体質が変わったので

JUN

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おぶさる(4)決意

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 木崎さんはあの後、グングンと元通りになってきたらしい。老け込むほどに苦労して死んだお姉さんが成仏して、姿勢や体の痛みが本来のものに戻ったらしい。
 そして、直のおじさんとおばさんは、決めたらしい。
「田舎でじいちゃんと暮らすって。田んぼや畑の世話をしたりするの、合ってたみたいなんだって」
 直がそう言った。
「それで、晴と快君に、実家を改装して整骨院でも開業したらいいって」
「それはまた、思い切ったな。
 まあ、おじさんもおばさんも、土いじりは好きだもんな。貸し農園、ずっと順番待ってたもんなあ」
 言うと、直は頷いた。
「確かにねえ。まあ、合ってるかもねえ。それにじいちゃんもその方が安心だしねえ」
 言いながら、考えているのは木崎さんの事だろう。
「でも、何かあった時に、近くは無いからそれが困るよねえ」
「介護か?」
「そう。下手したら老々介護だよう。
 そう言ったら、『年寄り扱いするな』って怒られたんだよねえ」
 嘆息する直に、想像して思わず噴き出した。
「その時はこっちに呼んで、こっちの施設に入ってもらうとか」
「うん。そうするよりないよねえ」
 直は言って、はあ、と溜め息をついた。
 もし兄ちゃんに介護が必要になったらどうしよう。重度だと施設の方がケアが行き届くとか聞くしな。だったら24時間丁寧に見てくれるところを契約して、こことそっちを行き来してだな。
 考えている事がわかったのか、兄が言った。
「怜、兄ちゃんの心配はしなくていいからな」
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「いや、兄ちゃんはまだ元気だよ、勿論。でも、もしもの時の事は考えておかないと。いい所じゃないと、兄ちゃんも冴子姉も心配で預けられないからな。
 介護付き有料老人ホームの見学会に今から行くか。
 いや、いっそ家を改築して安心できるようにカスタムメイドして、信用できる人を雇う方が安心できるのか」
 兄は苦笑していたが、向こうで冴子姉と美里は爆笑していた。
「いやいやいや、ないわ」
 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「流石、怜ね」
 御崎美里みさきみさと、旧姓及び芸名、霜月美里しもつきみさと。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
 直も、肩を震わせている。
 あれ?何だ?おかしい事を言ったかな?
「と、ともかく、大丈夫だ。俺も健康に注意するし、怜も注意しろよ。
 何せ怜は、時々とんでもない大けがをするからな。毎回ちゃんと体が治るとは限らないんだぞ」
「う、はい」
 藪蛇だ。話題を変えよう。
「と、ところで、晴ちゃんの結婚はいつになりそうなんだ?」
 訊くと、直は笑いを堪えながら言った。
「うん。改装で済むなら、資金はほぼ大丈夫だって。だから、夏のボーナスをもらって今のところを辞めて、その頃に結婚しようかってさあ。
 それで、式はなしで、会費制のパーティーにするってさあ」
「お祝い何がいいかな。晴ちゃんに言っておいてよ。結婚祝いと開院祝いとするから」
「いいよう、一緒で」
「そうはいかないよ」
「ああ。是非、させてもらおう」
 兄も言って、絵はどうかだの鉢植えはどうかだの色々と皆で言い出す。
 ああ。新生活か。晴ちゃん達もおじさん達も、ワクワクしてるんだろうな。
 新年度が始まる。新しい何かが始まる期待感に、心が軽くなる気がする。



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