819 / 1,046
密室(2)被害者のグチ
しおりを挟む
僕と直は、事件があった研究室に来ていた。
被害者はこの東都総合大学という私立大学の動物生態学研究室の教授で、渡辺文彦、43歳。床に転がって亡くなっているのを登校して来た学生が発見し、110番通報がなされた。死因はアルカロイド系毒物を摂取した事による毒殺。死亡推定時刻は前日23時から1時。デスクの上にコーヒーのカップや細長いチュロス、クッキーなどがあり、ここで飲んでいた最中の事だと思われる。
研究室はもう封鎖も解け、通常通りになっていたが、今は無人の室内で、渡辺さんはまだ1人でおやつを続けていた。
やってらんねえよなあ
忙しい 給料は安い 重労働
婚活う?そんなヒマねえよ
僕と直は、やさぐれている渡辺さんに話しかけた。
「渡辺さんですね。陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますう」
ん?お客さん?
ちょうどいい 一緒にやらない?
「仕事中なもので。
伺いたい事があるんですが、よろしいでしょうか」
訊くと、チュロスをくわえながら渡辺さんが頷いたので、続ける。
「11月初め、あなたがここで亡くなったのは自覚していらっしゃいますか」
まあね
まさか さっさと成仏しろって?
ウナギの孵化が気になってさあ
まだ無理だよ
「ああ……研究熱心ですね」
「ウナギが完全養殖できたら、安くなりますよねえ」
いいだろ?
これがまた難しくってさ
ウナギの生態って謎だらけなんだよねえ
ウナギも気になるが、それどころじゃない。
「渡辺さんが亡くなったのは、コーヒーに混入された毒物が原因ですよね。その毒物を入れたのは誰でしょうか」
そんな事 わかんないよ
コーヒーメーカーはいつでもそこにあったんだ
誰だって入れられるじゃないか
古いコーヒーメーカーと豆が、デンと机の上に乗っていた。コーヒーは何杯分か淹れて、そのままなくなるまで保温していたらしい。出入りしている関係者の証言通りだ。
恨まれていた覚えもあり過ぎだしな
フィールドワークはキツイ
研究費は少ない
就職には全くツテも無い
観察の都合で泊まり込みも多いから
フラれる 婚活できない 就活できない
恨まれるわなあ
あとはブツブツと、温度がどうのペーハーがどうのと研究内容に没頭し、忘れた頃にふと顔を上げて、
ん?お客さん?
に巻き戻った。
これ以上、聞く事は無さそうだ。僕と直は、研究室を後にした。
被疑者は助教の、秋津大地。大人しそうで真面目そうな青年だった。恋人はなし。
家族は両親と妹で、彼らは目を吊り上げて、「そんな事をする子じゃない」「優しい子なんだから」「無罪に間違いない」と繰り返した。
被疑者は大学近くのアパートに1人で住んでおり、アリバイはなし。反対に、10時56分、教室近くの廊下の防犯カメラに、帰宅する姿が映っていた。コーヒーメーカーに指紋は付いていたが、これは研究室の人間の指紋が付きまくっており、証拠とはしがたい。毒物の入っていた容器は被疑者の自宅アパートにあり、成分がコーヒーメーカー内のものと完全に一致。その毒物を植物から抽出した事も、判明していた。
動機以外は自供しており、その自供無しでも、証拠は揃っている。
なのに、なぜ自殺未遂を謀ったのか。罪の意識?今後に悲観して?
「すっきりしないなあ」
「うん。犯行そのものは間違いないと思うんだけどねえ」
「何か隠してるよな。そこが、動機なんだろうな」
「動機を探る事が大事なのかねえ?」
「密室の犯行で、被害者もあの通り」
「はああ」
僕達は、溜め息をついた。
「本人に会ってみるか」
「意識が戻っていればいいんだけどねえ」
そして僕達は、病院へ行った。
行って被疑者を視て、驚いた。
「誰だ、あの女性は」
被疑者には、同年代の女性の霊が憑いていた。
被害者はこの東都総合大学という私立大学の動物生態学研究室の教授で、渡辺文彦、43歳。床に転がって亡くなっているのを登校して来た学生が発見し、110番通報がなされた。死因はアルカロイド系毒物を摂取した事による毒殺。死亡推定時刻は前日23時から1時。デスクの上にコーヒーのカップや細長いチュロス、クッキーなどがあり、ここで飲んでいた最中の事だと思われる。
研究室はもう封鎖も解け、通常通りになっていたが、今は無人の室内で、渡辺さんはまだ1人でおやつを続けていた。
やってらんねえよなあ
忙しい 給料は安い 重労働
婚活う?そんなヒマねえよ
僕と直は、やさぐれている渡辺さんに話しかけた。
「渡辺さんですね。陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田と申しますう」
ん?お客さん?
ちょうどいい 一緒にやらない?
「仕事中なもので。
伺いたい事があるんですが、よろしいでしょうか」
訊くと、チュロスをくわえながら渡辺さんが頷いたので、続ける。
「11月初め、あなたがここで亡くなったのは自覚していらっしゃいますか」
まあね
まさか さっさと成仏しろって?
ウナギの孵化が気になってさあ
まだ無理だよ
「ああ……研究熱心ですね」
「ウナギが完全養殖できたら、安くなりますよねえ」
いいだろ?
これがまた難しくってさ
ウナギの生態って謎だらけなんだよねえ
ウナギも気になるが、それどころじゃない。
「渡辺さんが亡くなったのは、コーヒーに混入された毒物が原因ですよね。その毒物を入れたのは誰でしょうか」
そんな事 わかんないよ
コーヒーメーカーはいつでもそこにあったんだ
誰だって入れられるじゃないか
古いコーヒーメーカーと豆が、デンと机の上に乗っていた。コーヒーは何杯分か淹れて、そのままなくなるまで保温していたらしい。出入りしている関係者の証言通りだ。
恨まれていた覚えもあり過ぎだしな
フィールドワークはキツイ
研究費は少ない
就職には全くツテも無い
観察の都合で泊まり込みも多いから
フラれる 婚活できない 就活できない
恨まれるわなあ
あとはブツブツと、温度がどうのペーハーがどうのと研究内容に没頭し、忘れた頃にふと顔を上げて、
ん?お客さん?
に巻き戻った。
これ以上、聞く事は無さそうだ。僕と直は、研究室を後にした。
被疑者は助教の、秋津大地。大人しそうで真面目そうな青年だった。恋人はなし。
家族は両親と妹で、彼らは目を吊り上げて、「そんな事をする子じゃない」「優しい子なんだから」「無罪に間違いない」と繰り返した。
被疑者は大学近くのアパートに1人で住んでおり、アリバイはなし。反対に、10時56分、教室近くの廊下の防犯カメラに、帰宅する姿が映っていた。コーヒーメーカーに指紋は付いていたが、これは研究室の人間の指紋が付きまくっており、証拠とはしがたい。毒物の入っていた容器は被疑者の自宅アパートにあり、成分がコーヒーメーカー内のものと完全に一致。その毒物を植物から抽出した事も、判明していた。
動機以外は自供しており、その自供無しでも、証拠は揃っている。
なのに、なぜ自殺未遂を謀ったのか。罪の意識?今後に悲観して?
「すっきりしないなあ」
「うん。犯行そのものは間違いないと思うんだけどねえ」
「何か隠してるよな。そこが、動機なんだろうな」
「動機を探る事が大事なのかねえ?」
「密室の犯行で、被害者もあの通り」
「はああ」
僕達は、溜め息をついた。
「本人に会ってみるか」
「意識が戻っていればいいんだけどねえ」
そして僕達は、病院へ行った。
行って被疑者を視て、驚いた。
「誰だ、あの女性は」
被疑者には、同年代の女性の霊が憑いていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
199
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる