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祈る(3)恋バナ
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歩道橋から落ちて、砂岡さんと同じ会社の社員が重症を負った。
目撃者の話では、黒い煙みたいなものがまとわりついて階段から落ちて行ったそうだ。たまたま持っていた荷物と傘がブレーキの役割を果たしたようだが、頭を打って亡くなっていても不思議では無かった。
今回も本人に憑いているものはなく、現場にも異常はなかった。
「会社で間違いないな」
「だねえ。販売促進課かねえ」
「販売促進課の人間の面接でもするか」
僕と直はそう言い合った。
促進販売課の室内は、立て続けに2人も事故に遭った事に、浮足立っていた。
「何か、呪われているんじゃないの?」
「ウチが契約を取って、負けた会社にか?」
「だって、ほら。今回歩道橋から落ちた須佐、取引先の会社の女社長に気に入られてるし」
「それで負けたんじゃ、恨みたくもなるな」
こそこそと、社員が無責任な噂をしている。
それをふんふんと聞いていた八重垣の所に、広秦が来る。
「八重垣さん。お昼、ご一緒してもいいですか」
「え、あ、勿論!」
八重垣は一瞬キョトンとし、すぐに笑顔を浮かべた。
そして並んで昼食に出る2人を、唖然としたように残った社員が見送った。
「広秦さん、須佐と付き合ってるんじゃなかったのか?」
「え、何で?」
そんな声が、「呪い疑惑」を上回って、販売促進課を席捲したのだった。
僕と直が会社に着いたのは、昼休みの終わるころだった。
「何か、空気が変だな?」
女子社員が数名集まってひそひそとして、首を傾げていた。
直はそこにニコニコしながら近付いて行き、一緒になって何やら話し、驚き、戻って来た。
「いやあ、驚きだよう」
訊き出して来たらしい。流石だ。
「須佐さんと付き合い出したところの広秦さんっていう子が、突然八重垣さんっていう人と急接近らしいよう。何でも広秦さんはずっと須佐さんが好きだったそうで、あり得ないそうだよ。昨日はラブラブだったのに、今日いきなりなんだって」
「それは気持ち悪いな」
「だよねえ」
何かに操られているのだろうか。
考えた時、気配が近付いて来るのを感じた。どうも、今入って来た女子社員かららしい。
とは言え、残滓が残っているという感じだ。
「あ、広秦さん」
集まっていた女子社員らが声を上げ、ほぼ全員がその彼女に注目する。
「陽子。あんたどうしたのよ!」
女子社員らが、彼女を囲む。
「何が?」
「須佐さんよ!何かあったの!?」
「須佐さん?誰だっけ……あら?須佐さん……須佐……」
広秦さんは考えるようにし、次いで頭を押さえ、ぼんやりとした顔付きでゆらゆらと体を揺らした。
その様子に、彼女を囲んでいた皆がたじろぐ。
「失礼します」
「お邪魔しますねえ」
僕と直は、そんな彼女らの輪に入って行った。
「意識を操作されてるな。祓えば消える程度だし、問題はないか。追跡までは無理そうだがな」
「仕方ないねえ。そっちは地道にいこうかねえ」
「だな」
浄力を軽く当てると、広秦さんは急に目を覚ましたばかりというような顔をして、キョロキョロと周りを見回した。
「え?会社?」
「陽子!」
「あ、おはよう」
「もう昼よ。あんた今お昼ご飯行って来たでしょう?」
「うそ!あ、お腹いっぱいだわ。何食べたの?嫌だ、若年性アルツハイマー!?」
青ざめる広秦さんに、話しかける。
「陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「あなたに憑りついていた何かを今祓ったところです。それは意識を操作していたようですね」
それで、周囲の女子社員達がホッとしたような顔で喋り出した。
「やっぱり。おかしいと思ったわ」
「八重垣さんはぬか喜びね」
「待って。操っていたんでしょ?それ、誰が?」
「八重垣さん?」
彼女らは、顔を見合わせて口をつぐむ。わからないのは、僕と直と広秦さんだけだ。
「八重垣さんは今どこに?」
訊くと、中の1人が、
「昼はそのまま営業に出る予定ですよ」
と答える。
「八重垣さんがしたかどうかはわかりませんよ。たまたま目に入った八重垣さんを利用しただけかも知れませんので」
「八重垣さんに憑くために広秦さんを利用して経由したのかも知れませんしねえ」
八重垣さんを犯人と決めつけないように言って、僕と直は、八重垣さんを追う事にした。
八重垣さんは、犯人か、次のターゲットか。
目撃者の話では、黒い煙みたいなものがまとわりついて階段から落ちて行ったそうだ。たまたま持っていた荷物と傘がブレーキの役割を果たしたようだが、頭を打って亡くなっていても不思議では無かった。
今回も本人に憑いているものはなく、現場にも異常はなかった。
「会社で間違いないな」
「だねえ。販売促進課かねえ」
「販売促進課の人間の面接でもするか」
僕と直はそう言い合った。
促進販売課の室内は、立て続けに2人も事故に遭った事に、浮足立っていた。
「何か、呪われているんじゃないの?」
「ウチが契約を取って、負けた会社にか?」
「だって、ほら。今回歩道橋から落ちた須佐、取引先の会社の女社長に気に入られてるし」
「それで負けたんじゃ、恨みたくもなるな」
こそこそと、社員が無責任な噂をしている。
それをふんふんと聞いていた八重垣の所に、広秦が来る。
「八重垣さん。お昼、ご一緒してもいいですか」
「え、あ、勿論!」
八重垣は一瞬キョトンとし、すぐに笑顔を浮かべた。
そして並んで昼食に出る2人を、唖然としたように残った社員が見送った。
「広秦さん、須佐と付き合ってるんじゃなかったのか?」
「え、何で?」
そんな声が、「呪い疑惑」を上回って、販売促進課を席捲したのだった。
僕と直が会社に着いたのは、昼休みの終わるころだった。
「何か、空気が変だな?」
女子社員が数名集まってひそひそとして、首を傾げていた。
直はそこにニコニコしながら近付いて行き、一緒になって何やら話し、驚き、戻って来た。
「いやあ、驚きだよう」
訊き出して来たらしい。流石だ。
「須佐さんと付き合い出したところの広秦さんっていう子が、突然八重垣さんっていう人と急接近らしいよう。何でも広秦さんはずっと須佐さんが好きだったそうで、あり得ないそうだよ。昨日はラブラブだったのに、今日いきなりなんだって」
「それは気持ち悪いな」
「だよねえ」
何かに操られているのだろうか。
考えた時、気配が近付いて来るのを感じた。どうも、今入って来た女子社員かららしい。
とは言え、残滓が残っているという感じだ。
「あ、広秦さん」
集まっていた女子社員らが声を上げ、ほぼ全員がその彼女に注目する。
「陽子。あんたどうしたのよ!」
女子社員らが、彼女を囲む。
「何が?」
「須佐さんよ!何かあったの!?」
「須佐さん?誰だっけ……あら?須佐さん……須佐……」
広秦さんは考えるようにし、次いで頭を押さえ、ぼんやりとした顔付きでゆらゆらと体を揺らした。
その様子に、彼女を囲んでいた皆がたじろぐ。
「失礼します」
「お邪魔しますねえ」
僕と直は、そんな彼女らの輪に入って行った。
「意識を操作されてるな。祓えば消える程度だし、問題はないか。追跡までは無理そうだがな」
「仕方ないねえ。そっちは地道にいこうかねえ」
「だな」
浄力を軽く当てると、広秦さんは急に目を覚ましたばかりというような顔をして、キョロキョロと周りを見回した。
「え?会社?」
「陽子!」
「あ、おはよう」
「もう昼よ。あんた今お昼ご飯行って来たでしょう?」
「うそ!あ、お腹いっぱいだわ。何食べたの?嫌だ、若年性アルツハイマー!?」
青ざめる広秦さんに、話しかける。
「陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「あなたに憑りついていた何かを今祓ったところです。それは意識を操作していたようですね」
それで、周囲の女子社員達がホッとしたような顔で喋り出した。
「やっぱり。おかしいと思ったわ」
「八重垣さんはぬか喜びね」
「待って。操っていたんでしょ?それ、誰が?」
「八重垣さん?」
彼女らは、顔を見合わせて口をつぐむ。わからないのは、僕と直と広秦さんだけだ。
「八重垣さんは今どこに?」
訊くと、中の1人が、
「昼はそのまま営業に出る予定ですよ」
と答える。
「八重垣さんがしたかどうかはわかりませんよ。たまたま目に入った八重垣さんを利用しただけかも知れませんので」
「八重垣さんに憑くために広秦さんを利用して経由したのかも知れませんしねえ」
八重垣さんを犯人と決めつけないように言って、僕と直は、八重垣さんを追う事にした。
八重垣さんは、犯人か、次のターゲットか。
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