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返事(3)出席簿
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和田さんは、卒業アルバムを眺めていた。看護師をしていて、今日は夜勤明けで休みだそうだ。買い物にでもでかけるつもりだったそうだが、いつ浦島奈津が来るかわからないという事で、家にいる事にした。
「なっちゃんはよく入院してたんですけど、その度に皆で、手紙を書いたり千羽鶴を折ったりしてお見舞いに行ったんですよ。そうやって病気で苦しむ人を助けたいと思って、その頃から看護師に憧れるようになったんですよねえ」
不安を紛らわせるためか、和田さんはよくしゃべった。
「そうだ。担任の先生に似た人がドクターにいるんですよ。何かもう、どっちも先生で笑っちゃう」
「ははは。確かにどっちも先生ですねえ」
「でしょ。だからつい間違えても、ばれないの」
「ははは」
直はそれに付き合ってやっている。
と、気配が近付いて来た。
「和田さん、絶対に返事をしないで下さい」
「わ、わかりました」
和田さんは表情を引き締め、背筋を伸ばした。
と、どこからかチャイムの音がして、女の子が現れた。浦島奈津だろう。手に、黒い出席簿を持っている。浦島が憑いているのは、出席簿だったのかもしれない。
そう考えていると、浦島が出席簿を開き、呼んだ。
和田さん
和田さんの背が、ピクリとした。しかし返事はしない。
それで浦島は、首を傾けた。
どうして返事しないのかな
聞こえてるよね
それより あなたたちはだあれ?
「警視庁陰陽課、御崎です」
「同じく町田ですう」
「浦島奈津さんですね」
転入生ね
御崎君 町田君
僕と直は、勿論返事などしない。
「浦島さんは日直当番なんですか」
そうよ だから点呼をとるの
返事をした人は
こっちの教室に来てもらうの
そう言うと、浦島さんの背後に、松山さん達被害者が現れた。
「浦島さん、クラスメイトをそんな風に呼んではいけない」
浦島は拗ねたように口を尖らせた。
どうして?
一緒に卒業しようって
言ったもん
「あなたは死んでいます。そして、卒業式は終わっているんです。
もう、向こうに逝きましょうか」
浦島の形相が変わった。
私だって卒業式に出たかった
私も大きくなりたかった
「だからと言って、強引に友達を呼びよせるのはだめでしょう」
「それは、友達にする事じゃないねえ?」
だって 羨ましかったんだもん
同窓会に来て 出席の点呼取った皆が
泣き出す浦島に、松山さん達が何とも言えない顔をする。
「謝って、それから逝きましょうか」
浦島はしゃくりあげながら、背後の皆に向かって頭を下げた。
ごめんなさい
中の1人が苦笑する。
仕方ないなあ なっちゃんは
俺も死んじゃったし 一緒に行くか
もういいわよ はあ
今度は美人に生まれて
玉の輿に乗ってやる
相変わらずだなあ
なっちゃんは ケーキ屋さん?
うん!ケーキ屋さんになりたい!
そう言って、彼らはきらきらと光る粒子のようになって、消えて行った。
ただ、松山さん夫妻が残った。
大樹は大丈夫でしょうか
僕と直は目を合わせた。
「実は、誰に呼ばれても聞こえない風にするんですよねえ」
「返事をしたら連れていかれる。それで、聞こえないふりをしているのかと思うんですが」
「大樹君に、会って行かれますかねえ」
松山さん夫妻は頷いて、直の札に移った。
その後には、古い出席簿が残るだけだった。
「なっちゃんはよく入院してたんですけど、その度に皆で、手紙を書いたり千羽鶴を折ったりしてお見舞いに行ったんですよ。そうやって病気で苦しむ人を助けたいと思って、その頃から看護師に憧れるようになったんですよねえ」
不安を紛らわせるためか、和田さんはよくしゃべった。
「そうだ。担任の先生に似た人がドクターにいるんですよ。何かもう、どっちも先生で笑っちゃう」
「ははは。確かにどっちも先生ですねえ」
「でしょ。だからつい間違えても、ばれないの」
「ははは」
直はそれに付き合ってやっている。
と、気配が近付いて来た。
「和田さん、絶対に返事をしないで下さい」
「わ、わかりました」
和田さんは表情を引き締め、背筋を伸ばした。
と、どこからかチャイムの音がして、女の子が現れた。浦島奈津だろう。手に、黒い出席簿を持っている。浦島が憑いているのは、出席簿だったのかもしれない。
そう考えていると、浦島が出席簿を開き、呼んだ。
和田さん
和田さんの背が、ピクリとした。しかし返事はしない。
それで浦島は、首を傾けた。
どうして返事しないのかな
聞こえてるよね
それより あなたたちはだあれ?
「警視庁陰陽課、御崎です」
「同じく町田ですう」
「浦島奈津さんですね」
転入生ね
御崎君 町田君
僕と直は、勿論返事などしない。
「浦島さんは日直当番なんですか」
そうよ だから点呼をとるの
返事をした人は
こっちの教室に来てもらうの
そう言うと、浦島さんの背後に、松山さん達被害者が現れた。
「浦島さん、クラスメイトをそんな風に呼んではいけない」
浦島は拗ねたように口を尖らせた。
どうして?
一緒に卒業しようって
言ったもん
「あなたは死んでいます。そして、卒業式は終わっているんです。
もう、向こうに逝きましょうか」
浦島の形相が変わった。
私だって卒業式に出たかった
私も大きくなりたかった
「だからと言って、強引に友達を呼びよせるのはだめでしょう」
「それは、友達にする事じゃないねえ?」
だって 羨ましかったんだもん
同窓会に来て 出席の点呼取った皆が
泣き出す浦島に、松山さん達が何とも言えない顔をする。
「謝って、それから逝きましょうか」
浦島はしゃくりあげながら、背後の皆に向かって頭を下げた。
ごめんなさい
中の1人が苦笑する。
仕方ないなあ なっちゃんは
俺も死んじゃったし 一緒に行くか
もういいわよ はあ
今度は美人に生まれて
玉の輿に乗ってやる
相変わらずだなあ
なっちゃんは ケーキ屋さん?
うん!ケーキ屋さんになりたい!
そう言って、彼らはきらきらと光る粒子のようになって、消えて行った。
ただ、松山さん夫妻が残った。
大樹は大丈夫でしょうか
僕と直は目を合わせた。
「実は、誰に呼ばれても聞こえない風にするんですよねえ」
「返事をしたら連れていかれる。それで、聞こえないふりをしているのかと思うんですが」
「大樹君に、会って行かれますかねえ」
松山さん夫妻は頷いて、直の札に移った。
その後には、古い出席簿が残るだけだった。
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