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成長(3)疑似出産
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袴井家の前にいると、突然、大きく気配が生じ、膨れ上がるのを感じた。
「直!」
「うん!」
ドアチャイムを鳴らし、「どうぞ」の声も待たずに、鍵が開いていたのを幸いと中に上がり込む。
するとダイニングキッチンで、倒れかかっている則子さんを抱きとめる形で、パニックそのものといった感じの優斗さんが助けを求めるような顔で僕と直の方を見た。
「妻が!」
「大丈夫ですよう」
直が穏やかに話しかける。
胎児の霊が則子さんに憑いているのはいるのだが、則子さんの内部にいるようだ。
「この2日で急に、妻が痩せて、お腹が膨らんで。あの、この前流産したんですけど、CT写真の子供が大きく成長してて、妻が、戻って来たって。破水したかもって」
混乱しているのがよくわかるが、何となく事情もわかった。
「わかりました。
聞こえますか。警視庁陰陽課の御崎です」
「同じく町田ですう」
則子さんは、わずかに顎を引いた。意識はあるが、体力が限界らしい。
僕は優斗さんに訊いた。
「お子さんが、お母さんにしがみついて、お母さんのお腹から生まれたがっているんでしょう。それと引き換えに、奥さんの生命力を奪っているんです。
このままでは、どちらにとっても不幸です。祓いますが、よろしいですね」
「は、はい!」
則子さんは何かを訴えるように目を開いたが、優斗さんが重ねて、
「お願いします」
ときっぱりと言う。
「わかりました。
直、祓う。引き剥がしたらすぐに、そっちを頼む」
「りょうかーい」
僕は則子さんの腹部に手を当てて、浄力を当てた。
「ああっ」
驚いたような顔で則子さんが声を上げると同時に、則子さんの体内で実体を得始めていた胎児の霊は、産道をズルリと通って外に出て来た。
幸い、本当の嬰児ではないからか、体組織ができていないようで、全体的にぐにゃりと柔らかいらしく、産道を体を細くして通り抜けたらしい。そのせいで、本来の出産ではあるはずの陣痛も出血も何も無かった。
「残念だが、君はここにいてはいけない」
嬰児は徐々に体を人の形に寄せて行っているが、今はわけのわからない長いものだ。
優斗さんと則子さんは揃って直の札で眠り込んでいる。
もし見ていたら、ショックで、もう子供を産むのが怖くなるかもしれないからなあ。
嬰児は敵意いっぱいに僕を見ている。
「お母さんの悲しみが君を引き留めてしまったんだろうな。
でも、ここにいるわけにはいかない」
嬰児は両親を見た。
「お父さんとお母さんの子として、生まれ直しておいで」
嬰児は手を両親に伸ばし、悲し気に僕を見上げ、直を見た。
「その方が、いいねえ」
「お父さんとお母さんも、待っててくれるから」
嬰児は一声、
あああ……!
と泣き声を上げ、形を崩して立ち昇って行った。
病院で目覚めた袴井さん達は、まさに憑きものが落ちたようになっていた。
「あれは、何だったんでしょうか」
「悲しみと、お子さんの別れの気持ちが起こしたものでしょうかねえ。無事に成仏しましたから、心配はないですよう。これ以上悲しまないでくれって、また、子供になってちゃんと戻って来たいって、そう言いたかったんじゃないですかねえ」
これが、僕と直が考えた穏便な解釈だ。
袴井さん達はしばらく泣いていたが、やがてスッキリしたような顔で、言った。
「はい。そうですね。今度はちゃんと」
「俺達がいつまでもメソメソしていたら、戻って来られないですよね」
良かった。前向きになったらしい。
「不思議です。夢の中で、産声を訊いたような気がしたんですよねえ」
優斗さんが言って、則子さんと顔を見合わせて小さく笑った。
「直!」
「うん!」
ドアチャイムを鳴らし、「どうぞ」の声も待たずに、鍵が開いていたのを幸いと中に上がり込む。
するとダイニングキッチンで、倒れかかっている則子さんを抱きとめる形で、パニックそのものといった感じの優斗さんが助けを求めるような顔で僕と直の方を見た。
「妻が!」
「大丈夫ですよう」
直が穏やかに話しかける。
胎児の霊が則子さんに憑いているのはいるのだが、則子さんの内部にいるようだ。
「この2日で急に、妻が痩せて、お腹が膨らんで。あの、この前流産したんですけど、CT写真の子供が大きく成長してて、妻が、戻って来たって。破水したかもって」
混乱しているのがよくわかるが、何となく事情もわかった。
「わかりました。
聞こえますか。警視庁陰陽課の御崎です」
「同じく町田ですう」
則子さんは、わずかに顎を引いた。意識はあるが、体力が限界らしい。
僕は優斗さんに訊いた。
「お子さんが、お母さんにしがみついて、お母さんのお腹から生まれたがっているんでしょう。それと引き換えに、奥さんの生命力を奪っているんです。
このままでは、どちらにとっても不幸です。祓いますが、よろしいですね」
「は、はい!」
則子さんは何かを訴えるように目を開いたが、優斗さんが重ねて、
「お願いします」
ときっぱりと言う。
「わかりました。
直、祓う。引き剥がしたらすぐに、そっちを頼む」
「りょうかーい」
僕は則子さんの腹部に手を当てて、浄力を当てた。
「ああっ」
驚いたような顔で則子さんが声を上げると同時に、則子さんの体内で実体を得始めていた胎児の霊は、産道をズルリと通って外に出て来た。
幸い、本当の嬰児ではないからか、体組織ができていないようで、全体的にぐにゃりと柔らかいらしく、産道を体を細くして通り抜けたらしい。そのせいで、本来の出産ではあるはずの陣痛も出血も何も無かった。
「残念だが、君はここにいてはいけない」
嬰児は徐々に体を人の形に寄せて行っているが、今はわけのわからない長いものだ。
優斗さんと則子さんは揃って直の札で眠り込んでいる。
もし見ていたら、ショックで、もう子供を産むのが怖くなるかもしれないからなあ。
嬰児は敵意いっぱいに僕を見ている。
「お母さんの悲しみが君を引き留めてしまったんだろうな。
でも、ここにいるわけにはいかない」
嬰児は両親を見た。
「お父さんとお母さんの子として、生まれ直しておいで」
嬰児は手を両親に伸ばし、悲し気に僕を見上げ、直を見た。
「その方が、いいねえ」
「お父さんとお母さんも、待っててくれるから」
嬰児は一声、
あああ……!
と泣き声を上げ、形を崩して立ち昇って行った。
病院で目覚めた袴井さん達は、まさに憑きものが落ちたようになっていた。
「あれは、何だったんでしょうか」
「悲しみと、お子さんの別れの気持ちが起こしたものでしょうかねえ。無事に成仏しましたから、心配はないですよう。これ以上悲しまないでくれって、また、子供になってちゃんと戻って来たいって、そう言いたかったんじゃないですかねえ」
これが、僕と直が考えた穏便な解釈だ。
袴井さん達はしばらく泣いていたが、やがてスッキリしたような顔で、言った。
「はい。そうですね。今度はちゃんと」
「俺達がいつまでもメソメソしていたら、戻って来られないですよね」
良かった。前向きになったらしい。
「不思議です。夢の中で、産声を訊いたような気がしたんですよねえ」
優斗さんが言って、則子さんと顔を見合わせて小さく笑った。
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