体質が変わったので

JUN

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深夜のタクシー(2)幽霊団地

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 深夜、その駅に行った。が、何も起こらない。
「毎日じゃないのか。それとも、何か共通点でもあるのか」
 取り敢えず、1人でないとダメだろうと、僕1人で立ってみた。酔った振りもしてみたが、同じだ。
「ダメらしい。引き上げるか」
 僕はパスで直にそう知らせて、駅を離れた。
 最後に確認できるのは駅の階段下のタクシー乗り場なので、張るならここなのだが。
「困ったな」
 合流すると、直も困った顔をしていたが、まあ、毎日というわけでもないのかも知れないので、根気強く頑張るしかないらしい。
「タクシードライバーに訊いてみたけど、変な噂やおかしな人を見たとかいう事はないらしいねえ。ただ、近くに幽霊団地と呼ばれている団地があるそうだよ」
 近くでタクシーのドライバーに訊き込んでいた直が言う。
「幽霊団地か。行って視るか」
「そうだねえ。まあ、明日だねえ」
 僕と直は、今夜の所は家に帰る事にした。

 翌日、件の団地を訪れる。
 古い4棟から成る団地で、高さは5階まであった。
 その中の1棟、イルカのイラストが描かれた建物に目が吸い寄せられる。
「ここだねえ」
「みたいだな」
 その4階にある部屋に、棲み憑く何かがいる。
「15年前、強盗が入って、主婦を殺害。その後帰宅した夫と鉢合わせになって、強盗は夫と揉み合った挙句、持参した出刃包丁で刺されて死亡。夫もその時のケガから出血死」
「3人全員死亡かあ」
 何とも言えない気分で、直と同時に溜め息をついた。
「リフォームもしたし、クリーニングもしたけど、ダメなんだって。走り回る足音がしたり、食事の支度をするような音がしたりするらしくて、どうしても住人が居つかないそうだねえ」
「ずっと空き家か」
「まあ、暮らしにくいよねえ」
「まあな。走り回られちゃあ落ち着かないし、物音だってうるさいだろうしな。目覚まし代わりになる時間ならともかく」
「夕方だもんねえ」
 話しながら、その部屋へ行く。
 ドアを開けると、いた。
 取っ組み合う血まみれの男が2人と、這いずってそれを睨みつける血塗れの女。
「ああ……」
「あれと関係は無さそうだけど、このままだと、ねえ」
「ついでだし、祓っとくか」
 埃が薄っすらと積もる室内に入り、3人を視る。
「もう、事件で苦しむのは終わりにしましょうか」
 3人が同時に、ギロリとした目を向けて来た。それに構うことなく、浄力を各々に流していく。
 それで3人は、さらさらと崩れるようにして、消えて行った。
 辺りを改めて視る。
「関係はないな」
「そうだねえ」
「まあ、無事に向こうへ逝けて良かった」
「殺し合い続けて15年。長かったねえ」
 僕と直は、団地を後にした。

 そこで改めて、事件を見直してみた。
 被害者は7人。7人共男性で、会社員もいれば学生もいる。この小さな駅の階段下を映す防犯カメラに映るのを最後に、消息が途絶えている。時刻は皆、深夜だ。
 トラブルを探せば何かあるにしても、行方をくらますほどのものはないと、どの関係者も言う。また、そんな様子は全くなかったとも、口を揃えて言う。
 事故か事件を疑う所だが、立て続けにそんな事故や事件が起こるような街でもない。
 だから霊だろうというのは些か乱暴だと言えない事もないが、勘が、霊絡みだと言っていた。
「差し戻す前に、もう少し探ろうか」
 言うと、直も頷く。
「おかしいよねえ、何となく」
「おかしい」
 今晩は、もっと酔った振りをしてやろうか。いっそ、ビールでも持つか?
 僕と直は、どうすれば尻尾を掴めるのかと、頭を捻った。

 

 
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