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スイート10ダイヤモンド(3)アオ姐さんの命令
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カラスを追いかけるというのが無謀だというのは、過去の実体験でよくわかっている。なので、アオにお願いする事になった。
「アオ、ダイヤの指輪を拾って持ち帰ったカラスがいないか探して欲しいんだよねえ」
「チチッ」
「どこの巣にあるか、教えてくれないかねえ?」
「チッ!」
アオは力強く返事をすると、バッと飛び、電線のスズメ達に向かって鳴き出した。そしてそのスズメ達が飛び去ると、今度は信号機の上にとまっていた鳩に向かって鳴く。そして、同時に飛んで行った。
「アオ、流石だな」
「立派な管理職だねえ」
僕達はそれを、見送った。
その2時間後、僕達は公園の木によじ登り、枝に作られた巣の中から無事に指輪を奪還する事に成功した。カラスに突かれそうになったが、アオや鳩、他のカラス達――カー吉と仲間だろうか――の助けで攻撃を免れたのだ。
これです!これ!
宝田さんは泣き出しながら、指輪を見つめた。
「よくやったねえ、アオ。皆もありがとうねえ」
「助かったよ。ありがとう」
僕と直が言った後、アオが一声鳴くと、集まった鳥達は、一斉にバサバサと飛んで行った。
「さあて。次は奥さんにプレゼントだな」
僕達は、宝田家へ向かった。
それは、小さいアパートだった。奥さんの弥生さんは、目を赤くしていた。
「宝田大吉なんて名前なのに、運が悪い人なんですよ。最初に就職した印刷工場が倒産して、不況のせいで正社員は難しくて、2人共ずっとアルバイトとパートを。派遣切りは、何度も何度も。
子供も一度はできたんですが、私に病気が見付かって、泣く泣く諦めました。
それでも、あの人は優しいし、楽しくて幸せな暮らしでした。それがこんな風に、突然終わるだなんて……」
宝田さんは、泣いている。
「今日伺ったのは、宝田さんに……ああ、会っていただきましょう」
「だねえ」
直が、札を外して、別の札をきる。それで、宝田さんが実体化した。
「大ちゃん!!」
「弥生!」
2人はひしっと抱き合った。
そして離れると、宝田さんはおもむろに指輪を取り出し、弥生さんの指にはめた。
「ありがとう。苦労ばっかりさせて、ごめん」
「何を言ってるの!とんでもないわよ!」
「本当は、これを渡して、『これからもよろしく』って言うつもりだったんだけど、残念だよ」
泣きそうな笑みを浮かべる宝田さんに、弥生さんは掴みかかった。
「このままここにいればいいじゃない!あたしに憑りついて一緒にいようよ!」
宝田さんは首を振った。
弥生さんは縋るようにこちらを見た。
「残念ですが」
それで、弥生さんは、わんわん泣き出した。
「弥生。泣かないでくれよ。頼むから」
「だって」
「弥生。弥生はまだ若い。この先まだまだ長いんだ。幸せになってくれよな。再婚だって、さ」
「しないわ!」
宝田さんは困ったように笑って、
「ありがとう。でも、そういう人ができたら、幸せになる事を選んでくれ。な」
と言う。
「何でよう」
「弥生が幸せになる事が、俺の幸せだから。この事を覚えておいてくれ」
「あた、あたし、は、大ちゃんが一緒が――!」
「ごめん。本当にごめん」
2人はさんざん泣いて、別れを惜しんで、そして、宝田さんは成仏していった。
僕と直は、アオに無農薬のキャベツを献上しながら、話していた。
「宝田さん、潔い人だったな」
「うん。弥生さん、吹っ切れるといいねえ」
「だよな。まあ、突然の事故で実感も無かったのが、ああして別れの時間を持てたんだしな。整理は付くんじゃないかな」
「宝田大吉かあ。名前は物凄く幸運そのものの名前だよねえ。生きてる時は不運だったけど」
「でも、短くとも幸せな人生だったかもな」
2人はしみじみと、あの2人を思い出していた。
「アオも大活躍だったな」
「チッ!」
「流石だねえ」
「チチッ!」
アオはこころなしか胸を張り、また、キャベツに戻った。
「それにしても、アニメの放送内容か。直が覚えてくれてて助かったよ」
「優維がお気に入りだからねえ。あの回は、変身の方法と衣装が変わったらしくて、物凄く何度も実演して、覚えるように強要されちゃってねえ」
直が苦笑する。
「男子の、仮面何とかの変身みたいなものか」
「そうそう。ははは」
「大変だなあ、直も」
「怜もさせられるよう?」
「は?」
「あのアニメ、女の子の12人グループなんだよねえ。だから、うちと怜のところと司さんのところと京香さんと康介。人数に入ってるんだよねえ。今度覚えてもらうって張り切ってたよう」
「ええ……面倒臭い……」
「アオ、ダイヤの指輪を拾って持ち帰ったカラスがいないか探して欲しいんだよねえ」
「チチッ」
「どこの巣にあるか、教えてくれないかねえ?」
「チッ!」
アオは力強く返事をすると、バッと飛び、電線のスズメ達に向かって鳴き出した。そしてそのスズメ達が飛び去ると、今度は信号機の上にとまっていた鳩に向かって鳴く。そして、同時に飛んで行った。
「アオ、流石だな」
「立派な管理職だねえ」
僕達はそれを、見送った。
その2時間後、僕達は公園の木によじ登り、枝に作られた巣の中から無事に指輪を奪還する事に成功した。カラスに突かれそうになったが、アオや鳩、他のカラス達――カー吉と仲間だろうか――の助けで攻撃を免れたのだ。
これです!これ!
宝田さんは泣き出しながら、指輪を見つめた。
「よくやったねえ、アオ。皆もありがとうねえ」
「助かったよ。ありがとう」
僕と直が言った後、アオが一声鳴くと、集まった鳥達は、一斉にバサバサと飛んで行った。
「さあて。次は奥さんにプレゼントだな」
僕達は、宝田家へ向かった。
それは、小さいアパートだった。奥さんの弥生さんは、目を赤くしていた。
「宝田大吉なんて名前なのに、運が悪い人なんですよ。最初に就職した印刷工場が倒産して、不況のせいで正社員は難しくて、2人共ずっとアルバイトとパートを。派遣切りは、何度も何度も。
子供も一度はできたんですが、私に病気が見付かって、泣く泣く諦めました。
それでも、あの人は優しいし、楽しくて幸せな暮らしでした。それがこんな風に、突然終わるだなんて……」
宝田さんは、泣いている。
「今日伺ったのは、宝田さんに……ああ、会っていただきましょう」
「だねえ」
直が、札を外して、別の札をきる。それで、宝田さんが実体化した。
「大ちゃん!!」
「弥生!」
2人はひしっと抱き合った。
そして離れると、宝田さんはおもむろに指輪を取り出し、弥生さんの指にはめた。
「ありがとう。苦労ばっかりさせて、ごめん」
「何を言ってるの!とんでもないわよ!」
「本当は、これを渡して、『これからもよろしく』って言うつもりだったんだけど、残念だよ」
泣きそうな笑みを浮かべる宝田さんに、弥生さんは掴みかかった。
「このままここにいればいいじゃない!あたしに憑りついて一緒にいようよ!」
宝田さんは首を振った。
弥生さんは縋るようにこちらを見た。
「残念ですが」
それで、弥生さんは、わんわん泣き出した。
「弥生。泣かないでくれよ。頼むから」
「だって」
「弥生。弥生はまだ若い。この先まだまだ長いんだ。幸せになってくれよな。再婚だって、さ」
「しないわ!」
宝田さんは困ったように笑って、
「ありがとう。でも、そういう人ができたら、幸せになる事を選んでくれ。な」
と言う。
「何でよう」
「弥生が幸せになる事が、俺の幸せだから。この事を覚えておいてくれ」
「あた、あたし、は、大ちゃんが一緒が――!」
「ごめん。本当にごめん」
2人はさんざん泣いて、別れを惜しんで、そして、宝田さんは成仏していった。
僕と直は、アオに無農薬のキャベツを献上しながら、話していた。
「宝田さん、潔い人だったな」
「うん。弥生さん、吹っ切れるといいねえ」
「だよな。まあ、突然の事故で実感も無かったのが、ああして別れの時間を持てたんだしな。整理は付くんじゃないかな」
「宝田大吉かあ。名前は物凄く幸運そのものの名前だよねえ。生きてる時は不運だったけど」
「でも、短くとも幸せな人生だったかもな」
2人はしみじみと、あの2人を思い出していた。
「アオも大活躍だったな」
「チッ!」
「流石だねえ」
「チチッ!」
アオはこころなしか胸を張り、また、キャベツに戻った。
「それにしても、アニメの放送内容か。直が覚えてくれてて助かったよ」
「優維がお気に入りだからねえ。あの回は、変身の方法と衣装が変わったらしくて、物凄く何度も実演して、覚えるように強要されちゃってねえ」
直が苦笑する。
「男子の、仮面何とかの変身みたいなものか」
「そうそう。ははは」
「大変だなあ、直も」
「怜もさせられるよう?」
「は?」
「あのアニメ、女の子の12人グループなんだよねえ。だから、うちと怜のところと司さんのところと京香さんと康介。人数に入ってるんだよねえ。今度覚えてもらうって張り切ってたよう」
「ええ……面倒臭い……」
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