782 / 1,046
整形(1)暴れるモデル
しおりを挟む
スタジオの中は、竜巻が通ったのかと思うくらい無茶苦茶になっていた。セットは壊れ、ライトは倒れ、その他の色んなものが散乱している。
「これはまた……」
片付けと作り直しを想像して、思わず呻く。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「本当に勘弁してもらいたいですよ」
大きな溜め息と共に、プロデューサーが言う。
「申し訳ありませんが、もう1度経緯を説明して頂けませんかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
撮影用スタジオで霊が暴れて器物損壊事件を起こしたという一報が入り、僕と直が来たのだ。
「ここで、CM撮影をしていたんですよ。紅茶のCMで、若手のモデルやタレントがメイドの格好で踊る中、執事の格好の新人人気俳優が、商品名を言って勧めるんですけどね。
ここに、このCMに起用してないモデルの子が来たんですよ。さゆみなんですけどね」
直にチラッと目をやると、直が頷いた。
「今、人気急上昇中のモデルですよねえ」
そうなのか。
「そうそう。やっぱり若いから刑事さんもさゆみきゅんファン?」
さゆみきゅん?
「いやあ、へへへ。それで、どうしましたかあ?」
直は笑って誤魔化し、話を促した。これは、知っているだけでファンではないな。
「今日のCMはさゆみは予定に入ってないって言ったんですよ。入ってないんだから、そう言いますよね」
「言いますよねえ」
「そうしたら、にこにこしてたのが、急に怒り出して、『どうして。言った通りにしたのに』とか言ったと思ったら、辺りの物がひっくり返ったり飛んだりし始めて。
それで皆驚いて、取り敢えずケガをしないようにだけ注意して小さくなってたんですが、『今に見てなさい。私がさゆみになるんだから』ってわけのわからない事を言ったと思ったら、フッと姿が消えたんですよ」
「おお。それで幽霊だと思ったんですねえ」
「ええ。
でもその時は、取り敢えずさゆみの所属事務所に電話をかけまして、さゆみの居場所を訊いたんです。そうしたら、さゆみはその時、別の仕事で今撮影中だって。
マネージャーに確認の電話を入れても、今目の前で撮影してる最中だって」
「なるほどぉ」
「ね。でも取り敢えず普通に警察に電話したんですが、お巡りさんに言ったら、お巡りさんも『陰陽課に言った方がいいかも』って、上の人に話してたんですよ」
その場にいたスタッフはここにいるが、皆、困り果てているような顔をしていた。
「損失、さゆみの事務所に請求できますかね」
「どうでしょうね。さゆみさん本人がしたわけじゃないですし」
「でも、ドッペルゲンガーとかいうやつだったら、本人みたいなものじゃないんですか?」
「いやあ、ちょっと違うんですよ、幽体離脱とは」
直が言うと、目に見えて彼らはガッカリとした。
と、1人がポツリと言う。
「あれ、本当にさゆみかなあ」
「ん?どうして?さゆみだったじゃないか」
「いやあ、何となく、声が違ってて……。聞いた事があるんだけど……」
それを聞いて、他の皆も考えだした。
「ああ。あれじゃないか。さゆみと似た名前の子」
誰かが言い出した。
「誰ですか?」
「あの子だよ、あの子。ええっと、ほら」
「ああ、ちょっと地味な子」
「ああ、あの子かあ」
え、誰だ?
みんながあれだのなんだの言ってると、奇蹟のようにスタッフの1人が名前を思い出した。
「石黒さとみ!」
それでみんな、「ああ!」とスッキリした顔をする。
「その石黒さとみさんというのは?」
「さゆみと同じ事務所の子ですよ。
事務所も同じ、名前も似てる。なのにこっちはさっぱりでねえ」
僕と直は、その石黒さとみさんを訪ねる事にした。
しかし事務所に訊くと、先月には解雇したという。そしてその前ほぼ1年は、仕事がなかったらしい。
それでもまだ残っていた書類から住所を教えてもらって訪ねて行くと、想像とは違った形で面会することとなった。
つまり、彼女は自宅で自殺して、遺体になっていたのだった。
「これはまた……」
片付けと作り直しを想像して、思わず呻く。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「本当に勘弁してもらいたいですよ」
大きな溜め息と共に、プロデューサーが言う。
「申し訳ありませんが、もう1度経緯を説明して頂けませんかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
撮影用スタジオで霊が暴れて器物損壊事件を起こしたという一報が入り、僕と直が来たのだ。
「ここで、CM撮影をしていたんですよ。紅茶のCMで、若手のモデルやタレントがメイドの格好で踊る中、執事の格好の新人人気俳優が、商品名を言って勧めるんですけどね。
ここに、このCMに起用してないモデルの子が来たんですよ。さゆみなんですけどね」
直にチラッと目をやると、直が頷いた。
「今、人気急上昇中のモデルですよねえ」
そうなのか。
「そうそう。やっぱり若いから刑事さんもさゆみきゅんファン?」
さゆみきゅん?
「いやあ、へへへ。それで、どうしましたかあ?」
直は笑って誤魔化し、話を促した。これは、知っているだけでファンではないな。
「今日のCMはさゆみは予定に入ってないって言ったんですよ。入ってないんだから、そう言いますよね」
「言いますよねえ」
「そうしたら、にこにこしてたのが、急に怒り出して、『どうして。言った通りにしたのに』とか言ったと思ったら、辺りの物がひっくり返ったり飛んだりし始めて。
それで皆驚いて、取り敢えずケガをしないようにだけ注意して小さくなってたんですが、『今に見てなさい。私がさゆみになるんだから』ってわけのわからない事を言ったと思ったら、フッと姿が消えたんですよ」
「おお。それで幽霊だと思ったんですねえ」
「ええ。
でもその時は、取り敢えずさゆみの所属事務所に電話をかけまして、さゆみの居場所を訊いたんです。そうしたら、さゆみはその時、別の仕事で今撮影中だって。
マネージャーに確認の電話を入れても、今目の前で撮影してる最中だって」
「なるほどぉ」
「ね。でも取り敢えず普通に警察に電話したんですが、お巡りさんに言ったら、お巡りさんも『陰陽課に言った方がいいかも』って、上の人に話してたんですよ」
その場にいたスタッフはここにいるが、皆、困り果てているような顔をしていた。
「損失、さゆみの事務所に請求できますかね」
「どうでしょうね。さゆみさん本人がしたわけじゃないですし」
「でも、ドッペルゲンガーとかいうやつだったら、本人みたいなものじゃないんですか?」
「いやあ、ちょっと違うんですよ、幽体離脱とは」
直が言うと、目に見えて彼らはガッカリとした。
と、1人がポツリと言う。
「あれ、本当にさゆみかなあ」
「ん?どうして?さゆみだったじゃないか」
「いやあ、何となく、声が違ってて……。聞いた事があるんだけど……」
それを聞いて、他の皆も考えだした。
「ああ。あれじゃないか。さゆみと似た名前の子」
誰かが言い出した。
「誰ですか?」
「あの子だよ、あの子。ええっと、ほら」
「ああ、ちょっと地味な子」
「ああ、あの子かあ」
え、誰だ?
みんながあれだのなんだの言ってると、奇蹟のようにスタッフの1人が名前を思い出した。
「石黒さとみ!」
それでみんな、「ああ!」とスッキリした顔をする。
「その石黒さとみさんというのは?」
「さゆみと同じ事務所の子ですよ。
事務所も同じ、名前も似てる。なのにこっちはさっぱりでねえ」
僕と直は、その石黒さとみさんを訪ねる事にした。
しかし事務所に訊くと、先月には解雇したという。そしてその前ほぼ1年は、仕事がなかったらしい。
それでもまだ残っていた書類から住所を教えてもらって訪ねて行くと、想像とは違った形で面会することとなった。
つまり、彼女は自宅で自殺して、遺体になっていたのだった。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる