837 / 1,046
指切り(2)針
しおりを挟む
その話を聞き、思わず想像したら、胃が痛くなって来た。
「胃に大量の針ですか」
「呑んだんですかねえ?というか、呑めるものなんですかねえ?魚の骨だって痛いのに」
直も、顔色が悪い。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「食道によく刺さらなかったよね。胃にぎっしりらしいよ」
徳川さんも、想像したのか、身震いをした。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「服薬用ゼリーで飲んだらいけるのかな。試したくはないがな」
「事故で担ぎ込まれた先で、レントゲン撮ってわかった事らしいけど、本人は意識が戻ってないから、わからないらしいよ」
「とにかく、その病院に行ってきます」
僕と直はその事件を担当する事になって、その患者の入院する病院へ出かけて行った。
患者は佐島治樹さん、26歳の会社員。郊外の山道でバイク事故を起こして倒れていた所を通りかかったダンプの運転手が発見し、救急車を呼ばれた。
外傷は転んだ時にできたと思われる足の骨折と顔の擦り傷、全身の打ち身。それと、右手の小指が欠損していたらしいが、古いものなのか、先端は滑らかになっていた。意識は既になく、内臓の損傷を確認しようとレントゲンを撮ったところ、胃にぎっしりと針が詰まっているのが分かり、驚いたという。
後、電話の通話履歴から連絡を入れた婚約者の柚木亜沙海さんはすぐに駆けつけて来たのだが、右手の小指は前日までちゃんとあったという。しかし医師の見立てでも、素人の判断でも、それは昨日今日なくなったとは思えない切断面だった。
「ええっと、一晩で小指が消えて傷口が塞がり、胃に大量の針が詰まったって事ですか」
言うと、医師が頷きながら首を傾げた。
「そんな変な妖怪とか、いますか?」
「変わったやつなのかねえ?」
直も首を傾げた。
「まあ、事故現場周辺を視てみましょう。何かあるのかもしれない」
「針供養のお寺とかねえ」
「あ、確かにありますね。事故現場から1キロくらい離れた神社に、針供養を年に1回している所が」
僕達はそこの位置を念のために訊いて、病室を出た。
針供養をするという神社は、ほんの小さな神社だった。拝殿の正面近くに箱が置いてあり、『針御供養箱』と書いた紙が貼ってある。そこに、折れた針を紙で包んだものを入れていく近所の主婦らしき人がいた。
覗いてみると、小さな紙包みや、セロハンテープで紙に留められた待ち針や縫い針の折れたものや曲がったものが見えた。
「ふうん」
「まあ、異常はないねえ」
言いながら、今度は事故現場に向かう。
緩いカーブの山道で、片側が山肌、片側が川になっている。事故の痕跡が残ってはいたが、おかしな気配はなかった。
バイクの走って来た方へ行ってみようかとしていると、電話が鳴り出した。
「あ。さっきの病院だ」
出てみると、突然小指が無くなったと言って来た人がいて、検査をしてみようかとしていると突然苦しみだし、レントゲンを撮ったら、胃に針が詰まっているのが発見されたという。
「どういう事かねえ?」
「とにかく病院に戻ってみよう」
僕達は慌ただしく、車を病院へ向けた。
「胃に大量の針ですか」
「呑んだんですかねえ?というか、呑めるものなんですかねえ?魚の骨だって痛いのに」
直も、顔色が悪い。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「食道によく刺さらなかったよね。胃にぎっしりらしいよ」
徳川さんも、想像したのか、身震いをした。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「服薬用ゼリーで飲んだらいけるのかな。試したくはないがな」
「事故で担ぎ込まれた先で、レントゲン撮ってわかった事らしいけど、本人は意識が戻ってないから、わからないらしいよ」
「とにかく、その病院に行ってきます」
僕と直はその事件を担当する事になって、その患者の入院する病院へ出かけて行った。
患者は佐島治樹さん、26歳の会社員。郊外の山道でバイク事故を起こして倒れていた所を通りかかったダンプの運転手が発見し、救急車を呼ばれた。
外傷は転んだ時にできたと思われる足の骨折と顔の擦り傷、全身の打ち身。それと、右手の小指が欠損していたらしいが、古いものなのか、先端は滑らかになっていた。意識は既になく、内臓の損傷を確認しようとレントゲンを撮ったところ、胃にぎっしりと針が詰まっているのが分かり、驚いたという。
後、電話の通話履歴から連絡を入れた婚約者の柚木亜沙海さんはすぐに駆けつけて来たのだが、右手の小指は前日までちゃんとあったという。しかし医師の見立てでも、素人の判断でも、それは昨日今日なくなったとは思えない切断面だった。
「ええっと、一晩で小指が消えて傷口が塞がり、胃に大量の針が詰まったって事ですか」
言うと、医師が頷きながら首を傾げた。
「そんな変な妖怪とか、いますか?」
「変わったやつなのかねえ?」
直も首を傾げた。
「まあ、事故現場周辺を視てみましょう。何かあるのかもしれない」
「針供養のお寺とかねえ」
「あ、確かにありますね。事故現場から1キロくらい離れた神社に、針供養を年に1回している所が」
僕達はそこの位置を念のために訊いて、病室を出た。
針供養をするという神社は、ほんの小さな神社だった。拝殿の正面近くに箱が置いてあり、『針御供養箱』と書いた紙が貼ってある。そこに、折れた針を紙で包んだものを入れていく近所の主婦らしき人がいた。
覗いてみると、小さな紙包みや、セロハンテープで紙に留められた待ち針や縫い針の折れたものや曲がったものが見えた。
「ふうん」
「まあ、異常はないねえ」
言いながら、今度は事故現場に向かう。
緩いカーブの山道で、片側が山肌、片側が川になっている。事故の痕跡が残ってはいたが、おかしな気配はなかった。
バイクの走って来た方へ行ってみようかとしていると、電話が鳴り出した。
「あ。さっきの病院だ」
出てみると、突然小指が無くなったと言って来た人がいて、検査をしてみようかとしていると突然苦しみだし、レントゲンを撮ったら、胃に針が詰まっているのが発見されたという。
「どういう事かねえ?」
「とにかく病院に戻ってみよう」
僕達は慌ただしく、車を病院へ向けた。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる