体質が変わったので

JUN

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ホワイトアウト(2)北の地

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 僕と直は、飛行機で北海道に向かっていた。
「敬も、お兄ちゃんらしくなったよねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「全くだ。頼もしいよな。
 しかし、寝ないから大丈夫という説得には恐れ入った。納得する凜も凜だが」
 直はプッと噴き出し、
「まあ、いいんじゃないかねえ?」
と辛うじて言った。
「優維と累は、保育園で雪女の絵本も知ってるらしくてねえ。こっちは、雪女が近付いても耳に息を吹き込まれないようにって、耳当てを持って行けってさあ」
「かわいいなあ」
「物もかわいくてねえ。うさぎの耳がついてるんだよう、優維のは。できないよう」
「そ、それは、うん、できないな。まあ、それなりに似合いそうではあるが」
「じゃあ、怜もやるかねえ?累のはクマの耳だよう」
「すまん。似合いそうは言い過ぎた」
 僕達はそんな事を言い合いながら、北海道を目指した。

 曇っていたが降ってはおらず、風も大して吹いてはいない。だが、寒い。
「遠い所を、ありがとうございます」
 ロビーで待っていてくれた警察官に案内されて道警本部に行くと、本部長室へまずは通されたが、そこに交通課の課長も待っていた。
 そこで改めて事件の概要を聞く。
 郊外の市道で、白い人影の目撃例があるそうだ。決まってホワイトアウトの起こる日で、道端にポツンと現れ、車を進めるとまた現れる。数十メートルおきに数度現れ、最後はいきなり車の真ん前に現れると、運転手は反射的にハンドルを切って、スリップして事故を起こすという。
「低速なので幸いにして死者はまだいないんですが、事故そのものは9件、スリップした先で歩行者にぶつかりそうにもなっています」
「わかりました。まずは現場を視たいですね」
 それで僕と直は、交通課の警察官と共にその市道を走り出した。
 道の真ん中は雪が無いが、道端には雪がたくさん寄せられ、所々、集められているのか集まっているのか、大量の雪が山を作っていた。
「この辺りからですね、目撃され始めるのは」
 巡査部長が言う。
 辺りにあるのは畑と民家と小さなパン屋くらいだ。
 そこから似たような風景が続き、緩やかにカーブした道が高速道路を潜った先で、
「この辺りで最後の人影が出るらしく、そこの雪の吹き溜まりに突っ込んだり、畑に突っ込んだりしています」
と言いながら、車を停めた。
 交通量は少なく、民家も少ない。街灯も見当たらなかった。
「今は何もいませんね。吹雪がきっかけになってるのかな」
「今日の夜からまた低気圧が発達して来るそうだよう?」
 直がスマホで天気予報を見て言った。
「天気に期待しようか」
「じゃあ、ホテルへご案内します。署のすぐ近くなんですよ」
 巡査部長はパトカーを発車させ、警察署へと向かった。
 ちょっと挨拶してからと、パトカーを降りて建物へ入る。
 外に比べ、中はとても暖かい。上着を着ていたら汗をかきそうだ。
 と、警察官にすがりつくようにして頭を何度も下げている夫婦がいた。
「お願いします。娘を探して下さい。お願いします」
 縋られた警察官は、困ったような顔をしている。
 案内してくれた巡査部長は小声で、
「ああ。また来てるのか……」
と呟いた。
「また?」
 訊き直す。
「ああ。高校生の1人娘がいるんですが、親子喧嘩の末に家出をしたんです。何でも、娘さんはアイドルになりたいそうで、それを親は反対していて」
「まあ、親は安定した人生を望むよねえ」
「はい。それに、東京のプロダクションに入るのに、まずは研究生というものになってレッスンをするとかで、寮での生活費と歌やダンスのレッスン費と販促費として月に50万いるそうなんですよ」
「胡散臭いな」
「でしょう?それで、親は反対したそうなんですが、娘の方は聞く耳を持たなかったようで。今月初め、節分の翌日に家を出て友人の所に転がり込みました。そこでお年玉を全て下ろして東京へ行こうとしたらしいんですが、友人にも怪しいんじゃないかと言われ、吹り切って出て行き、そこから行方がわかりません。
 飛行機を利用した形跡もなく、列車にもそれらしい姿が見付かっていません。お金の節約のためにヒッチハイクをしたとなればお手上げですよ」
 巡査部長は小さく溜め息をついた。
「その事務所の方は?」
「一応電話は通じていますが、来ていないと」
 全くのサギで事務所も存在しないというケースの他に、レッスンも名ばかりで何も無く、延々とレッスン料を取られるだけというケース、他に、仕事としてアダルトビデオの出演を強要したり、売春行為を強要したりするケースもある。
 断れば、違約金が発生するという仕組みだ。
「事務所の方の捜査は?」
「詳しくは聞いていませんが、本人が来ていないかどうかの問い合わせ以外はしていないかと。家出にそこまで関係ありませんから」
「……後でその事務所の事を聞いてもいいかな」
 僕が言うと、直も頷いた。
「場所とか代表者名とかねえ」
「わかりました」
 僕達は悲痛な夫婦の声を背中に、2階へ上がって行った。


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