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スイート10ダイヤモンド(1)連続万引き事件
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大吉は、手の中の小箱に目を落とし、湧き上がる笑顔をどうにか押さえた。道の真ん中でニタニタしていたら、変に思われる。
しかし、これを渡した時の妻の反応を想像すると、ドキドキする。
大吉と妻の弥生は同級生で、高校を卒業してすぐに結婚した。親の反対を押し切っての事もあり、結婚式は手作りのパーティーで、暮らしも貧乏。そんな2人なので、結婚式はおろか、婚約指輪も渡せていない。結婚指輪は、路上の安いペアリングだ。
しかし、10年たってようやく人並みの暮らしができるようになった。生活費を切り詰め、新しい服や化粧品もやりくりしてほぼ買わず、苦労をさせてきたが、そんな妻へ最大の感謝と愛情をと思い、大吉は小遣いをちまちまと溜め、これを手に入れた。小さいが、ダイヤの指輪だ。
きっと妻は、勿体ないと怒るだろう。そして、申し訳ないと言うだろう。それでも、最後には笑って指にはめてくれるだろう。
大吉は想像し、またもニヤニヤとしそうになる顔を、咳払いでごまかして隠した。
なので、急いでいたのは事実だ。少々注意力散漫だったのも。
しかし、間違いなく信号が青に変わったのを確認してから横断歩道を渡り出した。そこへ、スピードを上げて車が突っ込んで来て、大吉の体を高々と跳ね飛ばした。
体に大きな衝撃があり、視界がグルリと回った。そして今度は地面に叩きつけられるように投げ出され、誰かの悲鳴が聞こえて来た。
何が起こったんだろう?早く帰らないと……。
そう考え、大吉は意識を手放した。
取調室で、犯人は狼狽え、泣いていた。
「何も覚えていないんです、本当に」
それをマジックガラス越しに、僕達は見ていた。
「取り敢えず今は何も憑いてはいませんね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「でも、これが続くのも変ですよねえ、確かに」
直が首を捻りながら言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「言い訳も同じなら、店も同じ、商品も同じですから……」
所轄の刑事課係長は、嘆息して言った。
ある郊外の署から陰陽課に依頼が来たのは、10月に入ってすぐの事だった。宝飾店で万引きをするという事件が続いていたらしいが、被害に遭ったのは全て同じ店で、商品も同じ、そして捕まえた犯人は皆、
「店に近付いた辺りから記憶がない。万引きなんて覚えがない」
と言うらしい。
その商品を見たが、流行りのデザインというわけでもなく、有名人がしていて人気が出たとかいうものでもない。値段も、そこまで高額というものでもない。
被害にあった店は、郊外の駅前にある小さな店だ。
フラフラと入店して来て、それを手に取って眺め、無表情のままにすうっと店を出て行こうとする万引き犯を引き留めると、彼らはキョトンとし、辺りを見回し、「覚えがない」と喚き出すのだ。店員も気味悪がっているそうだ。
「店も視てみましょう」
「お願いします」
僕と直は、明日の朝そこへ行く事にした。
しかし、これを渡した時の妻の反応を想像すると、ドキドキする。
大吉と妻の弥生は同級生で、高校を卒業してすぐに結婚した。親の反対を押し切っての事もあり、結婚式は手作りのパーティーで、暮らしも貧乏。そんな2人なので、結婚式はおろか、婚約指輪も渡せていない。結婚指輪は、路上の安いペアリングだ。
しかし、10年たってようやく人並みの暮らしができるようになった。生活費を切り詰め、新しい服や化粧品もやりくりしてほぼ買わず、苦労をさせてきたが、そんな妻へ最大の感謝と愛情をと思い、大吉は小遣いをちまちまと溜め、これを手に入れた。小さいが、ダイヤの指輪だ。
きっと妻は、勿体ないと怒るだろう。そして、申し訳ないと言うだろう。それでも、最後には笑って指にはめてくれるだろう。
大吉は想像し、またもニヤニヤとしそうになる顔を、咳払いでごまかして隠した。
なので、急いでいたのは事実だ。少々注意力散漫だったのも。
しかし、間違いなく信号が青に変わったのを確認してから横断歩道を渡り出した。そこへ、スピードを上げて車が突っ込んで来て、大吉の体を高々と跳ね飛ばした。
体に大きな衝撃があり、視界がグルリと回った。そして今度は地面に叩きつけられるように投げ出され、誰かの悲鳴が聞こえて来た。
何が起こったんだろう?早く帰らないと……。
そう考え、大吉は意識を手放した。
取調室で、犯人は狼狽え、泣いていた。
「何も覚えていないんです、本当に」
それをマジックガラス越しに、僕達は見ていた。
「取り敢えず今は何も憑いてはいませんね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「でも、これが続くのも変ですよねえ、確かに」
直が首を捻りながら言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「言い訳も同じなら、店も同じ、商品も同じですから……」
所轄の刑事課係長は、嘆息して言った。
ある郊外の署から陰陽課に依頼が来たのは、10月に入ってすぐの事だった。宝飾店で万引きをするという事件が続いていたらしいが、被害に遭ったのは全て同じ店で、商品も同じ、そして捕まえた犯人は皆、
「店に近付いた辺りから記憶がない。万引きなんて覚えがない」
と言うらしい。
その商品を見たが、流行りのデザインというわけでもなく、有名人がしていて人気が出たとかいうものでもない。値段も、そこまで高額というものでもない。
被害にあった店は、郊外の駅前にある小さな店だ。
フラフラと入店して来て、それを手に取って眺め、無表情のままにすうっと店を出て行こうとする万引き犯を引き留めると、彼らはキョトンとし、辺りを見回し、「覚えがない」と喚き出すのだ。店員も気味悪がっているそうだ。
「店も視てみましょう」
「お願いします」
僕と直は、明日の朝そこへ行く事にした。
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