体質が変わったので

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家出(4)儀式

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 迎えに来た女は20代初めの地味な感じの普通の人で、モリモリこと森安智子もりやすともこは早々に警戒を解いた。
 そして、乗り込んだ車がしばらく走ってから着いたのは、かなり寂しい郊外の大きくて古い家だった。
「さあ、ここよ」
 女は言って、玄関の方に誘う。
「お邪魔します」
 智子は後に続いて玄関に入り、そこで足を止めた。何となく暗くて、じめっと澱んだような空気が漂っていた。
「どうぞ」
 しかし女は笑顔で上がるように勧め、玄関の戸をしっかりと閉めてしまう。
 ここを出ても行くところもないし、それ以前に、駅までかなりあったので、戻るのも難しい。そう思い、智子は予定通りに1晩泊めてもらう事にした。
 廊下を進んで奥の和室に案内され、古い座卓の前に座って部屋を出た女が戻るのを待つ。
 部屋数も多そうだし、部屋も広い。床の間には掛け軸のようなものもかかっており、よくわからないながらも、ここは由緒ある家なのではないかと智子は思った。
 と、お盆にお茶椀を乗せて女が戻って来た。
「さあ、どうぞ」
「いただきます」
 熱いお茶は、苦みがあった。
「モリモリさんは、中学生なのよね」
「はい。2年生です」
「病気とかはない?」
 チラッと、変な事を訊くなあ、とは思ったが、夕飯を作るのにアレルギーでもあったら困るという意味かと解釈した。
「健康そのものですよ」
「そう。それは良かったわ」
 女と智子はにっこりと笑い合った。
 が、智子は違和感を感じた。頭がクラッとし、舌がもつれるようだ。そして、やけに眠い。
「あれ……?」
 体がゆっくりと横倒しになって行く。
 それを女は笑顔のまま見ている。
「何か、変」
 そう言ったつもりだが、耳に入ったのは、唸り声のようなものだった。
 と、襖が開いて、隣の部屋から女よりも2歳くらい年上の男が現れた。白ずくめの神職のような恰好だ。
「今度こそ、成功させてやる」
「ええ、兄さん」
 2人は智子の上半身と足を持って隣の部屋へと移動する。そこには大きな祭壇のようなものが壁際にあり、その前に、智子は下ろされた。
 そこで女は部屋を出て、男が、祭壇のろうそくに火を点け、部屋の四隅に置いた香炉に火を入れる。
 独特の匂いが漂い始めた頃に、女が、男と同じ白ずくめの神職のような恰好で戻って来た。
「始めるぞ」
「ええ」
 智子は、わけが分からないなりに、やばいと焦った。
 2人が経文のようなものを唱え始め、香炉から立ち昇った煙が部屋に充満し始めると、重力が増したかのような重苦しい感じがした。
 そして、煙が渦を巻き、人の形を取った。
 それは智子を見下ろすと、智子に覆いかぶさるようにし、智子は喉が張り裂けそうなほどに絶叫した。

 僕達は、車の入って行った家を窺っていた。
「ここには、貝守かいもりという人が住んでいるそうです。今は要介ようすけ鈴音すずねの兄妹2人ですが、去年までは祖母が一緒だったそうです。それが、いつの間にか亡くなっていたらしいです」
「今、何をして生計を立てているのか、全くわからないそうです」
 近所へ話を訊きに行っていた宮田さんと河合さんが戻って来てそう報告する。
「奥の座敷に変な祭壇が作ってあって、何か儀式めいた事を始めたぞ」
 目を通して見えたものを、僕は皆に伝えている。
「あ、何か霊を呼び出した」
「まさか、降霊術かねえ?」
「そういえば、幽霊に憑依させられるとか何とか言ってたな、あの被害者」
 僕と直は顔を見合わせ、次の瞬間、中に飛び込んで行った。
 同時に、家の中から黒くて重い気配がし、女の子の絶叫が響き渡った。
「失礼しますよ」
「何かありましたかねえ。悲鳴がしたんですがねえ」
 形式的に言いながら、奥へと急ぐ。
 踏み込んだ座敷では、悪霊としか言いようのない霊が現れ、寝ている女の子と白ずくめの袴の男女を睥睨していた。




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