体質が変わったので

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吸血鬼の村(2)在外公館警備対策官

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 飛行機を降りて伸びをした。
「やっと着いたねえ」
「長かったなあ」
 長いフライトだった。
 しかし、すぐに移動し、任務だ。
「さあて、いこうか」
「そうだねえ」
 スーツケースを引っ張って、僕と直はまずは大使館の職員と合流するべく歩き出した。

 肩書は、在外公館警備対策官。本来は、海外にある日本の公館の警備に関する事務を行うほか、防諜を担う役目だ。警察官も、警部あたりが出向して勤める事がある。
 しかし今回は、入り込むための方便だ。法人救助の方法は問わないという事なので、中身は自由裁量というありがたいものになっている。
 昔からの日本の友好国で、国民レベルでも、日本人といえば歓迎してくれるお国柄だ。そのせいか、日本企業も進出しており、日本人居住者も多い。
 問題の町は、近くにある大都市のベッドタウンという位置付けの町だった。
 古くて雰囲気のいい建造物も多く残る静かな町なのだが、バリケードに覆われた今は、不気味な空気に包まれていた。
 まあ、中から吸血鬼が出て来て襲い出し、広がって行ったらと怖がる気持ちはわかる。わかるが、やり切れない思いがいっぱいだ。早く解決して、中の人を解放しなければ。
「取り敢えず、食料と水、医薬品、おしめなどを準備してあります」
 ダンボール箱が積まれていた。
「運び入れる時にバリケードを一部開けますが、すぐに閉ざされます。
 車は邦人が集まっている日本人学校に入りますが、現地の邦人以外の人が来る可能性があります」
 どう考えても、その可能性が高いだろうな。
「まずは、日本人を第一にして下さい」
「後で人道的になんとかかんとか叩かれますよ。ましてや、日本に好意的な国ですし」
 職員は軽く目を泳がせ、
「まあ、現場にお任せします」
とひよった。
 まあ、「お任せ」という言質は取ったので、直と医師とトラックに乗り、中へと入った。

 静かだというのが、まず最初の感想だった。
「まずは日本人学校に行きましょう。その後、僕達は調査に入ります」
「わかりました」
 若い医師は緊張の面持ちで応え、
「いやあ、普通の感染症なら対策もわかるので平気なんですが、霊的なものとか言われると、どうしたらいいのかわからなくて……」
と付け加える。
「大丈夫ですよう。ボク達はそっちのプロですからねえ。ねえ、怜」
「ああ。日本人学校から出ない限りは安全なように、結界を張ります。着く前に襲われても、斬りますから」
 話しているうちにトラックは日本人学校に着き、校門の内側で待っていたガードマンが素早く開けた門から中に入った。
 まずは皆で手早く荷物を搬入し、後は、直とグルリと敷地内を歩いて結界を張る。
 霊に侵入されている形跡はない。
 ただし、ヒトの侵入者を見付けた。
 小学生の姉弟がちょうど塀を乗り越えて来た所で、塀の内側が外よりも低くなっているので、飛び降りられずに泣きべそをかいていたのだ。
 降ろしてやって事情を訊くと、父親は仕事に行っている間に封鎖されたので家におらず、母親は近所のおばさんに噛まれて吸血鬼化してしまい、射殺されたという。そしてこの2人は感染を疑われてバスルームに閉じ込められてドアを板で打ち付けられたので、窓から逃げ出して、ここに逃げ込んだらしい。
「怖かったなあ。ここの人に事情を説明してやるから心配しなくてもいいぞ」
「お腹空いたねえ。それに寒かったねえ」
 2人共、薄い部屋着のみで、先程からお腹が鳴っている。
「名前を訊いてなかったな」
 すると姉の方がまず、
「マリナ。10歳よ」
と言い、弟がまだ警戒しながら、
「ニコ。7歳」
と言う。
「そうか。僕の甥も今7歳なんだ。同じだな。敬っていう名前で、星が好きなんだよ」
 するとニコも顔を上げて笑った。
「ケイ?ぼくも星が好き!パパの望遠鏡で、よく星を見に行くんだ!」
「へえ、楽しそうだな」
「私は刺繍が得意よ!お人形の服に、自分だけの刺繍をするの!」
 マリナも笑ってそう言う。
「ボクの娘が聞いたら羨ましがるよう。人形が大好きでねえ」
 やっと警戒を解いた2人を連れて、僕達は邦人の集まる教室に行った。
 最初は警戒していた人もいたが、僕と直が、
「視ましたが、大丈夫です」
と断言すると、2人を受け入れてくれ、世話を買って出てくれた。
「さあて。結界は張ったねえ」
「じゃあ、調査にかかるか」
 僕と直は、次の段階に入る事にした。



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