体質が変わったので

JUN

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終わらない肝試し(4)恐怖と期待

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 赤嶺さんが、心ここにあらずといった様子で建物内に入って来る。
「赤嶺さん!」
 念のために渡しておいた札はどうしたのか。
「着替えた時に離してそのままとかかねえ。札を手放さないように、何か考えないとだめかねえ」
「すぐにまたポケットに入れるとか、袋に入れて首から下げるとか、その辺は自分でしてくれないとなあ」
「まあねえ。面倒見切れないよねえ」
 言いながら、赤嶺さんのそばへ行き、揺さぶり、パンと肩を叩いて正気に返す。
「え。あれ?」
 赤嶺さんはキョトンとしてから辺りを見回し、そこが昨夜訪れた病院とわかると、慌て出した。
「離れないようにしてくださいねえ」
 言って、辺りを見る。

     来た 来た 3人もいるよ
     次に退院するのは私だったよね
     俺はその次だ
     ああ これで家に帰れる

 霊達が口々に言い合う。
 しかし赤嶺さんは見えないし聞こえないようで、僕と直の様子から何かあると思って警戒していた。
「赤嶺さんを呼んだのはあなた達ですか」

     そうよ

「なぜ赤嶺さんを?それに、他の3人を怖がらせたのは?」

     私達を見える人の方が憑りつきやすいでしょ
     だから 体を貰って退院するの
     あの3人を脅したのは あの人達自身が生み出した恐怖
     恐怖が集まって 想像したものを見せただけ
 
 肝試しに来る人達の恐怖と期待の念が溜まったものか。薄っぺらく感じるものは、そういうものらしい。
「残念だが、退院させてやれそうにないですね。僕と相棒は、大人しく憑依されてやるほど暇じゃない」
 霊達は、口々に怒って騒ぎ始めた。
「え、何?何なんですか?」
 赤嶺さんが言うと、それを見た霊がまた騒ぐ。

     見えてないの?
     見えるふりをしていただけか
     嘘つき 許さない

 ザワザワと気配が殺気立ち、何となく赤嶺さんも不穏なものを感じるようだ。直にくっついて、不安そうに小さくなる。
 その前で、本物の霊と念がひとつになり、実体化した。
「うわあっ!」
「離れないでいて下さいねえ」
「ははははいっ!」
 赤嶺さんの斜め前に直が立ち、僕は、もう数歩実体化した霊に近付いて刀を出す。

     カエリタイ 
     カラダガイル
     ケンコウナカラダガホシイ

     コワイモノヲミタイノダロウ
     コワイオモイヲシタイノダロウ
     ツギハ コロサレルキョウフヲ

 なるほど。肝試しに来る人の心理としては、何かあったら怖いと思う反面、何もなかったらつまらないというものらしい。ほどよく怖い感じがいいのだろう。
 が、そんな都合よくはいかない。
 それで、ここを訪れた人達の恐怖と期待感だけがここに残り続けて、こうなったというわけか。
 人の都合で生み出されたものと言えるだろうが、いたずらの範疇を超えると、看過できない。
「祓います」

     シネ
     トリツカセロ
     オマエモナカマニナレ

 力自体は大した事もない。刀の一振りでそれは崩れ、蒸発していくように消えて行った。
 それを見ていた赤嶺さんは、腰を抜かしたように座り込んだ。

 確かに、入院中に亡くなってここに残ってしまった霊はいたが、肝試しに来た人達が強い恐怖と期待をここに置いて帰り、こういう事になっていたようだ。
「人が心霊スポットを作り上げたという事か」
「強い念って、大したもんだよねえ」
 僕と直は、しみじみと言い合った。
「という事は、全国の心霊スポットも適当に浄化しないと、成長というか、悪の巣窟化というか、そうなってくるのかねえ?」
「うわあ、面倒臭い」
「もう早く肝試しシーズン、終わらないかねえ」
 お化け屋敷のポスターを見ながら、僕と直は溜め息をついたのだった。



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