788 / 1,046
おぶさる(4)決意
しおりを挟む
木崎さんはあの後、グングンと元通りになってきたらしい。老け込むほどに苦労して死んだお姉さんが成仏して、姿勢や体の痛みが本来のものに戻ったらしい。
そして、直のおじさんとおばさんは、決めたらしい。
「田舎でじいちゃんと暮らすって。田んぼや畑の世話をしたりするの、合ってたみたいなんだって」
直がそう言った。
「それで、晴と快君に、実家を改装して整骨院でも開業したらいいって」
「それはまた、思い切ったな。
まあ、おじさんもおばさんも、土いじりは好きだもんな。貸し農園、ずっと順番待ってたもんなあ」
言うと、直は頷いた。
「確かにねえ。まあ、合ってるかもねえ。それにじいちゃんもその方が安心だしねえ」
言いながら、考えているのは木崎さんの事だろう。
「でも、何かあった時に、近くは無いからそれが困るよねえ」
「介護か?」
「そう。下手したら老々介護だよう。
そう言ったら、『年寄り扱いするな』って怒られたんだよねえ」
嘆息する直に、想像して思わず噴き出した。
「その時はこっちに呼んで、こっちの施設に入ってもらうとか」
「うん。そうするよりないよねえ」
直は言って、はあ、と溜め息をついた。
もし兄ちゃんに介護が必要になったらどうしよう。重度だと施設の方がケアが行き届くとか聞くしな。だったら24時間丁寧に見てくれるところを契約して、こことそっちを行き来してだな。
考えている事がわかったのか、兄が言った。
「怜、兄ちゃんの心配はしなくていいからな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「いや、兄ちゃんはまだ元気だよ、勿論。でも、もしもの時の事は考えておかないと。いい所じゃないと、兄ちゃんも冴子姉も心配で預けられないからな。
介護付き有料老人ホームの見学会に今から行くか。
いや、いっそ家を改築して安心できるようにカスタムメイドして、信用できる人を雇う方が安心できるのか」
兄は苦笑していたが、向こうで冴子姉と美里は爆笑していた。
「いやいやいや、ないわ」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「流石、怜ね」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
直も、肩を震わせている。
あれ?何だ?おかしい事を言ったかな?
「と、ともかく、大丈夫だ。俺も健康に注意するし、怜も注意しろよ。
何せ怜は、時々とんでもない大けがをするからな。毎回ちゃんと体が治るとは限らないんだぞ」
「う、はい」
藪蛇だ。話題を変えよう。
「と、ところで、晴ちゃんの結婚はいつになりそうなんだ?」
訊くと、直は笑いを堪えながら言った。
「うん。改装で済むなら、資金はほぼ大丈夫だって。だから、夏のボーナスをもらって今のところを辞めて、その頃に結婚しようかってさあ。
それで、式はなしで、会費制のパーティーにするってさあ」
「お祝い何がいいかな。晴ちゃんに言っておいてよ。結婚祝いと開院祝いとするから」
「いいよう、一緒で」
「そうはいかないよ」
「ああ。是非、させてもらおう」
兄も言って、絵はどうかだの鉢植えはどうかだの色々と皆で言い出す。
ああ。新生活か。晴ちゃん達もおじさん達も、ワクワクしてるんだろうな。
新年度が始まる。新しい何かが始まる期待感に、心が軽くなる気がする。
そして、直のおじさんとおばさんは、決めたらしい。
「田舎でじいちゃんと暮らすって。田んぼや畑の世話をしたりするの、合ってたみたいなんだって」
直がそう言った。
「それで、晴と快君に、実家を改装して整骨院でも開業したらいいって」
「それはまた、思い切ったな。
まあ、おじさんもおばさんも、土いじりは好きだもんな。貸し農園、ずっと順番待ってたもんなあ」
言うと、直は頷いた。
「確かにねえ。まあ、合ってるかもねえ。それにじいちゃんもその方が安心だしねえ」
言いながら、考えているのは木崎さんの事だろう。
「でも、何かあった時に、近くは無いからそれが困るよねえ」
「介護か?」
「そう。下手したら老々介護だよう。
そう言ったら、『年寄り扱いするな』って怒られたんだよねえ」
嘆息する直に、想像して思わず噴き出した。
「その時はこっちに呼んで、こっちの施設に入ってもらうとか」
「うん。そうするよりないよねえ」
直は言って、はあ、と溜め息をついた。
もし兄ちゃんに介護が必要になったらどうしよう。重度だと施設の方がケアが行き届くとか聞くしな。だったら24時間丁寧に見てくれるところを契約して、こことそっちを行き来してだな。
考えている事がわかったのか、兄が言った。
「怜、兄ちゃんの心配はしなくていいからな」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「いや、兄ちゃんはまだ元気だよ、勿論。でも、もしもの時の事は考えておかないと。いい所じゃないと、兄ちゃんも冴子姉も心配で預けられないからな。
介護付き有料老人ホームの見学会に今から行くか。
いや、いっそ家を改築して安心できるようにカスタムメイドして、信用できる人を雇う方が安心できるのか」
兄は苦笑していたが、向こうで冴子姉と美里は爆笑していた。
「いやいやいや、ないわ」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「流石、怜ね」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
直も、肩を震わせている。
あれ?何だ?おかしい事を言ったかな?
「と、ともかく、大丈夫だ。俺も健康に注意するし、怜も注意しろよ。
何せ怜は、時々とんでもない大けがをするからな。毎回ちゃんと体が治るとは限らないんだぞ」
「う、はい」
藪蛇だ。話題を変えよう。
「と、ところで、晴ちゃんの結婚はいつになりそうなんだ?」
訊くと、直は笑いを堪えながら言った。
「うん。改装で済むなら、資金はほぼ大丈夫だって。だから、夏のボーナスをもらって今のところを辞めて、その頃に結婚しようかってさあ。
それで、式はなしで、会費制のパーティーにするってさあ」
「お祝い何がいいかな。晴ちゃんに言っておいてよ。結婚祝いと開院祝いとするから」
「いいよう、一緒で」
「そうはいかないよ」
「ああ。是非、させてもらおう」
兄も言って、絵はどうかだの鉢植えはどうかだの色々と皆で言い出す。
ああ。新生活か。晴ちゃん達もおじさん達も、ワクワクしてるんだろうな。
新年度が始まる。新しい何かが始まる期待感に、心が軽くなる気がする。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる