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指切り(4)約束
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実体化した彼女に向かって、訊く。
「あなたのお名前は?」
小春
「小春さん。恨むのもわかりますが、もう終わりにしましょうか」
小春さんはジロリとこちらを睨んだ。
「また来る。そう約束した佐島さんと諸里さんがもう来ないと言ったので、針を千本呑ましたんでしょう?約束を守らなかったのは悪いにしても、小春さんはもう亡くなっているんですから」
言うと、小春さんは地団駄を踏んだ。
「小春さんは小春さんの幸せを、再出発して叶えるっていうのはどうですかねえ」
お前らも 騙すか
シネ ユルサナイ
「だめか。仕方ないな。逝こうか」
「そうだねえ」
刀を出して、小春と向かい合う。
ヤクソクシタノニ!
短刀を振り上げ、突っ込んで来る。
それを躱し、袈裟懸けに両断した。そこから浄力が広がって行く。
マズシサニ 売られて
私も 幸せになりたかっただけなのに
あの人が いつか迎えに来てくれるって
信じていたかっただけなのに
小春さんはポロリと涙をこぼし、消えて行った。
「次は信じられる人と会えたらいいな」
「ねえ」
家は今にも壊れそうな状態になっており、僕達は慌ててそこを出た。
入院中の佐島さんと諸里さんの小指が戻ったばかりか、針を呑み込んだ胃もきれいになっていた。
それを泣いて喜び、己の行動を反省した2人は、
「行きずりの人とそういう事はしない」
と婚約者、恋人と約束したそうだ。
そして約束通り、今日は揃って動物園へ来ていた。
敬と優維ちゃんが手をつなぎ、凜は累と手をつなぎ、園内の動物を見て回った。象、キリン、カピバラ、ライオンなどに歓声を上げ、ヒヨコやうさぎの子やハムスターを触れるふれあいミニコーナーでは大喜びではしゃぎまわった。
お弁当にしようと言って引き剥がすのが大変なくらいだったが、お弁当を見た瞬間、今度はそっちに歓声を上げる。
くまの焼きおにぎり、犬のおにぎり、うさぎのおにぎり、いなり寿司。ひよこのはんぺんカレー焼き、レタスとマッシュポテトとミックスベジタブルの花束、ピーマンの肉詰めチーズ焼き、ライオンシューマイ、海苔入り渦巻き卵焼き、いわしの香草パン粉焼き、鮭のケチャップ焼き、唐揚げ、小松菜とじゃこと人参の春巻き。デザートには、バスク風チーズケーキスティック、カピバラのカップケーキ。
くまの焼きおにぎりは、しょうゆを付けて焼いたおにぎりにかつお節をまぶし、うさぎはウインナーの耳を刺して付け、犬も、各々海苔を使って目や口などを付けている。花束は、マッシュポテトをレタスで三角錐に包み、上にミックスベジタブルを散らしただけだ。はんぺんはひよこの型で抜き、カレーパウダーを付けて焼く。ライオンシューマイは、シューマイの上の部分の周りにぐるりとコーンを貼り付け、中に海苔で目や鼻を付けてライオン風にする。カピバラのカップケーキは、カップケーキにバウムロールを刺して首にし、背中にあたる上の部分はクリームで覆う。そしてバウムロールにチョコレートで目と鼻を書き、細いパスタを小さく折って揚げたものを耳として刺す。
「うさちゃん!」
「カピバラだあ!」
「ひよこ!ひよこ!」
「あ、ライオン!」
いただきますをすると、すぐに飛びついていく。
「保育園のお母さんに見せてあげようかしら。んん、美味しい!」
食べる前に写真を撮る事に成功した千穂さんが、嬉しそうに言う。
町田千穂、交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「康介君も来れたら良かったのにねえ。サッカーの練習でしょ」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「ピーマン、克服できたかもな。
うん。くまのおにぎり、香ばしいな」
兄が言う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「鮭、ご飯に乗せてもいけそうだよう」
「デザートも気になるわね、凄く!」
美里がライオンにかぶりつきながら言う。
「動物園も久しぶりだが、楽しいもんだな」
言い、笑顔で夢中になって食べる子供達を見る。
動物園へ行くという約束を、守れてよかった。僕はそう思った。
「あなたのお名前は?」
小春
「小春さん。恨むのもわかりますが、もう終わりにしましょうか」
小春さんはジロリとこちらを睨んだ。
「また来る。そう約束した佐島さんと諸里さんがもう来ないと言ったので、針を千本呑ましたんでしょう?約束を守らなかったのは悪いにしても、小春さんはもう亡くなっているんですから」
言うと、小春さんは地団駄を踏んだ。
「小春さんは小春さんの幸せを、再出発して叶えるっていうのはどうですかねえ」
お前らも 騙すか
シネ ユルサナイ
「だめか。仕方ないな。逝こうか」
「そうだねえ」
刀を出して、小春と向かい合う。
ヤクソクシタノニ!
短刀を振り上げ、突っ込んで来る。
それを躱し、袈裟懸けに両断した。そこから浄力が広がって行く。
マズシサニ 売られて
私も 幸せになりたかっただけなのに
あの人が いつか迎えに来てくれるって
信じていたかっただけなのに
小春さんはポロリと涙をこぼし、消えて行った。
「次は信じられる人と会えたらいいな」
「ねえ」
家は今にも壊れそうな状態になっており、僕達は慌ててそこを出た。
入院中の佐島さんと諸里さんの小指が戻ったばかりか、針を呑み込んだ胃もきれいになっていた。
それを泣いて喜び、己の行動を反省した2人は、
「行きずりの人とそういう事はしない」
と婚約者、恋人と約束したそうだ。
そして約束通り、今日は揃って動物園へ来ていた。
敬と優維ちゃんが手をつなぎ、凜は累と手をつなぎ、園内の動物を見て回った。象、キリン、カピバラ、ライオンなどに歓声を上げ、ヒヨコやうさぎの子やハムスターを触れるふれあいミニコーナーでは大喜びではしゃぎまわった。
お弁当にしようと言って引き剥がすのが大変なくらいだったが、お弁当を見た瞬間、今度はそっちに歓声を上げる。
くまの焼きおにぎり、犬のおにぎり、うさぎのおにぎり、いなり寿司。ひよこのはんぺんカレー焼き、レタスとマッシュポテトとミックスベジタブルの花束、ピーマンの肉詰めチーズ焼き、ライオンシューマイ、海苔入り渦巻き卵焼き、いわしの香草パン粉焼き、鮭のケチャップ焼き、唐揚げ、小松菜とじゃこと人参の春巻き。デザートには、バスク風チーズケーキスティック、カピバラのカップケーキ。
くまの焼きおにぎりは、しょうゆを付けて焼いたおにぎりにかつお節をまぶし、うさぎはウインナーの耳を刺して付け、犬も、各々海苔を使って目や口などを付けている。花束は、マッシュポテトをレタスで三角錐に包み、上にミックスベジタブルを散らしただけだ。はんぺんはひよこの型で抜き、カレーパウダーを付けて焼く。ライオンシューマイは、シューマイの上の部分の周りにぐるりとコーンを貼り付け、中に海苔で目や鼻を付けてライオン風にする。カピバラのカップケーキは、カップケーキにバウムロールを刺して首にし、背中にあたる上の部分はクリームで覆う。そしてバウムロールにチョコレートで目と鼻を書き、細いパスタを小さく折って揚げたものを耳として刺す。
「うさちゃん!」
「カピバラだあ!」
「ひよこ!ひよこ!」
「あ、ライオン!」
いただきますをすると、すぐに飛びついていく。
「保育園のお母さんに見せてあげようかしら。んん、美味しい!」
食べる前に写真を撮る事に成功した千穂さんが、嬉しそうに言う。
町田千穂、交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だったが、執事の運転する車に乗ってから、安全性と滑らかさを追求するようになった。直よりも1つ年上の姉さん女房だ。
「康介君も来れたら良かったのにねえ。サッカーの練習でしょ」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「ピーマン、克服できたかもな。
うん。くまのおにぎり、香ばしいな」
兄が言う。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「鮭、ご飯に乗せてもいけそうだよう」
「デザートも気になるわね、凄く!」
美里がライオンにかぶりつきながら言う。
「動物園も久しぶりだが、楽しいもんだな」
言い、笑顔で夢中になって食べる子供達を見る。
動物園へ行くという約束を、守れてよかった。僕はそう思った。
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