体質が変わったので

JUN

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整形(1)暴れるモデル

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 スタジオの中は、竜巻が通ったのかと思うくらい無茶苦茶になっていた。セットは壊れ、ライトは倒れ、その他の色んなものが散乱している。
「これはまた……」
 片付けと作り直しを想像して、思わず呻く。
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「本当に勘弁してもらいたいですよ」
 大きな溜め息と共に、プロデューサーが言う。
「申し訳ありませんが、もう1度経緯を説明して頂けませんかねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
 撮影用スタジオで霊が暴れて器物損壊事件を起こしたという一報が入り、僕と直が来たのだ。
「ここで、CM撮影をしていたんですよ。紅茶のCMで、若手のモデルやタレントがメイドの格好で踊る中、執事の格好の新人人気俳優が、商品名を言って勧めるんですけどね。
 ここに、このCMに起用してないモデルの子が来たんですよ。さゆみなんですけどね」
 直にチラッと目をやると、直が頷いた。
「今、人気急上昇中のモデルですよねえ」
 そうなのか。
「そうそう。やっぱり若いから刑事さんもさゆみきゅんファン?」
 さゆみきゅん?
「いやあ、へへへ。それで、どうしましたかあ?」
 直は笑って誤魔化し、話を促した。これは、知っているだけでファンではないな。
「今日のCMはさゆみは予定に入ってないって言ったんですよ。入ってないんだから、そう言いますよね」
「言いますよねえ」
「そうしたら、にこにこしてたのが、急に怒り出して、『どうして。言った通りにしたのに』とか言ったと思ったら、辺りの物がひっくり返ったり飛んだりし始めて。
 それで皆驚いて、取り敢えずケガをしないようにだけ注意して小さくなってたんですが、『今に見てなさい。私がさゆみになるんだから』ってわけのわからない事を言ったと思ったら、フッと姿が消えたんですよ」
「おお。それで幽霊だと思ったんですねえ」
「ええ。
 でもその時は、取り敢えずさゆみの所属事務所に電話をかけまして、さゆみの居場所を訊いたんです。そうしたら、さゆみはその時、別の仕事で今撮影中だって。
 マネージャーに確認の電話を入れても、今目の前で撮影してる最中だって」
「なるほどぉ」
「ね。でも取り敢えず普通に警察に電話したんですが、お巡りさんに言ったら、お巡りさんも『陰陽課に言った方がいいかも』って、上の人に話してたんですよ」
 その場にいたスタッフはここにいるが、皆、困り果てているような顔をしていた。
「損失、さゆみの事務所に請求できますかね」
「どうでしょうね。さゆみさん本人がしたわけじゃないですし」
「でも、ドッペルゲンガーとかいうやつだったら、本人みたいなものじゃないんですか?」
「いやあ、ちょっと違うんですよ、幽体離脱とは」
 直が言うと、目に見えて彼らはガッカリとした。
 と、1人がポツリと言う。
「あれ、本当にさゆみかなあ」
「ん?どうして?さゆみだったじゃないか」
「いやあ、何となく、声が違ってて……。聞いた事があるんだけど……」
 それを聞いて、他の皆も考えだした。
「ああ。あれじゃないか。さゆみと似た名前の子」
 誰かが言い出した。
「誰ですか?」
「あの子だよ、あの子。ええっと、ほら」
「ああ、ちょっと地味な子」
「ああ、あの子かあ」
 え、誰だ?
 みんながあれだのなんだの言ってると、奇蹟のようにスタッフの1人が名前を思い出した。
「石黒さとみ!」
 それでみんな、「ああ!」とスッキリした顔をする。
「その石黒さとみさんというのは?」
「さゆみと同じ事務所の子ですよ。
 事務所も同じ、名前も似てる。なのにこっちはさっぱりでねえ」
 僕と直は、その石黒さとみさんを訪ねる事にした。

 しかし事務所に訊くと、先月には解雇したという。そしてその前ほぼ1年は、仕事がなかったらしい。
 それでもまだ残っていた書類から住所を教えてもらって訪ねて行くと、想像とは違った形で面会することとなった。
 つまり、彼女は自宅で自殺して、遺体になっていたのだった。



 
 
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