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指切り(2)針
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その話を聞き、思わず想像したら、胃が痛くなって来た。
「胃に大量の針ですか」
「呑んだんですかねえ?というか、呑めるものなんですかねえ?魚の骨だって痛いのに」
直も、顔色が悪い。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「食道によく刺さらなかったよね。胃にぎっしりらしいよ」
徳川さんも、想像したのか、身震いをした。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「服薬用ゼリーで飲んだらいけるのかな。試したくはないがな」
「事故で担ぎ込まれた先で、レントゲン撮ってわかった事らしいけど、本人は意識が戻ってないから、わからないらしいよ」
「とにかく、その病院に行ってきます」
僕と直はその事件を担当する事になって、その患者の入院する病院へ出かけて行った。
患者は佐島治樹さん、26歳の会社員。郊外の山道でバイク事故を起こして倒れていた所を通りかかったダンプの運転手が発見し、救急車を呼ばれた。
外傷は転んだ時にできたと思われる足の骨折と顔の擦り傷、全身の打ち身。それと、右手の小指が欠損していたらしいが、古いものなのか、先端は滑らかになっていた。意識は既になく、内臓の損傷を確認しようとレントゲンを撮ったところ、胃にぎっしりと針が詰まっているのが分かり、驚いたという。
後、電話の通話履歴から連絡を入れた婚約者の柚木亜沙海さんはすぐに駆けつけて来たのだが、右手の小指は前日までちゃんとあったという。しかし医師の見立てでも、素人の判断でも、それは昨日今日なくなったとは思えない切断面だった。
「ええっと、一晩で小指が消えて傷口が塞がり、胃に大量の針が詰まったって事ですか」
言うと、医師が頷きながら首を傾げた。
「そんな変な妖怪とか、いますか?」
「変わったやつなのかねえ?」
直も首を傾げた。
「まあ、事故現場周辺を視てみましょう。何かあるのかもしれない」
「針供養のお寺とかねえ」
「あ、確かにありますね。事故現場から1キロくらい離れた神社に、針供養を年に1回している所が」
僕達はそこの位置を念のために訊いて、病室を出た。
針供養をするという神社は、ほんの小さな神社だった。拝殿の正面近くに箱が置いてあり、『針御供養箱』と書いた紙が貼ってある。そこに、折れた針を紙で包んだものを入れていく近所の主婦らしき人がいた。
覗いてみると、小さな紙包みや、セロハンテープで紙に留められた待ち針や縫い針の折れたものや曲がったものが見えた。
「ふうん」
「まあ、異常はないねえ」
言いながら、今度は事故現場に向かう。
緩いカーブの山道で、片側が山肌、片側が川になっている。事故の痕跡が残ってはいたが、おかしな気配はなかった。
バイクの走って来た方へ行ってみようかとしていると、電話が鳴り出した。
「あ。さっきの病院だ」
出てみると、突然小指が無くなったと言って来た人がいて、検査をしてみようかとしていると突然苦しみだし、レントゲンを撮ったら、胃に針が詰まっているのが発見されたという。
「どういう事かねえ?」
「とにかく病院に戻ってみよう」
僕達は慌ただしく、車を病院へ向けた。
「胃に大量の針ですか」
「呑んだんですかねえ?というか、呑めるものなんですかねえ?魚の骨だって痛いのに」
直も、顔色が悪い。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「食道によく刺さらなかったよね。胃にぎっしりらしいよ」
徳川さんも、想像したのか、身震いをした。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「服薬用ゼリーで飲んだらいけるのかな。試したくはないがな」
「事故で担ぎ込まれた先で、レントゲン撮ってわかった事らしいけど、本人は意識が戻ってないから、わからないらしいよ」
「とにかく、その病院に行ってきます」
僕と直はその事件を担当する事になって、その患者の入院する病院へ出かけて行った。
患者は佐島治樹さん、26歳の会社員。郊外の山道でバイク事故を起こして倒れていた所を通りかかったダンプの運転手が発見し、救急車を呼ばれた。
外傷は転んだ時にできたと思われる足の骨折と顔の擦り傷、全身の打ち身。それと、右手の小指が欠損していたらしいが、古いものなのか、先端は滑らかになっていた。意識は既になく、内臓の損傷を確認しようとレントゲンを撮ったところ、胃にぎっしりと針が詰まっているのが分かり、驚いたという。
後、電話の通話履歴から連絡を入れた婚約者の柚木亜沙海さんはすぐに駆けつけて来たのだが、右手の小指は前日までちゃんとあったという。しかし医師の見立てでも、素人の判断でも、それは昨日今日なくなったとは思えない切断面だった。
「ええっと、一晩で小指が消えて傷口が塞がり、胃に大量の針が詰まったって事ですか」
言うと、医師が頷きながら首を傾げた。
「そんな変な妖怪とか、いますか?」
「変わったやつなのかねえ?」
直も首を傾げた。
「まあ、事故現場周辺を視てみましょう。何かあるのかもしれない」
「針供養のお寺とかねえ」
「あ、確かにありますね。事故現場から1キロくらい離れた神社に、針供養を年に1回している所が」
僕達はそこの位置を念のために訊いて、病室を出た。
針供養をするという神社は、ほんの小さな神社だった。拝殿の正面近くに箱が置いてあり、『針御供養箱』と書いた紙が貼ってある。そこに、折れた針を紙で包んだものを入れていく近所の主婦らしき人がいた。
覗いてみると、小さな紙包みや、セロハンテープで紙に留められた待ち針や縫い針の折れたものや曲がったものが見えた。
「ふうん」
「まあ、異常はないねえ」
言いながら、今度は事故現場に向かう。
緩いカーブの山道で、片側が山肌、片側が川になっている。事故の痕跡が残ってはいたが、おかしな気配はなかった。
バイクの走って来た方へ行ってみようかとしていると、電話が鳴り出した。
「あ。さっきの病院だ」
出てみると、突然小指が無くなったと言って来た人がいて、検査をしてみようかとしていると突然苦しみだし、レントゲンを撮ったら、胃に針が詰まっているのが発見されたという。
「どういう事かねえ?」
「とにかく病院に戻ってみよう」
僕達は慌ただしく、車を病院へ向けた。
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