体質が変わったので

JUN

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指切り(1)母の日

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 なぜこんな山の中に、ぽつんと家があるのだろう。なぜそんなところに、女性が1人で住んでいるんだろう。そんな疑問は、いつの間にか消えていた。
 偶然辿り着き、ここに住む小春という女性と一夜を過ごし、佐島は帰ると告げた。
「もう、ですか」
 小春は寂しそうな顔で言う。
「明日は仕事だし」
 佐島は言いながら、身支度を整えた。
「また、来てくださいますか」
 佐島は婚約者の顔を思い出し、心の中で謝った。
「ああ」
「必ず、約束ですよ」
「わかった」
「じゃあ、指きりを」
 言いながら、小指を差し出して来る。
 佐島は懐かしさを感じてフッと頬を緩ませ、小指を小春のそれに絡ませた。

     指切りげんまん
     うそついたら 針千本のます
     指切った

 それで佐島は家を出て、バイクを走らせ始めた。
 昨日の夜はなぜか道に迷って降りられなかった山を簡単に進み、見覚えのある道に出た。暗くて細い道に入り込んでしまったんだな、と考えた時、ポケットの中でスマホが着信を告げたので、道端にバイクを止めて急いで出る。相手は婚約者の亜沙海だった。
『今日は不動産屋さんに行く約束でしょ』
「ああ、そうだな。2時だったよな」
『うん。待ってるからね』
「迎えに行くから」
 そんなやり取りをしてスマホを切り、しまおうとして違和感を感じた。指切りをした小指が無い。
「え!?何で!?痛くもなかったのに!?」
 慌ててグローブを外してよく見たが、切り口は滑らかに皮膚で覆われ、傷口も無い。痛くもかゆくも無かった。
 それが指切りをした指だということからか、小春の事を思い出した。
 昨日は道に迷って、偶然辿り着いた家にいた小春に歓待され、そういう関係を持ってしまったその天罰だとでもいうのだろうか。でも、自分には亜沙海がいるし、昨日のアレは、一夜の過ちだ。もう、二度と行かない。
「どうしよう。取り敢えず病院に行くか?でも今日は日曜だし、新居を見に行く約束だし。でも、指が消えたなんて大ごとだしな」
 佐島は混乱しながらも、取り敢えず家へ帰ろうと思った。病院へ行くにも、一旦家へ帰りたい。
 バイクをスタートさせて、家に向かう。
 と、すぐ耳の後ろから声がした。小春の声だ。

     うそつき

「え!?」
 ミラーには何も映っていない。
 次の瞬間、胃が突然、猛烈に痛んだ。
「グエッ!?」
 たまらずバイクごと転倒し、擦り傷、打ち身、骨折を負うが、それがわからないくらい、胃が痛かった。

 凜は美里に、グイッとそれを差し出した。
「母さん。ありがとう」
 今日は5月第2日曜日、母の日だ。この日の為に、日々のおやつから凜は少しずつ残して取っておいて、ハンカチで包めるくらいの量を集めておいたのだ。
 そのために、最初は日持ちのする飴玉などを、つい最近はまあ大丈夫かとクッキーやせんべいなどをおやつとして与えていたのだ。
 ハンカチは白いレースで、リボンを結んでいる。
「まあ。ありがとう、凛」
 美里はにこにことしてそれを受け取って、凜に頬ずりをする。
 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
 おやつを与えていたので知ってはいるが、やはり嬉しいものだ。凜も、おやつを完食しないで我慢したかいがあったというものだろう。にこにこと嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、一緒におやつにしようか」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「わあ!クッキー!」
「手を洗って来ましょう」
 凜と美里は、いそいそと洗面所に行く。
 それを見送りながら、来月は父の日だからまた同じように日持ちのするおやつを考えないとな、と僕は考えていた。
 同じものでは、凜が納得しないだろうからな。
 考えているうちに、2人が戻って来て、テーブルに着く。色々な形に抜いたクッキーに、アイシングで色を付けたものやチョコレートをコーティングしたものもある。
「いただきます!象さん!これは、くまさん!」
 凜はそれらを並べ、端に取りよけた。
「累と、敬君と、優維ちゃんと、康君の分!」
 取って置いて分けると言う事を覚えたらしい。
「大丈夫。たくさん作ったから、明日は皆で食べるといいよ」
 すると凜は安心したように、ピンクのうさぎを口に入れた。
「今度動物園に、いっぱい本物を見に行こうか」
「行きたい!父さん、約束!」
「ん」
 僕は凜と指切りをし、その後凜は美里とも指切りをした。
 指切り。そう深く気にはせずに、したのだった。




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